発売日: 1987年10月5日
ジャンル: ポップロック、アダルト・コンテンポラリー、ニューウェーブ
概要
『Heaven on Earth』は、ベリンダ・カーライルが1987年にリリースした2作目のソロ・アルバムであり、彼女のキャリアを決定づけた最大のヒット作である。
前作『Belinda』でThe Go-Go’sからの独立を果たし、新たなスタイルを模索していたベリンダは、本作においてついに“完璧なソロ・ポップスター”像を確立する。
世界的ヒットとなった「Heaven Is a Place on Earth」は、彼女の名を不動のものとし、その煌びやかでエモーショナルなサウンドは、80年代後半のポップスを象徴する存在となった。
プロデューサーにはリック・ナウルズを再び迎え、バックにはトーマス・ドルビー、ダイアン・ウォーレン、チャーリー・セクストンらが参加。サウンド面では、シンセとギターが美しく重なり合うアダルトなポップロックが展開される。
80年代のポップスが最も光り輝いていた時代、その中心に立ったアルバムがこの『Heaven on Earth』である。
全曲レビュー
1. Heaven Is a Place on Earth
イントロのシンセ、躍動感あるビート、そして希望に満ちたサビ。ポップアンセムの名にふさわしい代表曲。楽園は“どこか”ではなく“ここにある”というメッセージが時代を超えて響く。
2. Circle in the Sand
潮風のようにしっとりとしたギター・アルペジオと波打つメロディ。恋愛の儚さと永遠の両義性を描いたロマンティックなミディアム・チューン。
3. I Feel Free
Creamの名曲を、女性ボーカルならではの軽やかさと情熱でカバー。パンク由来の彼女のルーツが垣間見える1曲。
4. Should I Let You In?
迷いと希望が入り混じる、感情の揺れを丁寧に描いたポップバラード。サビでの解放感が特に印象的。
5. World Without You
「あなたのいない世界なんて想像できない」というストレートな情熱を、ドラマティックなアレンジで包み込んだ名曲。
6. I Get Weak
ダイアン・ウォーレン作詞作曲によるパワーバラード。恋のときめきと脆さを見事に表現したボーカルに引き込まれる。
7. We Can Change
恋人との距離を乗り越えようとする“再生”のバラード。アルバムの中で最も誠実なラブソング。
8. Fool for Love
クラップとギターリフが印象的な、ややロック寄りのナンバー。愛にすべてを捧げる“愚かさ”への共感と解放。
9. Nobody Owns Me
自己決定権と独立性を歌った、女性アーティストとしてのステートメント的楽曲。タイトル通りの強さが光る。
10. Love Never Dies…
“愛は形を変えて生き続ける”というメッセージを込めた、エンディングにふさわしい静かで温かいバラード。
総評
『Heaven on Earth』は、ベリンダ・カーライルという存在が“バンドの花形”から“ポップスター”へと本格的に脱皮した決定的な作品である。
全体を通して感じられるのは、“キラキラしていて、だけど切ない”という80年代ポップスの精髄。プロダクションは豪華だが過剰ではなく、ベリンダの声が持つ“軽やかさと情熱”を最大限に引き出すための舞台として、楽曲が機能している。
特に「Heaven Is a Place on Earth」「I Get Weak」「Circle in the Sand」の3曲は、彼女のキャリアを象徴するだけでなく、80年代ポップスの金字塔として現在も高く評価されている。
サウンドの明快さ、メロディの力、そしてリリックの普遍性──
このアルバムは、ポップスが最も眩しく、最も人々に寄り添っていた時代の“音の記録”なのだ。
おすすめアルバム(5枚)
- Madonna『True Blue』
女性ポップスターとしての確立、エレガントなポップスという共通点で強くつながる。 - Cyndi Lauper『She’s So Unusual』
80年代のカラフルなサウンドと自由な女性像を打ち出した代表作。ポップな強さが共通。 - Tiffany『Hold an Old Friend’s Hand』
やや若年層寄りながら、80年代後期ポップの切なさと希望が共通する。 - Kim Wilde『Close』
UK女性ポップシンガーによる名作。シンセポップとロックのバランスが絶妙。 -
Bangles『Everything』
バンド発の女性アクトが成熟したポップロックを奏でるという点で、ベリンダとの類似が多い。
ビジュアルとアートワーク
『Heaven on Earth』のジャケットは、真紅の背景にたたずむベリンダのポートレートであり、その“静かなる神々しさ”がタイトルと絶妙に響き合っている。
また、代表曲のMVで見せる天使のような衣装と幻想的な映像美は、1980年代MTVカルチャーの象徴として、今日でも色褪せることがない。
ポップとは何か、スターとは何か──
その問いに、“この人こそが”という答えを与えたのが、まさにこの『Heaven on Earth』だった。
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