Elastic Heart by Sia(2013)楽曲解説

 

1. 歌詞の概要

「Elastic Heart」は、Siaが2013年に発表し、後に2014年のアルバム『1000 Forms of Fear』にも収録された楽曲で、彼女の音楽的・表現的な深みを象徴する作品のひとつです。タイトルの「Elastic Heart(伸縮性のある心)」は、感情的に何度も傷つけられながらも、それでも折れずに弾力を保ち、回復しようとする心の強さと脆さを同時に表現しています。

この楽曲は、愛と痛み、自己防衛と欲望のせめぎ合いをテーマにしており、恋愛関係における激しい心の葛藤が描かれています。繰り返し現れる「I’ve got thick skin and an elastic heart(私は皮膚が厚く、弾力のある心を持っている)」というラインは、自分自身がどれだけ傷ついても、立ち直る強さを持っているという意志の表明であり、同時にそれが皮肉にも新たな傷を呼ぶ可能性すら示唆しています。

2. 歌詞のバックグラウンド

「Elastic Heart」はもともと、2013年公開の映画『ハンガー・ゲーム2(Catching Fire)』のサウンドトラックに収録された楽曲としてリリースされました。Siaにとっては映画音楽への提供という文脈でも重要な作品でしたが、翌年、アルバムに再収録される際にシングルカットされ、ミュージックビデオとともに大きな注目を集めました。

この曲には、プロデューサーとしてディプロ(Diplo)と、ザ・ウィークエンドThe Weeknd)も参加しており、重厚なビートと感情的なメロディのバランスが絶妙な一曲に仕上がっています。Siaのソングライティングと、EDMやトラップ的なプロダクションが融合したこの作品は、彼女のポップセンスと芸術性を両立させた象徴的な楽曲となりました。

特に話題を呼んだのは、2015年に公開されたミュージックビデオで、そこでは子役ダンサーのマディ・ジーグラーと俳優シャイア・ラブーフが巨大な檻の中で肉体的かつ抽象的なダンスバトルを繰り広げ、心の対立や絆を身体表現によって描いています。この映像は賛否を呼びながらも、Siaの「顔を出さない」スタイルと芸術性を象徴する作品として高く評価されました。

3. 歌詞の抜粋と和訳

以下は印象的な歌詞の一部を抜粋し、日本語訳を添えたものです。

And another one bites the dust
また一人が倒れていく

Oh, why can I not conquer love?
なぜ私は愛を勝ち取れないの?

And I might have thought that we were one
私たちは一つだと、信じていたのに

Wanted to fight this war without weapons
武器なんて持たずに、この戦いを終わらせたかった

I’ve got thick skin and an elastic heart
私は皮膚が厚くて、弾力のある心を持ってる

But your blade it might be too sharp
だけどあなたの刃は鋭すぎたかもしれない

I’m like a rubber band until you pull too hard
私はゴムバンドのよう、でもあなたが強く引っぱりすぎたら…

I may snap and I move fast
切れてしまって、一気に離れていく

You won’t see me fall apart
私は決して壊れるところを見せない

‘Cause I’ve got an elastic heart
だって私は弾力のある心を持っているから

歌詞全文はこちらの公式サイトにて参照できます:Genius Lyrics – Elastic Heart

4. 歌詞の考察

「Elastic Heart」は、単なる失恋の歌ではありません。この曲が描いているのは、愛において傷つくことと、それでもなお愛そうとする人間の姿です。冒頭で「また一人が倒れていく」と述べているように、恋愛は戦いのようなものであり、語り手はその戦いに何度も挑み、傷を負いながらも敗北を認めません。

「皮膚が厚くて弾力のある心を持っている」という一節は、自己防衛のメタファーでもありながら、過去の経験から学び、成長しようとする心の強さを象徴しています。しかしそれと同時に、「あなたが強く引っぱりすぎたら切れてしまう」とあるように、耐久力には限界があることも示されています。

また、「武器を持たずにこの戦いを終わらせたかった」というラインには、平和的に関係を築きたかったという願いと、それが叶わなかったことへの悲しみが込められており、関係性における無力さと諦念が滲み出ています。

この歌詞の奥深さは、表面的には強さを語っていながら、その裏にある脆さと再生の希望を巧みに織り交ぜている点にあります。Siaはここでも、自身の内面と向き合いながら、その複雑な感情を詩的に、そして普遍的に描いています。

引用した歌詞の出典は以下の通りです:
© Genius Lyrics

5. この曲が好きな人におすすめの曲

  • Breathe Me by Sia
    Siaの過去作の中でも最も内省的で感情的なバラード。孤独と助けを求める心情が切々と綴られており、「Elastic Heart」と共鳴する内容。
  • Human by Christina Perri
    「私は人間なんだ」という言葉に象徴されるように、自分の限界と感情の起伏を正直に描いた楽曲。感情をテーマにした歌詞がSiaの世界観と近い。
  • Warrior by Demi Lovato
    傷ついた過去を乗り越えた自己肯定の歌で、強さと脆さを併せ持つ歌詞構成が「Elastic Heart」と重なる。
  • Unsteady by X Ambassadors
    家庭や愛情の不安定さを歌った感情的なバラードで、傷つきやすい心を真正面から描いている点で共通している。

6. 映像と身体表現による心の可視化

「Elastic Heart」のミュージックビデオは、Siaのアート的な表現手法が最も際立った作品の一つとして評価されています。子役マディ・ジーグラーと俳優シャイア・ラブーフが、鉄製の檻の中で繰り広げるダンスは、言葉では表現しきれない心の葛藤や愛憎の入り混じった感情を身体表現によって可視化しています。

この映像は当初、年齢差のある男女の身体的な接触を描いているとして一部で議論を呼びましたが、Sia自身はこれは親子、あるいは内なる自分との対話を象徴した作品であると説明しています。マディとシャイアの動きは、攻撃、逃避、接近、拒絶といった感情の推移を抽象的かつ劇的に表現しており、まさに「Elastic Heart」の歌詞に込められた痛みと回復の物語を視覚的に補完しています。

「Elastic Heart」は、Siaというアーティストの傷と再生、内面と表現のダイナミズムを最も純粋な形で捉えた一曲であり、聴く者それぞれの感情に静かに寄り添いながらも、強烈な余韻を残すポップ・アートの結晶といえるでしょう。

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