発売日: 1999年11月8日
ジャンル: ポップ、ダンス・ポップ、R&B
概要
『Invincible』は、イギリスのボーイバンドFiveが1999年に発表したセカンド・アルバムであり、デビュー作の勢いを維持しつつも、より成熟した音楽性と大胆な実験性を内包した重要作である。
世界的にボーイバンド・ブームが頂点を迎える中、Fiveはその“型”に収まることなく、ラップ、ロック、R&Bの要素を融合させたハイブリッドなポップサウンドを展開し、ユニークな地位を確立していった。
本作はUKチャートで1位を獲得し、ダブル・プラチナを記録。前作に比べてプロダクションの厚みが増し、特に編曲やコーラスワークにおいては洗練された印象を残している。
プロデューサー陣には、Simon Cowell体制のもと、リチャード・“Biff”・スタナードやジュリアン・ギャラガーといった実力派が揃い、ポップスの黄金方程式と彼ら自身の個性を巧みに融合させた。
この時期のFiveは、ただのアイドルではなく、“音楽的ユニット”としての評価を得はじめていた。『Invincible』は、そんな過渡期の躍動を最も鮮やかに刻んだアルバムである。
全曲レビュー
If Ya Gettin’ Down
アルバムの幕開けを飾る、強烈なファンク・ポップ・ナンバー。
インドの映画音楽をサンプリングした独特なリズムに、ラップとコーラスが折り重なり、アグレッシブかつキャッチーな一曲に仕上がっている。
「Do ya wanna get funky?」の煽りは、Fiveらしいエンタメ性の象徴だ。
Keep on Movin’
ポジティブなメッセージと共に、グループ最大のヒット曲となった名バラード。
「立ち止まらずに進もう」という歌詞は、10代だけでなく幅広い世代の共感を呼び、UKチャートでは1位を獲得した。
希望に満ちたサビのメロディが、今なお記憶に残る。
Don’t Wanna Let You Go
ミステリアスなイントロと電子音で始まるエレクトロ・ポップ。
“愛する人を失いたくない”という繊細な感情が、サウンドにも歌詞にも織り込まれており、Fiveの感傷的な側面が際立つ。
ビジュアルも含め、Y2K的未来観を先取りした一曲である。
We Will Rock You (feat. Queen)
Queenとの公式コラボによるカバーは、当時としては異例の出来事。
原曲の骨太なロック感はそのままに、Fiveらしいラップとコーラスが加わることで、新世代への架け橋のような意味合いを帯びている。
この大胆な挑戦こそが、Fiveの“ボーイバンド”という枠を超えた証明でもあった。
Two Sides to Every Story
ラップ・パートとハーモニーが交互に現れる、緊張感のあるR&Bナンバー。
恋愛のすれ違いをテーマにしつつも、全体としてはスタイリッシュに仕上がっている。
楽曲構成も意欲的で、アルバム中でも異彩を放つ存在だ。
You Make Me a Better Man
抑えたアコースティック・ギターが印象的なラブソング。
ストレートな告白の歌詞と、ヴォーカルの繊細な表現が美しく重なり、アルバムの静的なハイライトといえる。
Fiveのバラードは“泣き”に特化しがちだが、この曲は大人びた静けさを持っている。
It’s Alright
80年代的なシンセポップの影響を感じさせる軽快なナンバー。
歌詞は“きっと大丈夫”という安心感を与える内容で、アルバム全体のトーンにポジティブさを添えている。
Serious
ややダークなビートに乗せて、執着にも似た愛情を綴るR&Bトラック。
タイトル通り、“本気の恋”を語るシリアスな内容で、Fiveの新たな感情表現の引き出しを見せた一曲。
Invincible
タイトル・トラックであり、自己肯定と連帯感を高らかに歌い上げるアンセム的な楽曲。
曲構成はシンプルながら、メッセージ性が強く、コンサートでも盛り上がる定番曲となった。
まさにアルバムの核心を成す存在である。
How Do Ya Feel
夜明けのように静かに始まる内省的なバラード。
ラストに向かって徐々に盛り上がる展開が感動的で、アルバムの締めくくりとしての機能を果たしている。
総評
『Invincible』は、Fiveというグループが“単なるアイドル”から“音楽的主体”へと成長した証しである。
デビュー作の“やんちゃさ”や“勢い”は残しつつも、全体的に音楽的なスケールと深みが増している。
特にバラード曲においては、単なるティーンポップの枠を超え、感情表現の厚みを感じさせるようになった。
また、“We Will Rock You”のようなロックとの融合、“Don’t Wanna Let You Go”の未来的サウンドなど、多彩なスタイルを取り込みながら、あくまでFiveらしいポップ感を保ち続けているのが印象的である。
歌詞面でも“成長”“自己肯定”“愛の成熟”といったテーマが随所に現れ、当時のファン層がそのまま年齢を重ねて聴き続けられるアルバムになっている。
まさに、ボーイバンドの“第二章”を開いた作品であり、Fiveのディスコグラフィの中でも音楽的完成度と影響力の両面で頂点をなす一作といえるだろう。
おすすめアルバム（5枚）
- Westlife『Coast to Coast』
同時代のUKボーイバンドによるバラード中心の作品で、Fiveのエネルギッシュさとの対比が際立つ。 - *NSYNC『Celebrity』
ポップとR&Bの融合を追求したアルバムで、『Invincible』と通じるサウンドの進化が見られる。 - Blue『One Love』
よりソウルフルなアプローチをとったUKボーイバンド。成熟した男性ヴォーカル・ハーモニーが鍵。 - BBMak『Sooner or Later』
アコースティック寄りのスタイルで、Fiveのポップ路線との対比が興味深い。 -
Take That『Beautiful World』
再結成後の作品で、Fiveのその後の道のりや再評価と重ねて聴くと感慨深い。
6. 制作の裏側（Behind the Scenes）
『Invincible』のレコーディングは、ロンドンのMetropolis Studiosを中心に行われた。
前作に比べ、よりグローバル市場を意識した音作りが求められ、アメリカのプロデューサーとのリモート連携も導入された。
特筆すべきは、Queenとのコラボレーション。
「We Will Rock You」は単なるカバーではなく、ブライアン・メイとロジャー・テイラーが直接参加し、ラップパートとの融合を念頭に再アレンジが行われた。
また、メンバー自身も作詞作曲に部分的に関わるようになり、アーティストとしての意識が芽生えた重要なターニングポイントとなった。
当初は収録予定だったが未発表となった楽曲も多く、後年リイシューやベスト盤にて日の目を見たものもある。
アルバム制作全体が、商業性と芸術性の狭間で葛藤するプロセスだったことが伺える。
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