
発売日: 1969年9月11日
ジャンル: ブルースロック、ソウル、R&B
自由奔放なサイケデリック・ロックから、深みを増したブルース&ソウルへ—Janis Joplinのソロデビュー作
1969年にリリースされたI Got Dem Ol’ Kozmic Blues Again Mama!は、Janis JoplinがBig Brother and the Holding Companyを脱退し、初めてソロアーティストとして発表したアルバムである。前作Cheap Thrills(1968年)で爆発的な成功を収めたJoplinは、サンフランシスコのサイケデリック・ロックシーンから離れ、よりブルース、ソウル、R&Bの影響を色濃く反映した新しい音楽性を追求することとなった。
本作では、ブラスセクションを導入し、サザンソウルのエッセンスを加えたバンド「Kozmic Blues Band」を率いて制作。従来のサイケデリックな要素よりも、Otis ReddingやEtta Jamesといったブラックミュージックの影響が強く表れた作品となっている。彼女の特徴的なシャウトはそのままに、よりエモーショナルな歌唱が際立ち、深みを増したサウンドがアルバム全体を貫いている。
商業的にはCheap Thrillsほどの成功には至らなかったが、Joplinの新たな表現スタイルを確立した作品として評価され、後のソロアルバムPearl(1971年)へと繋がる重要な一歩となった。
全曲レビュー
1. Try (Just a Little Bit Harder)
アルバムのオープニングを飾る、エネルギッシュなブルースロックナンバー。Joplinの情熱的なボーカルと、ブラスセクションが絡み合い、彼女の新しい音楽的アプローチを明確に示す一曲。愛を求め、もがく女性の心情を描いた歌詞が、彼女のシャウトと完璧にマッチしている。
2. Maybe
The ChantelsのR&Bクラシックをカバー。オリジナルの甘美なメロディに、Joplinのソウルフルなボーカルが加わることで、より切実な愛の叫びへと昇華されている。彼女のブルース的表現力が光る名演。
3. One Good Man
Joplin自身が作詞作曲を手掛けたブルースロックトラック。シンプルなギターリフに乗せて、「私にはたった一人の良い男がいればいい」と力強く歌い上げる。彼女のパーソナルな思いが詰まった楽曲であり、バンドのグルーヴィーな演奏も際立つ。
4. As Good as You’ve Been to This World
ジャムセッションのような雰囲気を持つ、ファンク色の強いナンバー。オルガンとホーンが絡み合い、Joplinの声がバンドと一体化する。本作の中でも特にライブ感が強い楽曲。
5. To Love Somebody
Bee GeesのバラードをJoplin流にアレンジしたカバー。オリジナルのメロディを尊重しつつ、彼女特有のソウルフルな歌唱でよりドラマティックな仕上がりとなっている。失われた愛の痛みがストレートに伝わる名曲。
6. Kozmic Blues
アルバムのタイトル曲にして、Joplinの代表曲の一つ。ジャジーなホーンセクションと、ブルージーなギターが絡むスローなナンバー。彼女の魂の叫びが最も深く響く楽曲であり、孤独や人生の苦しみを歌った歌詞が印象的。
7. Little Girl Blue
Rodgers & Hartのスタンダードナンバーをカバー。ピアノ主体のシンプルなアレンジが、Joplinの繊細なボーカルを際立たせる。彼女の感情表現の幅広さを感じることができる楽曲。
8. Work Me, Lord
アルバムを締めくくるスローブルース。内面的な苦悩と希望をテーマにした歌詞が、Joplinの叫びとともにリスナーの心に突き刺さる。壮絶なクライマックスへと向かう展開は圧巻。
総評
I Got Dem Ol’ Kozmic Blues Again Mama!は、Janis Joplinがロックアイコンから本格的なブルース/ソウルシンガーへと進化した過程を捉えた作品である。前作Cheap Thrillsの荒々しいサイケデリックロックとは異なり、ブラスセクションやオルガンを取り入れたソウルフルなサウンドが特徴的で、より洗練された音楽性を追求している。
特に「Kozmic Blues」や「To Love Somebody」「Maybe」などは、Joplinの感情の込められた歌唱が最大限に発揮されており、彼女がブルースやソウルにどれほど深い愛情を抱いていたかが伝わる。
一方で、Big Brother and the Holding Company時代のサイケデリックな爆発力を期待していたファンには賛否が分かれた。しかし、本作はJoplinがアーティストとしてより成熟し、自己の音楽を探求した重要なステップであり、後の名作Pearlへと繋がる貴重な記録でもある。
結果的に、I Got Dem Ol’ Kozmic Blues Again Mama!はJanis Joplinのキャリアの中で過渡期の作品でありながらも、彼女の本質を深く掘り下げた意欲作として、現在でも高い評価を得ている。
おすすめアルバム
- Janis Joplin – Pearl (1971)
- Joplinの集大成とも言える名盤。「Me and Bobby McGee」「Mercedes Benz」などの代表曲を収録。
- Etta James – Tell Mama (1968)
- Joplinが影響を受けたシンガーの名盤。サザンソウルの要素が強く、本作と共通点が多い。
- Big Brother and the Holding Company – Cheap Thrills (1968)
- Joplinの初期のサイケデリックロックスタイルを知るために必聴。
- Otis Redding – The Dock of the Bay (1968)
- Joplinが崇拝したソウルシンガーの代表作。ブルースとソウルの融合が魅力。
- Aretha Franklin – Lady Soul (1968)
- ソウルの女王Aretha Franklinの名盤。Joplinの歌唱スタイルと比較すると興味深い。
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- ソウルの女王Aretha Franklinの名盤。Joplinの歌唱スタイルと比較すると興味深い。
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