発売日: 2009年3月9日
ジャンル: エレクトロポップ、アートロック、ダンスパンク
アルバム全体の印象
『It’s Blitz!』は、Yeah Yeah Yeahsがバンドとして大きな方向転換を遂げたアルバムだ。これまでのギター主体の荒々しいガレージロックから離れ、シンセサイザーを中心としたエレクトロポップやダンスミュージックの要素を大胆に取り入れている。特に「Zero」や「Heads Will Roll」といったシングルは、クラブシーンにも馴染むダンサブルなトラックとして人気を博し、バンドの新たな可能性を切り開いた。
デイヴ・シティックのプロデュースは、バンドの進化を音響面で支える重要な役割を果たしており、洗練されたサウンドスケープが特徴的だ。カレン・Oのボーカルも、これまで以上に多様性を見せ、力強いパフォーマンスから繊細で感情的なアプローチまで、幅広い表現を披露している。
『It’s Blitz!』は、単なる音楽的変化ではなく、バンドのアイデンティティを再構築する作品だ。その結果、Yeah Yeah Yeahsはロックバンドとしての枠を超え、ジャンルを超えたクリエイティブな存在となった。エネルギーと感情、ダンスと内省が交差するこのアルバムは、リスナーに新たな発見をもたらす体験である。
トラックごとの解説
1. Zero
アルバムの幕開けを飾るリードシングルで、シンセサイザーが前面に出たダンサブルなトラック。イントロのビートから引き込まれるエネルギッシュな楽曲で、「Get your leather on」と歌うカレン・Oが、自由と自己表現を促すメッセージを放つ。クラブでも映える一曲。
2. Heads Will Roll
エレクトロポップとロックが融合した、アルバムを代表する一曲。「Off with your head / Dance till you’re dead」という歌詞がリフレインされる中、シンセのリフが中毒性を生む。パーティーアンセムとしての完成度が高い。
3. Soft Shock
これまでの激しさとは異なる、柔らかいトラック。優雅なシンセサウンドとカレン・Oの繊細な歌声が楽曲を包み込み、ロマンチックな雰囲気を醸し出している。新しいYeah Yeah Yeahsの一面を垣間見ることができる。
4. Skeletons
静寂とスリリングさを兼ね備えた楽曲で、映画的な広がりを感じさせるアレンジが特徴的。カレン・Oの歌声は幽玄で、詩的な歌詞が楽曲に神秘的な深みを与えている。
5. Dull Life
ロックとエレクトロが見事に融合したトラックで、曲が進むにつれてエネルギーが増幅していくダイナミックな構成が印象的。バンドの過去作との架け橋となるようなサウンドが感じられる。
6. Shame and Fortune
メタリックな質感のギターリフが主導する楽曲。シンセサウンドの中に、Yeah Yeah Yeahsらしいパンクの要素が垣間見える。繰り返されるビートが徐々に高揚感を生む一曲。
7. Runaway
ピアノをフィーチャーした感傷的なトラックで、アルバムの中でも特に内省的な一曲。カレン・Oのボーカルが楽曲の感情的な中心を担い、リスナーに深い印象を残す。
8. Dragon Queen
ファンキーなリズムが心地よい楽曲で、軽やかな雰囲気が漂う。シンセのメロディラインとカレン・Oのリラックスした歌い方が新鮮だ。
9. Hysteric
メロディックで感傷的な楽曲で、アルバムの中でも特に美しい一曲。「You suddenly complete me」という歌詞が愛情の深さと切なさを表現している。シンセポップの中にオーガニックな要素が融合したサウンドが魅力的だ。
10. Little Shadow
アルバムの締めくくりにふさわしい繊細なバラード。カレン・Oの柔らかな歌声とシンプルなアレンジが、楽曲に優しい余韻を与えている。静かなエンディングがアルバム全体を穏やかにまとめ上げている。
アルバム総評
『It’s Blitz!』は、Yeah Yeah Yeahsの新たな方向性を示す転機となる作品だ。シンセサイザーを中心に据えたサウンドが新鮮で、ロックの枠に収まらない自由な表現が印象的である。一方で、「Hysteric」や「Little Shadow」のような感情的な楽曲も収録されており、アルバム全体を通してのバランスも見事。
『Fever to Tell』や『Show Your Bones』の荒々しいエネルギーを懐かしく思うファンにとっては、最初は驚きがあるかもしれない。しかし、聴き込むほどにバンドの進化と深みが感じられ、エレクトロポップへのシフトが自然であることがわかる。ダンスフロアで響くビートから、静かなバラードまで、多様な要素が一体となった傑作である。
このアルバムが好きな人におすすめの5枚
Fever Ray by Fever Ray
エレクトロと感情的な表現を融合したアルバムで、『It’s Blitz!』のシンセサウンドが好きなリスナーにおすすめ。
Silent Shout by The Knife
ダークでミステリアスなエレクトロポップが、『It’s Blitz!』の実験的な一面と響き合う。
Anniemal by Annie
ダンサブルでキャッチーなエレクトロポップが特徴。Yeah Yeah Yeahsの新しい方向性を楽しむ人にぴったり。
Hot Fuss by The Killers
エレクトロポップとロックを融合したデビュー作。Yeah Yeah Yeahsのダンスフロア向けの楽曲が好きな人におすすめ。
Metronomy Forever by Metronomy
ノスタルジックでカラフルなエレクトロポップ。アルバム全体を通じたメロディのセンスが『It’s Blitz!』と共通している。
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