発売日: 2015年12月18日
ジャンル: R&B、コンテンポラリーR&B、ヒップホップ・ソウル
概要
『Code Red』は、モニカが2015年にリリースした8作目のスタジオ・アルバムであり、
“R&Bの緊急事態”に対する警鐘として、自らの使命感を込めた一作である。
2000年代以降、ポップスとヒップホップに飲み込まれるように姿を変えていったR&Bというジャンル。
その流れに危機感を覚えたモニカは、原点に立ち返りつつも、新世代との対話を試みるかのように本作を制作した。
アルバムタイトルの“Code Red”は、まさにその「危機への警告」と「立て直しへの意思」を象徴している。
プロデューサーにはPolow da Don、Missy Elliott、Timbaland、Rico Loveらを迎え、
ベテランと新進気鋭の融合を図った構成。
しかし何よりも際立つのは、**モニカ自身の声の力—それこそが、本作における最も強靭な“R&Bの証明”**である。
全曲レビュー
Code Red (feat. Missy Elliott)
アルバムの幕開けを飾る表題曲は、Missyとのコラボによる爆発力のあるアップテンポ。
「R&Bは死んでいない、私がここにいる」と宣言するかのような、ジャンル再生の号令のような楽曲。
Just Right for Me (feat. Lil Wayne)
リードシングル。ピアノとビートが印象的なトラックに、リル・ウェインの軽妙なラップが絡む。
“あなたは私にちょうどいい存在”というラブソングでありながら、音数の少なさとヴォーカルの抜けが心地良い。
Love Just Ain’t Enough (feat. Timbaland)
ティンバランドのプロダクションが効いた、ビートの重厚さと浮遊感が同居するトラック。
愛だけでは関係は成り立たない——その冷静な現実感を描く歌詞が、大人の視点を感じさせる。
Call My Name
ストレートなバラード。愛が冷めつつある相手に「私の名前を呼んで」と訴える。
モニカの深く張りのある歌声が、言葉以上の説得力で感情を伝える。
I Know
ファンクの要素を取り入れた軽快なミッドテンポナンバー。
“わかってる、あなたの気持ちも、でも…”という複雑な関係性を、ユーモアとともに描く。
All Men Lie (feat. Timbaland)
またしてもティンバランドとのコンビ。エレクトロニックなリズムと切れのあるフックが印象的。
「男はみんな嘘をつく」というシニカルなメッセージが、批評的かつ挑発的に響く。
Deep
恋における“溺れるような”感覚を描いた、アーバンソウル寄りの一曲。
コーラスの厚みとビートの深みが、感情の“底なし沼”を思わせる演出をしている。
Hustler’s Ambition
愛と野心の板挟みで揺れる女性の視点を描く。
“あなたの夢は理解してる。でも…”というリリックが、現実と理想のジレンマをストーリーテリングで綴る。
Alone in Your Heart
「心の中に私しかいないと信じさせて」——そんな願望を歌った、シンプルで切実なミッドテンポ。
音の派手さはないが、感情の強度はアルバム随一。
Suga
ソウルとファンクが融合した軽快なトラック。
“あなたにとって私は甘い存在”というウィットに富んだ構成で、アルバムの中で一息つける位置づけ。
Ocean of Tears
タイトル通り、涙の海に沈むような重く美しいバラード。
モニカの声が持つ“嘆き”の質感が最大限に発揮されており、まさにソウルの真髄を聴かせる。
Saint & Sinner
「私は聖人であり、罪人でもある」と歌う一曲。
二面性を受け入れたうえで、自己を肯定するメッセージが込められており、
モニカの精神的成熟を象徴するようなトラックである。
総評
『Code Red』は、単なるアルバムではない。
それはモニカによる“R&B存続宣言”であり、ジャンルに対する愛の叫びでもある。
アルバム全体を通しては、トレンドに合わせた要素も随所に見られるが、
決して流されることなく、“あくまでモニカらしい声”でそれを表現しているのが本作の凄みだ。
Missy ElliottやTimbalandといった盟友との再会、
Lil Wayneのようなラッパーとのコラボレーションにより、過去と未来を繋ぐ“橋”のような役割も果たしている。
商業的には大きな成功を収めたとは言いがたいが、
それでも本作が持つ誠実さと決意の強さは、真のR&Bファンにこそ深く届くものだった。
“危機”を訴えるこの作品が、同時に“愛”と“可能性”に満ちていたことは、
まさにモニカというアーティストの核心を物語っている。
おすすめアルバム(5枚)
- K. Michelle『Anybody Wanna Buy a Heart?』
現代R&Bの中でストレートな感情と自己主張を描くスタイルが共通。 - Jazmine Sullivan『Reality Show』
ソウルフルでシニカルな視点が通じ合う、2010年代R&Bの傑作。 - Keyshia Cole『Point of No Return』
情緒と冷静さが交錯する作品として近い気質。 - Brandy『Two Eleven』
自己再定義とモダンR&Bの融合という視点で対比的に響く。 -
Ciara『Jackie』
母性、恋愛、葛藤など、女性の多面性を描いたアルバムとしての共振性。
6. 制作の裏側(Behind the Scenes)
『Code Red』の制作において、モニカはあえて「プロデューサーを分散させず、コアなチームで作ること」を選んだと語っている。
Missy Elliottはアルバムコンセプトそのものの相談役でもあり、表題曲の制作は真っ先に進められた。
Polow da Donのスタジオでの録音では、90年代のR&Bレコードをあえて参考資料として流し、
“かつての空気感”を呼び戻しながら、現代の解釈で再構築するアプローチが採られた。
モニカはまた、「息子たちに“ママの音楽”を誇らしく思ってほしい」という気持ちも制作の原動力だったと明かしている。
つまり本作は、業界的な提言であると同時に、母親として、女性としての意志表明でもあったのだ。
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