アルバムレビュー：For Your Pleasure by Roxy Music

発売日: 1973年3月23日
ジャンル: アートロック、グラムロック、プロトパンク

『For Your Pleasure』は、Roxy Musicの2枚目のスタジオアルバムであり、バンドの革新性とアーティスティックな表現がさらに進化した作品だ。このアルバムは、ブライアン・フェリーの独特なボーカルとリリシズム、ブライアン・イーノによる実験的なシンセサイザーサウンドが絶妙に融合した、グラムロックの金字塔的存在だ。『For Your Pleasure』は、ファッション、アート、音楽を大胆に融合させたアルバムであり、ニューウェーブやポストパンクのシーンに大きな影響を与えた。

このアルバムをもって、イーノはRoxy Musicを脱退するが、その独特の電子音やサウンドスケープは、アルバム全体に独自の未来的な雰囲気を加えている。グラムロックのきらびやかさと、実験的なサウンドが見事に融合した本作は、Roxy Musicのキャリアにおいて重要な転機となった作品である。

各曲ごとの解説:

1. Do the Strand
   　アルバムのオープニングトラックで、エネルギッシュなリズムと、ブライアン・フェリーのカリスマ的なボーカルが印象的。フェリーは「The Strand」という架空のダンスを提案し、文化的なアイコンやスタイルを混ぜ込んだ歌詞が魅力的。サウンドはエレガントでありながらも強烈なインパクトを残す。
2. Beauty Queen
   　フェリーの繊細なボーカルが光るミッドテンポの楽曲。ラグジュアリーな雰囲気と、ノスタルジックなメロディが、虚飾に満ちた美の儚さを描いている。イーノのシンセサイザーが曲に幻想的な雰囲気を与えている。
3. Strictly Confidential
   　ダークで内省的なトラック。フェリーの落ち着いたボーカルと、メロドラマ的なリリックが印象的。ジャズ的な要素と実験的なサウンドが融合し、曲全体が不穏な雰囲気に包まれている。
4. Editions of You
   　グラムロックのエネルギーが爆発するトラック。アップテンポで、アンディ・マッケイのサックスとフィル・マンザネラのギターがリフを競い合うように展開される。フェリーのヴォーカルは陽気で、楽曲全体に高揚感が満ちている。
5. In Every Dream Home a Heartache
   　このアルバムの中でも特に強烈なインパクトを残すトラック。歌詞では、人工的な愛や富の虚無感が描かれ、フェリーは冷たく感情を抑えたトーンで歌い上げる。特にフェリーが語る「インフレータブル・ドール（空気人形）」への愛の告白は、人工的な生活に対する批評が込められている。曲後半では、イーノのシンセサイザーとマンザネラのギターが徐々にクライマックスへと盛り上がる。
6. The Bogus Man
   　アルバムで最も長いトラックで、約9分にわたるミニマルでリズミカルな展開が続く。フェリーのボーカルは控えめで、曲全体が反復的で催眠的な雰囲気を持つ。イーノの実験的なシンセサウンドが際立っており、独特の不安感を醸し出している。
7. Grey Lagoons
   　ロカビリーやリズム＆ブルースの影響を感じさせるトラックで、マンザネラのギターワークが非常に目立つ。軽快なリズムとフェリーのエレガントなボーカルが融合し、曲全体に華やかさと遊び心が漂っている。
8. For Your Pleasure
   　アルバムのタイトル曲であり、フェリーのウィスパーボイスが全体を支配する幻想的なトラック。夢幻的なサウンドスケープが広がり、イーノのエレクトロニクスとフェリーのミステリアスなリリックが、曲全体に退廃的な美しさを与えている。アルバムのエピローグにふさわしい、感情的な深みを持つ一曲だ。

アルバム総評:

『For Your Pleasure』は、Roxy Musicのアートロック的な実験精神が最も色濃く表れたアルバムだ。ブライアン・フェリーのスタイリッシュで退廃的なボーカルと、ブライアン・イーノのサウンドメイキングが完璧に融合し、時代を超えたサウンドを作り上げている。特に「Do the Strand」や「In Every Dream Home a Heartache」といった楽曲は、グラムロックのきらびやかさとアヴァンギャルドな実験性が見事にバランスを取っており、バンドの持つ独特なヴィジョンが明確に示されている。イーノの最後の参加作でもあるこのアルバムは、後のニューウェーブやポストパンクに大きな影響を与えた名盤である。

このアルバムが好きな人におすすめの5枚:

1. Diamond Dogs by David Bowie
   同じくグラムロックとアートロックが融合した名盤。David BowieのヴィジョンとRoxy Musicの実験的アプローチには共通点が多い。
2. Here Come the Warm Jets by Brian Eno
   Roxy Musicを脱退した後のブライアン・イーノのソロデビュー作。アバンギャルドなサウンドとポップな要素が共存し、Roxy Musicのファンには必聴の一枚。
3. The Rise and Fall of Ziggy Stardust and the Spiders from Mars by David Bowie
   グラムロックの代表作であり、ブライアン・フェリーの退廃的なスタイルと共通するテーマが見られる。華やかさと暗さのバランスが絶妙。
4. Fear of Music by Talking Heads
   ブライアン・イーノがプロデュースしたアルバムで、実験的なサウンドとポップなメロディの融合が特徴。Roxy Musicのエキセントリックな面に共感する人におすすめ。
5. Country Life by Roxy Music
   『For Your Pleasure』に続くRoxy Musicの4作目で、さらに洗練されたサウンドとアートロック的な要素が感じられる。バンドの進化を追いたいファンにぴったり。