
発売日: 2019年4月26日
ジャンル: ポップロック、エレクトロポップ、アダルト・ポップ、R&B
概要
『Hurts 2B Human』は、P!nk が2019年に発表した8作目のアルバムであり、
“人間であることの痛みと美しさ” を真正面から描いた、
深く内省的で成熟した作品である。
前作『Beautiful Trauma』(2017)の大成功を受けて制作された本作は、
より静かで、よりパーソナルで、よりエモーショナル。
これまでのP!nkにあった毒気やパンク的エネルギーは少し影を潜め、
代わりに “弱さを抱えたまま生きる強さ” が中心に置かれている。
また、コラボレーションが非常に多彩で、
– Khalid
– Chris Stapleton
– Wrabel
– Cash Cash
– Beck
など、ジャンルを超えたアーティストが多数参加。
プロデュース陣も Max Martin、Shellback、Greg Kurstin らをはじめ
豪華クリエイターが集結し、
エレクトロポップからアコースティック、R&Bまで
幅広い音像が丁寧にまとめられている。
テーマは、
不安、孤独、喪失、愛、依存、回復、他者への信頼。
P!nkが長年歌ってきた“強さ”は健在だが、
その裏にある“壊れやすい心”がより強く前面に出ている。
全曲レビュー
1. Hustle
軽やかでソウルフルなアップテンポ。
“舐められてたまるか”というP!nkらしい強気のメッセージが痛快で、
アルバムの導入として明るいエネルギーを放つ。
2. (Hey Why) Miss You Sometime
エレクトロポップ寄りの煌びやかなサウンド。
恋の未練と怒りが同時に揺れる、感情の複雑さを表現した一曲。
3. Walk Me Home
アルバムの中心となる大ヒット曲。
壮大なアレンジと高揚するメロディが美しく、
“不安な夜に誰かに寄り添ってほしい”という脆い願いが胸を打つ。
4. My Attic
静かなアコースティック曲。
“心の屋根裏”にしまってある痛みや秘密を
そっと開示するような繊細な歌唱が印象的。
5. 90 Days (feat. Wrabel)
別れの予感と不安に苛まれる関係を描くデュエット。
P!nk と Wrabel の親密な化学反応が見事で、
アルバムでもっとも感情が剥き出しの一曲。
6. Hurts 2B Human (feat. Khalid)
タイトル曲にして、アルバムの核心。
“Khalidの透明感 × P!nkの温度” が美しく交差し、
“人間であることは痛むものだ”という普遍的テーマを優しく包み込む。
7. Can We Pretend (feat. Cash Cash)
EDMとポップの融合。
“現実を忘れて少しだけ夢を見たい”
という軽やかな逃避のテーマがダンスビートに乗る。
8. Courage
P!nkの真骨頂ともいえるパワーバラード。
孤独と恐怖の中でも“勇気”を探す姿が力強く、
歌唱力の凄みが際立つ。
9. Happy
自己嫌悪と自己受容をテーマにした深い一曲。
“どうして自分を好きになれないの?”という率直すぎる問いかけが刺さる。
10. We Could Have It All
R&B寄りのグルーヴを持つ楽曲。
過ぎ去った関係への未練と怒りが交差し、
感情のリアルさが光る。
11. Love Me Anyway (feat. Chris Stapleton)
アルバム随一の名バラード。
Chris Stapleton の存在感が圧巻で、
カントリーの深い情緒とP!nkの声が完璧に溶け合う。
12. Circle Game
人生の移り変わりを穏やかに見つめる曲。
子育てと時間の流れというテーマが優しく響く。
13. The Last Song of Your Life
静かで美しい余韻を持つラストトラック。
“人生最後の歌があるとしたら何を歌う?”という
哲学的な問いと温かな希望に満ちている。
総評
『Hurts 2B Human』は、P!nk のディスコグラフィの中でも
もっとも“感情の陰影”が濃いアルバムである。
『The Truth About Love』や『Funhouse』のような派手な爆発力よりも、
静かな痛み・弱さ・孤独・希望の光 が中心に据えられており、
大人になったP!nkの人間性が濃密に刻まれている。
特に、コラボ楽曲の完成度が非常に高く、
“多様なジャンルを吸収するP!nk” の進化を示す一枚でもある。
商業的にも成功しながら、
アーティストとしての成熟を強く示した本作は、
P!nk の第二の黄金期を決定づけた作品と言える。
おすすめアルバム(5枚)
- Beautiful Trauma / P!nk
人間的で成熟したポップの流れを理解するには必須。 - The Truth About Love / P!nk
感情の激しさとユーモアが際立つ前作。 - Funhouse / P!nk
痛みと再生を描いた、彼女の最もドラマティックな作品。 - Sia / 1000 Forms of Fear
感情の脆さと強さが同居する女性アーティスト作品として相性が良い。 - Kelly Clarkson / Meaning of Life
力強い女性ボーカル×アダルトポップ路線で共通点が多い。
制作の裏側
本作は、ツアーと子育てを両立しながら制作が進み、
P!nkは“これまで以上にリアルな自分”を曲に込めるようになった時期だった。
Andrew Wyatt、Max Martin、Shellback、Greg Kurstinなど
世界トップのプロデューサーとの共同作業により、
ジャンル横断的でありながら統一感のあるサウンドが完成した。
また、Khalid、Chris Stapleton、Wrabel など
異なるジャンルのボーカリストとのデュエットを積極的に取り入れ、
P!nkの声が持つ多彩な表情を引き出す結果となった。
『Hurts 2B Human』は、
P!nk が“人としての痛み”を音に変えた作品であり、
静かな深みと温かな余韻を残す、成熟の名作である。



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