
発売日: 2009年8月19日
ジャンル: インディー・ロック、サイケデリック・ロック、オルタナティブ・ロック
砂漠に埋め込まれた新たな音像——Arctic Monkeysのダークサイド
デビュー作Whatever People Say I Am, That’s What I’m Not(2006年)とFavourite Worst Nightmare(2007年)で、UKロックの頂点に登り詰めたArctic Monkeysが、そのイメージを一新した3rdアルバムHumbug。これまでの鋭利で疾走感のあるガレージ・ロックから一転し、ダークでミステリアスなサウンド、サイケデリックなムードを全面に押し出した作品となった。
本作のプロデュースを手がけたのは、Queens of the Stone Ageのフロントマン、ジョシュ・ホーミ。レコーディングはアメリカのジョシュア・ツリーにあるランチで行われ、荒涼とした砂漠の風景がそのままサウンドに反映されたかのような、ヘヴィかつムーディーな音像が特徴的だ。
全曲レビュー
1. My Propeller
ダークなギターリフと低音の効いたリズムが印象的なオープニング。アレックス・ターナーのヴォーカルは抑え気味で、妖艶な雰囲気を醸し出す。ミステリアスな歌詞が、アルバムの新たな世界観を象徴している。
2. Crying Lightning
リードシングルであり、本作のハイライトのひとつ。トリッキーなリズムと不穏なメロディが絡み合い、サイケデリックなムードを強調。歌詞では、支配的な恋人との関係を描いており、ターナーの巧みな語り口が際立つ。
3. Dangerous Animals
奇妙なリズムと呪術的なボーカルの反復が特徴的。ダークで中毒性のあるグルーヴが際立ち、バンドの新たな音楽性が存分に発揮されている。
4. Secret Door
アルバムの中では比較的メロディアスな楽曲。静かなイントロから次第に壮大な展開へと向かい、エモーショナルな歌詞がアルバムの中で異彩を放つ。
5. Potion Approaching
ヘヴィなギターと不安定なリズムが交錯する、実験的なトラック。混沌とした展開が、アルバムのサイケデリックなムードをさらに強調している。
6. Fire and the Thud
アレックス・ターナーの恋人であったアレクサ・チャンの影響を感じさせる楽曲。静かでメロウな雰囲気から、じわじわと高揚する展開が美しい。
7. Cornerstone
アルバムの中で最もポップな楽曲。切ない恋愛を描いたリリックが印象的で、カントリーや60年代ポップの影響を感じさせる。メロディアスなコーラスが心に残る名曲。
8. Dance Little Liar
重厚なドラムと不穏なギターが絡み合う。ターナーのボーカルは冷たく響き、嘘と裏切りをテーマにした歌詞が、アルバムのダークな雰囲気をさらに深めている。
9. Pretty Visitors
カオティックなオルガンのイントロが印象的な一曲。パンク的な疾走感と、不気味な雰囲気が共存しており、ライブでの激しいパフォーマンスでも知られる楽曲。
10. The Jeweller’s Hands
アルバムのラストを飾る、ミステリアスなトラック。ゆったりとしたリズムと幻想的なギターが交錯し、映画のエンディングのような余韻を残す。
総評
Humbugは、それまでのArctic Monkeysのイメージを根本から覆した作品だ。ジョシュ・ホーミのプロダクションによって、バンドはよりダークでヘヴィなサウンドを獲得し、サイケデリックなムードとミステリアスなリリックが際立つアルバムとなった。
本作は、デビュー時の勢いをそのままに、より深みのある音楽へとシフトしたことで、バンドのキャリアにおいて重要な転換点となった。リスナーによっては難解に感じるかもしれないが、聴き込むほどにその緻密な構成と独特の雰囲気に引き込まれる、Arctic Monkeysの最も実験的で洗練された作品のひとつである。
おすすめアルバム
- Queens of the Stone Age – …Like Clockwork (2013)
本作のプロデューサー、ジョシュ・ホーミのバンド。ダークでヘヴィなサウンドが共通点。 - The Last Shadow Puppets – The Age of the Understatement (2008)
アレックス・ターナーの別プロジェクト。オーケストラを取り入れたヴィンテージなロック。 - The Black Keys – Turn Blue (2014)
サイケデリックなブルースロック。Humbugのダークな雰囲気と共鳴する作品。 - Tame Impala – Lonerism (2012)
サイケデリック・ロックの進化形。幻想的なムードと歪んだギターが特徴。 - Nick Cave & The Bad Seeds – Push the Sky Away (2013)
ダークで詩的なリリックと、ミステリアスなサウンドスケープが本作とリンクする。
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