発売日: 1985年9月16日
ジャンル: アートポップ / プログレッシブポップ / シンセポップ
Hounds of Loveは、ケイト・ブッシュのキャリアの中でも最も評価の高いアルバムであり、1980年代の音楽シーンにおいて重要な位置を占める名盤である。本作は、ケイトが自宅にスタジオを構え、セルフプロデュースで作り上げた革新的な作品であり、ポップミュージックと実験音楽の融合が見事に結実している。
アルバムは2つのセクションに分かれており、前半の「Hounds of Love」パートではポップでキャッチーな楽曲が並び、後半の「The Ninth Wave」パートではコンセプチュアルでドラマチックな物語が展開される。シングルカットされたRunning Up That Hill (A Deal with God)やCloudbustingは、ケイトの音楽的才能を象徴する楽曲として、今なお多くのリスナーに愛されている。
各曲解説
1 Running Up That Hill (A Deal with God)
アルバムの幕開けを飾る代表曲で、ケイト・ブッシュの最大のヒット曲の一つ。力強いドラムマシンのリズムとシンセサイザーの旋律が印象的で、歌詞は男女の立場を交換することで相互理解を深めたいというテーマを描いている。エモーショナルなボーカルとスリリングなサウンドが完璧に融合した名曲だ。
2 Hounds of Love
アルバムのタイトル曲で、恋愛の恐怖と高揚感を追いかけっこに喩えた楽曲。ダイナミックなドラムと弦楽器が楽曲にスリリングな雰囲気を与えており、ケイトのボーカルが物語をドラマチックに展開する。ポップさとアート性が見事に融合した一曲だ。
3 The Big Sky
開放感のあるエネルギッシュな楽曲で、アルバムの中でも特にパワフルなトラック。自然をテーマにした歌詞が、シンセサイザーと力強いリズムに乗せて描かれる。ケイトの遊び心が感じられる楽曲で、ライブでも盛り上がる。
4 Mother Stands for Comfort
ミステリアスで内省的な楽曲で、母親の無条件の愛をテーマにしている。シンプルなベースラインと控えめなアレンジが、ケイトのボーカルを際立たせている。アンビエント的な要素が強い一曲だ。
5 Cloudbusting
心理学者ウィルヘルム・ライヒとその息子のエピソードを描いた物語的な楽曲。壮大なストリングスとリズムが楽曲をドラマチックに演出し、歌詞は科学的探究心と親子の絆をテーマにしている。ミュージックビデオも話題となり、ケイトのクリエイティビティが光る一曲だ。
6 And Dream of Sheep
アルバム後半「The Ninth Wave」の幕開けを飾るバラード。海に漂う孤独感を描いた歌詞が、ピアノの静かな旋律とともに深い感情を伝える。ケイトの繊細な歌声が印象的なトラックだ。
7 Under Ice
短いながらも緊張感のある楽曲で、凍った湖の下で恐怖に直面する様子を描いている。ミニマルなストリングスが冷たい雰囲気を作り出し、ドラマチックな展開が耳を引きつける。
8 Waking the Witch
アルバムの中でも特に実験的な楽曲で、夢と現実の境界を描いたスリリングな一曲。サンプリングや不規則なリズムが混ざり合い、カオスの中に美しさを感じさせる。ケイトの挑戦的な精神が感じられる。
9 Watching You Without Me
不在の自分を見守る存在に気づくというテーマを持つミステリアスな楽曲。アンビエント的なサウンドとシンプルなアレンジが、物語性を際立たせている。
10 Jig of Life
アイリッシュ音楽の影響を受けた楽曲で、力強いビートとダンス的なリズムが特徴。自己救済をテーマにした歌詞が、エネルギッシュなサウンドに乗せて語られる。ケイトの多彩な音楽性が光る一曲だ。
11 Hello Earth
壮大で感動的なバラードで、アルバムのクライマックスを飾る。地球を俯瞰するような視点で描かれた歌詞と、荘厳なアレンジが印象的。コーラス部分はグレゴリオ聖歌を思わせる雰囲気を持ち、楽曲に神秘的な広がりを与えている。
12 The Morning Fog
アルバムの締めくくりとなる希望に満ちた楽曲。アルバム全体を通しての暗いテーマから解放され、新たな始まりを感じさせる内容となっている。軽やかなメロディが前向きなメッセージを伝えている。
アルバム総評
Hounds of Loveは、ケイト・ブッシュがアーティストとしてのピークを迎えた作品であり、ポップと実験音楽の見事な融合を実現したアルバムだ。特に「Hounds of Love」と「The Ninth Wave」の2部構成により、聴き手に多層的な音楽体験を提供している。商業的な成功と批評的な評価の両方を収めた本作は、彼女のキャリアの頂点として語り継がれる名盤である。
このアルバムが好きな人におすすめの5枚
The Dreaming by Kate Bush
ケイトの実験精神が際立つ作品で、Hounds of Loveのルーツを感じられる。
So by Peter Gabriel
ポップと実験音楽のバランスが共通しており、ケイトとのデュエット曲Don’t Give Upも収録されている。
Blue by Joni Mitchell
詩的な歌詞と感情的な表現がケイトの作品と共通する名盤。
Low by David Bowie
実験的なサウンドとコンセプト性が、本作の後半「The Ninth Wave」と通じる部分がある。
Seventh Tree by Goldfrapp
ドリーミーで幻想的なサウンドが特徴で、ケイト・ブッシュの影響が色濃く感じられる。
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