アルバムレビュー：Christmas with Brandy by Brandy

アルバムレビュー

2025.06.15

発売日: 2023年11月10日
ジャンル: R&B、ホリデー・ミュージック、ソウル、ジャズ

概要

『Christmas with Brandy』は、R&B界のヴォーカル・バイブル、ブランディが2023年に発表したキャリア初のクリスマス・アルバムであり、
伝統的なホリデー・ソングに、彼女らしい温もりと洗練、そして静かな感情の深みを注ぎ込んだ、冬に寄り添う一枚である。

長年にわたり深みのあるボーカルと緻密なアレンジで知られるブランディが、
このアルバムではクラシックなクリスマス楽曲のカバーと、数曲のオリジナル曲を織り交ぜながら、
ホリデーの喜びと寂しさ、その両方を大人の視点で描き出している。

サウンド面では、トラディショナルなゴスペルやソウル、ジャズに加え、R&Bらしいビート感とヴォーカルレイヤーが随所に配されており、
“懐かしさ”と“新しさ”が絶妙なバランスで同居している。
また、控えめな演出の中にも、ブランディの**声の表情と間（ま）**が豊かに響くのが、本作最大の魅力といえる。

1. Feels Different
オリジナル曲。ホリデー・シーズンの高揚感に潜む“何かが違う”という違和感をテーマにしたミッドテンポのR&Bナンバー。ブランディの繊細な吐息交じりのボーカルが印象的。

2. Somebody’s Waiting
静かなイントロから広がるスローバラード。恋人の帰りを待ちわびる孤独と希望を描く。スモーキーなジャズピアノとストリングスのアレンジが心に染みる。

3. Christmas Party for Two
タイトル通りの甘くロマンチックなオリジナルソング。R&B的なビートと柔らかなヴォーカルが絡み合い、“ふたりだけのクリスマス”を優しく包む。

4. Have Yourself a Merry Little Christmas
定番のクリスマス・バラードを、極めてスロウでジャジーに再解釈。ブランディならではの多重コーラスとフェザータッチな歌唱が、温もりと寂しさを同時に伝える。

5. Silent Night
聖夜の静けさをそのまま音にしたようなミニマルアレンジ。息づかいが聴こえるほど繊細なボーカルが、祈りに近いムードを醸す。

6. Deck the Halls
アップテンポにアレンジされたジャズ・スウィング調の1曲。コーラスワークが豊かで、ブランディの遊び心が感じられる明るいトラック。

7. Everyday Is Christmas
オリジナル曲。恋人と過ごす時間が“クリスマスのよう”という幸福感に満ちたラブソング。ミディアムテンポで、心が浮き立つようなトーン。

8. Jingle Bells
原曲の楽しさを保ちつつも、ブランディ風にアーバンなR&Bに落とし込んだ意欲的アレンジ。グルーヴ感が際立ち、クラブでも聴けるような新鮮さがある。

9. The Christmas Song (Chestnuts Roasting on an Open Fire)
ホリデー定番中の定番。マーヴィン・ゲイのようなソウルフルなアプローチで、ブランディが“語るように歌う”珠玉の1曲。

10. Someday at Christmas
スティーヴィー・ワンダーの名曲カバー。希望と平和を願うリリックが、彼女の穏やかで慈しみに満ちた歌声と見事に融合。

11. Feels Different (Reprise)
冒頭曲のリプライズ。エレピのコード進行をバックに再び“心の違和感”が語られ、アルバム全体を円環的に閉じる構成が美しい。

『Christmas with Brandy』は、単なる“R&Bシンガーによるホリデーアルバム”にとどまらず、
ブランディというアーティストの成熟と静かな祈りが凝縮された冬の物語集である。

過剰な装飾を排したプロダクションと、“声で情景を描く”という唯一無二のスキルが交差するこの作品は、
聴く者にとって、“懐かしいけれど新しい”という不思議な感覚をもたらしてくれる。

また、恋人・家族・孤独・希望──クリスマスに浮かび上がるすべての感情を、
彼女はそっとすくい取り、音楽という名の毛布で包み込んでくれるのだ。

『Christmas with Brandy』は、2020年の『B7』で示した精神的成熟の延長線上にあり、
“語るように歌う”という彼女の新しい表現スタイルを、季節というテーマに乗せて深化させた作品である。

今後、ブランディがさらにどのような音楽的進化を遂げるかは未知数だが、
この作品は間違いなく、彼女の“声”の可能性が尽きないことを静かに証明した一枚である。