アルバムレビュー：Days Are Gone by HAIM

発売日: 2013年9月27日
ジャンル: インディー・ポップ、ソフト・ロック、R&B

アルバム全体のレビュー

HAIM（ハイム）は、アメリカ・ロサンゼルス出身の3姉妹バンドであり、彼女たちのデビューアルバム Days Are Gone は、2010年代のインディー・ポップシーンに新たな風を吹き込んだ作品である。本作は、70年代のソフト・ロック、80年代のシンセ・ポップ、90年代のR&Bなど、様々な音楽要素を取り入れながらも、彼女たち独自のスタイルを確立している。

HAIM の音楽は、エステ・ハイム（ベース/ボーカル）、ダニエル・ハイム（ギター/リードボーカル）、アラナ・ハイム（ギター/キーボード/ボーカル）の三姉妹による絶妙なハーモニーと、タイトなリズムセクションが特徴的だ。本作では、プロデューサーとしてアリエル・レヒトシェイド（Vampire Weekend、Sky Ferreira などを手掛けた）が参加し、洗練されたサウンドプロダクションを実現している。

アルバム全体を通して、彼女たちの個人的な経験や恋愛観を歌詞に落とし込み、エモーショナルなメロディとキャッチーなフックでリスナーを引き込む。どこか懐かしさを感じさせながらも、モダンなアレンジが施されたサウンドが特徴であり、Fleetwood Mac や Prince の影響を色濃く感じる楽曲が並んでいる。

当時の音楽シーンでは、インディー・ロックやフォーク系のアーティストが台頭する一方で、HAIM はポップとロックの絶妙なバランスを持つバンドとして際立っていた。特に、彼女たちのファンクやR&Bの影響を感じさせるリズムセクションは、他のインディー・バンドとは一線を画すものであり、多くの批評家やリスナーを惹きつけた。

では、各トラックについて詳しく見ていこう。

トラックごとのレビュー

1. Falling

アルバムのオープニングを飾るこの曲は、シンセとギターの絡みが美しく、徐々にビルドアップしていく構成が印象的だ。歌詞では「失敗や挫折を乗り越え、新たに進む決意」をテーマにしており、ダニエル・ハイムの力強いボーカルがそれを際立たせている。特に、ファルセットを活かしたサビの「Never look back, never give up」というフレーズが印象的で、アルバム全体のモチーフを示唆しているようだ。

2. Forever

バンドの初期からの代表曲のひとつであり、80年代のポップ/R&Bの影響を強く受けた軽快なナンバー。跳ねるようなリズムと、洗練されたギターリフが耳に残る。歌詞は「終わった恋を振り返りつつも、前に進もうとする心情」を描いており、ノスタルジックな雰囲気が漂う。まるで Fleetwood Mac の Tango in the Night の時代に迷い込んだかのような、爽快感と切なさが共存する楽曲だ。

3. The Wire

軽快なギターと手拍子が特徴的な、このアルバムの中でも特にキャッチーな楽曲。恋愛における「すれ違いと後悔」をテーマにしており、歌詞では「自分から別れを切り出したものの、やがてその決断を後悔する」という心情が描かれている。HAIM らしいハーモニーと、バンドのグルーヴ感が最大限に発揮された一曲であり、ライブでも人気の高い楽曲だ。

4. If I Could Change Your Mind

ディスコ風のリズムとシルキーなシンセが印象的な一曲。ダンスフロアでも映えるようなアレンジが施されており、80年代のポップ/R&Bを現代風に解釈したようなサウンドが特徴的だ。歌詞では「過去の選択を悔やみ、やり直せるなら…」という感情が歌われており、メロウなメロディが切なさを際立たせている。

5. Honey & I

アコースティックなギターとソフトなボーカルが心地よい楽曲。シンプルながらも洗練されたアレンジが施されており、まるで西海岸の風を感じるような爽やかさがある。歌詞は「自由な恋愛観と、誰にも縛られない二人の関係」を描いており、HAIM らしいポジティブな雰囲気が漂う。

アルバムの影響と意義

Days Are Gone は、リリース直後から批評家やリスナーから高く評価され、インディー・ロックとポップの架け橋的存在としての地位を確立した。特に、彼女たちのリズムセクションやハーモニーは、同世代のバンドとは異なる魅力を放ち、Fleetwood Mac の現代版とも称された。

また、当時の音楽シーンにおいて、女性バンドがメインストリームで成功することは決して容易ではなかったが、HAIM はその障壁を打ち破り、多くの若いミュージシャンに影響を与えた。彼女たちのファッションやライフスタイルも注目され、音楽のみならずカルチャーアイコンとしての地位も確立した。

アルバム総評

Days Are Gone は、デビュー作とは思えないほど完成度が高く、ポップスとロックの美しいバランスを持ったアルバムである。洗練されたプロダクションと、HAIM の持つ独自のエネルギーが融合し、聴く者を一瞬で引き込む魅力がある。

このアルバムが好きな人におすすめの5枚

1. Fleetwood Mac – Rumours
   HAIM の音楽的ルーツとして最も影響を受けたアルバム。特に美しいハーモニーとソフトロックのサウンドが共通点だ。
2. Tame Impala – Currents
   ドリーミーなシンセポップ要素を求める人にはぴったり。エモーショナルな歌詞も共鳴する部分が多い。
3. Vampire Weekend – Modern Vampires of the City
   アートポップの要素を取り入れた洗練されたサウンドが、HAIM のファンにも響くはず。
4. The 1975 – I Like It When You Sleep…
   ポップとロックの絶妙なバランス、そして80年代の影響を感じるサウンドが共通している。
5. Chvrches – The Bones of What You Believe
   シンセポップの要素が強いが、キャッチーなメロディと力強い女性ボーカルが魅力的。