Cry Wolf by A-ha(1986)楽曲解説

1. 歌詞の概要

「Cry Wolf」は、A-haが1986年にリリースしたセカンドアルバム『Scoundrel Days』に収録された楽曲で、同年にシングルとしてもリリースされました。ダークな雰囲気とキャッチーなメロディが融合した、A-haの中でも独特の魅力を持つ楽曲です。

この曲のタイトル「Cry Wolf(狼が来たぞと叫ぶ)」は、有名なイソップ寓話「狼少年(The Boy Who Cried Wolf)」に由来しており、「何度も嘘をついたために、最後には誰にも信じてもらえなくなる」という教訓的な意味合いを持っています。

歌詞の内容は、寓話を下敷きにしつつ、より抽象的で象徴的な表現が使われています。全体を通して、「Cry wolf」というフレーズが繰り返され、嘘や欺瞞、そしてそれによって引き起こされる破滅的な状況を示唆しています。また、歌詞の雰囲気からは、単に「嘘をつくこと」だけでなく、人間関係の中での信頼や裏切り、さらには社会全体の欺瞞に対する警鐘のようなものも感じられます。

2. 歌詞のバックグラウンド

A-haのセカンドアルバム『Scoundrel Days』は、デビューアルバム『Hunting High and Low』のポップな雰囲気とは異なり、よりダークでシリアスなトーンを持つ作品として知られています。「Cry Wolf」もその流れを汲んでおり、シンセポップの華やかさを残しつつも、歌詞の内容やメロディには陰影があり、より大人びた印象を与える楽曲となっています。

この曲は、バンドの中心メンバーであるポール・ワークター=サヴォイマグネ・フルホルメンによって書かれ、当時の音楽シーンの中でもキャッチーなサビと、ダークな歌詞のコントラストが際立つ楽曲として注目されました。

また、「Cry Wolf」は、A-haのシングルとしては比較的成功を収め、イギリスではトップ40入り、アメリカのBillboard Hot 100でも50位以内にランクインしました。しかし、バンドの代表曲である「Take On Me」や「The Sun Always Shines on T.V.」ほどの爆発的なヒットには至らず、一部では「過小評価された名曲」としても語られています。

3. 歌詞の抜粋と和訳

※ 歌詞の権利を尊重し、一部のみ引用しています。全文は こちら でご覧ください。

歌詞抜粋(英語):

Night I left the city,
I dreamt of a wolf

和訳:

街を離れた夜
僕は狼の夢を見た

歌詞抜粋(英語):

Cry wolf
Time to worry

和訳:

「狼が来たぞ」と叫べ
心配すべき時が来た

この「Cry wolf」というフレーズが何度も繰り返されることで、緊張感や警戒心の高まりを表現しているように感じられます。また、「狼の夢を見た」という冒頭のフレーズは、現実と幻想の境界が曖昧になっていることを示唆し、リスナーに不穏な雰囲気を与えています。

4. 歌詞の考察

「Cry Wolf」の歌詞は、一見するとシンプルなリフレインを多用した楽曲ですが、背後には社会や人間関係における信頼の喪失という深いテーマが隠れています。

「狼が来たぞ」と何度も叫ぶことで、最終的には誰にも信じてもらえなくなる――これは、現実の世界でもよく見られる現象です。たとえば、メディアが過剰にセンセーショナルなニュースを報じることで、本当に重要な情報が軽視されること、または個人が何度も嘘をつくことで、やがて誰からも信頼されなくなることなどが、この曲のテーマと重なります。

また、曲の中で語られる「狼の夢」は、恐怖や不安の象徴と捉えることもできます。歌詞の語り手は、夜の闇の中で狼の存在を感じ取りながら、何かが近づいてくることを警戒しています。しかし、その狼が本当に存在するのか、それともただの幻なのかは明確にされておらず、聴き手の解釈に委ねられています。

こうした曖昧さが、「Cry Wolf」を単なる寓話の焼き直しではなく、より詩的で哲学的な楽曲へと昇華させています。

5. この曲が好きな人におすすめの曲

  • Don’t You (Forget About Me)” by Simple Minds
    A-haと同じ80年代のシンセポップの名曲で、キャッチーながらもどこかダークな雰囲気を持つ。

  • “Somebody’s Watching Me” by Rockwell
    歌詞のテーマが「見えない何かに監視されている」という点で、「Cry Wolf」の持つ不安感と通じるものがある。

  • Enjoy the Silence” by Depeche Mode
    シリアスなテーマを持つシンセポップの代表曲で、A-haのこの時期の楽曲と共鳴する要素が多い。

  • “Don’t Answer Me” by The Alan Parsons Project
    メロディがキャッチーでありながらも、歌詞に切なさや哀愁が漂う点が「Cry Wolf」と似ている。

6. 「Cry Wolf」のミュージックビデオとライブでの魅力

「Cry Wolf」のミュージックビデオは、モノクロ映像と幻想的なシーンが組み合わさり、曲の持つミステリアスな雰囲気を引き立てています。ビデオでは、バンドのメンバーが森の中をさまよいながら、謎めいた映像が次々と映し出されるなど、楽曲の持つ寓話的なテーマを視覚的に補完する演出が施されています。

また、ライブではこの曲はエネルギッシュなパフォーマンスとダイナミックなアレンジが加えられ、アルバムバージョン以上の迫力を持つ楽曲となります。特に、モートン・ハルケットのボーカルがライブでどのように感情を込めて歌うかによって、曲の印象が大きく変わる点も注目に値します。


まとめ

「Cry Wolf」は、A-haのシンセポップの側面とダークな世界観が絶妙に融合した楽曲であり、寓話的なテーマを用いながら、社会や人間関係の中での欺瞞や信頼の喪失を象徴的に描いた作品です。

キャッチーなメロディと、繰り返される「Cry wolf」のフレーズが印象的な一方で、その背後には深い意味が込められており、単なるポップソングではなく、聴けば聴くほど解釈の幅が広がる名曲です。

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