
発売日: 2006年
ジャンル: ダブ、スカ、ラガ・パンク、バスク・レゲエ、アフロカリビアン・ミクスチャー
概要
『Euskal Herria Jamaika Clash』は、バスクの音楽家・活動家Fermin Muguruza(フェルミン・ムグルサ)が2006年に発表したスタジオ・アルバムであり、そのタイトルの通り「バスクとジャマイカの衝突」=音楽と文化の祝祭的な融合をテーマにした、国境を超えた“レゲエ・インターナショナリズム”の傑作である。
このアルバムはジャマイカ・キングストンで録音され、バックには伝説的バンドFirehouse Crew、さらにはSly & Robbieなどのミュージシャンも参加。
バスク語のリリックとレゲエ/ダブのリズムが共存する音像は、まさに“グローカル(グローバル×ローカル)”な音楽実践の典型だ。
フェルミンはここで、自身の政治的・文化的ルーツであるバスクと、レゲエの持つスピリチュアルかつプロテスト的エネルギーをぶつけ合いながら、“植民地主義的抑圧と闘う者同士の国際連帯”を音にすることに成功している。
全曲レビュー
1. Bass Line Fever
ジャマイカ録音らしい極太ベースが唸るオープニング。
言語を越えて、低音がコミュニケーションするというコンセプトが、まさにアルバム全体の導入部にふさわしい。
2. Euskal Herria Jamaika Clash
タイトル曲にして中心テーマ。
「言葉は違えど、闘争のリズムは共通している」というムグルサの信念が、バスク語とパトワのクロスオーバーで炸裂。
Firehouse Crewによるダブ・アレンジが極めてタイト。
3. Urrun Dub
再録された「Urrun」のバージョンで、さらにジャマイカン・スタイルに仕上げられている。
ディレイとリバーブが深く、遠く離れた場所への想いを音響で表現。
4. Irudikeriak
“幻想”を意味するバスク語タイトル。
一見穏やかだが、幻想の裏にある政治的錯覚を暴くリリックが刺さる。
女性ボーカルとの掛け合いが印象的。
5. Irun-Lasarte-Dakar
バスク、セネガル、ジャマイカをつなぐ三地点トライアングル。
アフロ・パーカッションとダンスホール・ビートが融合した、身体性に富んだ一曲。
6. Jah Zulo
「Jah(神)に見捨てられた穴=Zulo」に潜む者たちへの鎮魂歌。
静かだが圧倒的な精神性を持つミディアム・ダブ。
ムグルサの祈りと怒りが共鳴する。
7. Global Warning
環境破壊と資本主義批判を絡めた社会派ダンスホール。
政治×環境という、ムグルサにとって比較的新しいテーマを提示。
8. Askatasuna Dub
“自由”を意味するバスク語「Askatasuna」をタイトルに冠したインストゥルメンタル。
このアルバムでは言葉を削ぎ、音のみで“解放”を描く。
ホーンとシンセのかけあいが秀逸。
9. Nazioarteko Dub Station
“国際的ダブ放送局”という架空のラジオステーションを舞台にした構成。
各国の声がサンプリングで入り交じり、リスナーは“音の連帯”を旅するような感覚に陥る。
総評
『Euskal Herria Jamaika Clash』は、Fermin Muguruzaが長年培ってきた「音楽による連帯」の思想を、最もフィジカルかつダンサブルに具現化した作品である。
このアルバムは単にレゲエを取り入れたバスク・ロックではなく、バスクとジャマイカを「並列」ではなく「交差」させた音の交歓に成功している。
民族・言語・階級・国境という分断を乗り越え、音と低音、そして抵抗の姿勢だけで人と人を繋ぐという大胆な試み。
それはまさに、“クラッシュ=衝突”ではなく、“クラッシュ=融合”としての希望”を響かせる作品なのだ。
おすすめアルバム(5枚)
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Sly & Robbie / Dub Rising
この作品に参加したレジェンド。リズムの構築と崩壊がマスターレベル。 -
Alpha Blondy / Jah Victory
アフリカン・レゲエと政治的メッセージ。ムグルサと思想的に共鳴。 -
Tiken Jah Fakoly / African Revolution
革命と音楽を結びつけるスタイル。ジャマイカ録音との親和性も高い。 -
Manu Chao / La Radiolina
世界各地のリズムと言語を駆使する音の国際主義。ムグルサと並ぶ“無国籍音楽家”。 -
Asian Dub Foundation / Enemy of the Enemy
ダブ×政治×マイノリティ文化。バスク×ジャマイカと同じ“対抗の音楽”を追求。
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