発売日: 2015年10月16日
ジャンル: インディーロック、ドリームポップ、サイケデリックポップ
Deerhunterの7作目『Fading Frontier』は、ブラッドフォード・コックスが2014年に交通事故で大怪我を負った後に制作されたアルバムであり、バンドの音楽性に新たな方向性をもたらした作品である。過去のアルバムで見られたノイズや実験的なアプローチを抑え、よりメロディアスで親しみやすいサウンドへと進化している。アルバムタイトルが示すように、作品全体にはぼんやりとした境界線と曖昧さ、そして終わりの気配が漂っており、内省的な歌詞とポップなサウンドが織り成すコントラストが特徴だ。
サウンド面では、シンセサイザーやエレクトロニックなテクスチャーが強調され、バンドの持つドリームポップやサイケデリックな要素がさらに洗練されている。これまでのディープで暗いトーンに代わり、希望や再生を感じさせる雰囲気も加わり、Deerhunterの新しい一面を感じさせる一枚である。
トラック解説
1. All the Same
アルバムの幕開けを飾るアップテンポなトラックで、シンプルなギターリフとシンセが絡み合い、軽快な雰囲気を生み出す。歌詞には、過去の失敗を振り返りつつも前向きなメッセージが込められている。
2. Living My Life
シンセサイザーが前面に出たドリーミーな一曲で、柔らかなメロディとコックスの優しいボーカルが印象的。歌詞には再生や生きる意味を見つめ直すテーマが込められており、アルバムの内省的なトーンを象徴している。
3. Breaker
コックスとロケット・ピンダーがボーカルを分け合うデュエット形式のトラック。明るいメロディとシンプルな構成が魅力的で、サウンドの中に潜む希望と不安が絶妙なバランスを保っている。
4. Duplex Planet
リズムがゆったりとしたトラックで、シンセとギターのレイヤーが重なり合うドリームポップの名曲。歌詞には時間の経過と人間関係の変化が描かれており、感傷的なムードが漂う。
5. Take Care
繊細なギターと穏やかなボーカルが主役のバラードで、コックスの内省的な一面が垣間見える。シンプルなアレンジが歌詞を際立たせ、聴き手に優しい余韻を残す。
6. Leather and Wood
ミニマルなビートとアンビエントなサウンドスケープが特徴の実験的なトラック。コックスの囁くようなボーカルが曲全体を包み込み、深い没入感を生む。
7. Snakeskin
アルバム中でも異彩を放つファンキーなナンバー。リズム感のあるギターリフとアップビートなドラムが印象的で、歌詞にはコックス特有のシニカルなユーモアが込められている。
8. Ad Astra
スペーシーなシンセサウンドとドリーミーなメロディが広がるトラック。タイトルの「Ad Astra(星々の彼方へ)」にふさわしい浮遊感があり、コックスのボーカルが宇宙的なスケール感を与えている。
9. Carrion
アルバムの締めくくりを飾るトラックで、静かに始まり、徐々にエネルギーを高める展開が印象的。歌詞には終わりと再生のテーマが描かれ、アルバム全体の余韻を深める壮大なエンディングだ。
アルバム総評
『Fading Frontier』は、これまでのDeerhunterのアルバムに比べると穏やかでメロディアスな作品であり、バンドの新たな方向性を示す一枚である。交通事故後のコックスの心情が反映された歌詞や、洗練されたサウンドが、再生と希望、内省をテーマにした深い感情的な体験を提供する。ノイズや実験性が抑えられたことで、バンドの持つポップな魅力が際立っており、聴き手にとっても親しみやすいアルバムとなっている。
このアルバムが好きな人におすすめの5枚
Halcyon Digest by Deerhunter
『Fading Frontier』の前作で、ノスタルジックなテーマとドリームポップの要素が強調された名作。メロディアスな楽曲が多く、共通点が多い。
Person Pitch by Panda Bear
ドリーミーでアンビエントなサウンドが特徴のアルバム。Deerhunterの持つ浮遊感やノスタルジックな雰囲気と共鳴する。
Atlas by Real Estate
穏やかでメロディアスなギターポップアルバム。『Fading Frontier』の持つリラックスしたムードが好きな人におすすめ。
Depression Cherry by Beach House
ドリームポップの代表的なアルバムで、シンセサイザーやアンビエントサウンドが美しく、Deerhunterの穏やかな一面と共通する部分が多い。
Lost in the Dream by The War on Drugs
シンセやギターを駆使した壮大なロックアルバム。感傷的で浮遊感のある楽曲が、『Fading Frontier』の内省的な雰囲気と似ている。
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