発売日: 1998年10月19日
ジャンル: ティーン・ポップ、ダンス・ポップ、UKガールポップ
概要
『Honey to the B』は、ビリー・パイパーが1998年にリリースしたデビュー・アルバムであり、90年代末のUKティーンポップ・ブームを象徴するアイコンの誕生を告げた記念碑的作品である。
当時わずか15歳だったビリーは、シングル「Because We Want To」で全英チャート1位を獲得し、英国史上最年少のソロ女性アーティストによる1位記録を樹立。
『Honey to the B』はその勢いのままリリースされ、商業的にも批評的にも大きな成功を収めた。
アルバムタイトルは、彼女のニックネーム“B”にかけており、ハチミツのように甘くキャッチーなメロディと、若さゆえのストレートな感情を詰め込んだポップ・パッケージとなっている。
楽曲制作には、スウェーデン・ポップの名門ストック・エイトケン・ウォーターマンの流れを汲むプロデューサーや、後のS Club 7とも関わる楽曲チームが参加しており、90年代末のUKポップの典型的サウンドが全開。
内容的には、ティーンの恋愛、友情、自意識といったテーマをポップかつシンセティックに描いたものであり、同時期のブリトニー・スピアーズやクリスティーナ・アギレラに先駆けて、“UKティーン・ポップの幕開け”を飾った作品ともいえる。
全曲レビュー
1. Because We Want To
アルバムの幕開けを飾る代表曲にしてデビュー・シングル。自己主張と自由を訴えるティーンアンセム。キラキラとしたシンセとブラス風のアレンジが印象的。
2. Girlfriend
恋の駆け引きを明るく描いたダンス・ポップ。キャッチーなサビとバックコーラスの絡みが耳に残る。UKガールズ・ポップの王道。
3. Officially Yours
可愛らしさ全開のバブルガム・ポップ。恋に落ちた瞬間の“誓い”をテーマにした楽曲で、どこかスパイス・ガールズ的な香りも。
4. She Wants You
元はDua名義のカバー。ダンスフロア仕様のビートが効いたアップテンポ・チューン。ビリーの明るいボーカルが引き立つパーティーソング。
5. Love Groove
90年代らしいR&B風味のグルーヴが印象的。セクシーさを意識したアレンジだが、ビリーの若々しさが微笑ましく映る。
6. Party on the Phone
ポップで愉快なティーンの友情ソング。電話越しのガールズ・トークがテーマ。今聞くと時代を感じさせるが、それもまた魅力。
7. Saying I’m Sorry Now
アルバムの中でもバラード寄りのナンバー。恋の後悔と謝罪をストレートに描く。ボーカルの素直さが印象的。
8. You’ve Got It
ミディアムテンポで展開される、恋の高揚感を描いたソウル風ポップ。バックのストリングスとビートが良いアクセント。
9. I Dream
甘くメランコリックなドリーミー・ポップ。日記的なリリックとメロディが、ティーン時代の淡い思いを引き立てる。
10. Honey to the Bee
タイトル曲。シンプルながら耳に残るメロディで、ビリーらしい甘さとナチュラルな魅力を象徴。90年代後期の“ポップの無邪気さ”が詰まっている。
11. Whatcha Gonna Do
やや大人びたサウンドを意識したナンバー。恋の選択を相手に迫るというテーマで、アルバム後半のアクセントとなっている。
12. Don’t Forget to Remember
別れと記憶を主題にしたラストトラック。しんみりとした終わり方で、アルバムを“少女の日常の終章”として締めくくる。
総評
『Honey to the B』は、90年代後期のUKポップ・シーンにおいて、ティーン・アイドル文化が本格化する流れを作った、いわば“ポスト・スパイス・ガールズ世代”の先駆的作品である。
当時の批評家からは、“若すぎるデビュー”に対する懐疑的な声もあったが、実際にはビリー・パイパーのボーカルは想像以上に安定しており、明快なメロディとアレンジが彼女の魅力を最大限に引き出している。
また、テーマとして描かれる“自由”“友情”“恋愛の初期衝動”は、決して深くはないが、その分ストレートに心に届くものがある。
大人になる前の“通過儀礼”のような感情が、シンセの波の中に小気味よく溶け込んでいる。
今振り返れば、その後の女優としての活躍も含め、“ビリー・パイパーという現象”の原点がこのアルバムにすべて詰まっているとさえ言える。
『Honey to the B』は、90年代UKポップの甘く鮮やかな結晶であり、
時代と共に色褪せるどころか、むしろ“当時の空気感”を封じ込めたタイムカプセルのような作品なのである。
おすすめアルバム(5枚)
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Britney Spears『…Baby One More Time』
同時期の米ティーンポップの代表作。共通するサウンドと少女的感情が魅力。 -
Steps『Step One』
UKダンスポップ路線の象徴的グループ。明快なメロディと振付け文化も類似。 -
Christina Aguilera『Christina Aguilera』
ボーカル力とポップさを両立したティーンデビュー作。 -
S Club 7『S Club』
ビリーと同じ世代をターゲットにしたUKポップグループ。ノリの良い楽曲が共通。 -
Atomic Kitten『Right Now』
2000年代初頭のUKガールズ・グループ。『Honey to the B』の後継的存在。
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