
1. 歌詞の概要
「Change」は、Candleboxが1993年にリリースしたデビューアルバム『Candlebox』のラストトラックであり、バンドの楽曲の中でも最も内省的でスピリチュアルな深みを持った一曲である。アルバムの最後を飾るにふさわしく、この曲は“変化”をテーマに据えながら、自己の解放、痛みの受容、そして再生といった普遍的なテーマを壮大なスケールで描き出している。
全体として、曲は非常にスロウに始まり、時間をかけて静寂と爆発を往復しながら感情を高めていく。歌詞では明確なストーリーが語られることはなく、むしろ曖昧なままにされる“心のうねり”が描かれており、そのことがこの曲に終わりのない問いのような響きを与えている。
「Change(変化)」という言葉には、救いへの願いもあれば、逃避としての意味合いもある。つまりこの曲は、変わることの希望と恐怖のあいだに揺れる心を、音とリリックで丁寧に描いた“魂の風景画”なのである。
2. 歌詞のバックグラウンド
Candleboxのフロントマンであるケヴィン・マーティンは、自身の歌詞に常に個人的な喪失や怒り、許し、再生といったテーマを込めてきたが、この「Change」はその中でもとりわけ純粋に“内面を見つめる”ことに徹した作品である。
当時の音楽シーンはグランジの絶頂期であり、破壊衝動や怒り、世間への不信感をぶつけることがひとつの表現様式となっていた。その中で「Change」は、Candleboxが単に怒れる若者のバンドではなく、精神的・詩的な地平へと向かう資質を持っていたことを示す重要な楽曲だといえる。
ライブパフォーマンスでもこの曲は長尺で演奏されることが多く、ジャム的な展開と感情の高まりを伴って“セレモニー”のような扱いを受けている。まさに聴き手にとっても、変化を“受け入れる時間”そのものとなるような曲なのである。
3. 歌詞の抜粋と和訳
以下に「Change」の印象的なラインを抜粋し、英語と日本語訳を併記する(出典:Genius Lyrics):
As I stand here
I ponder greater things
「こうして立ち尽くして
もっと大きなものを思いめぐらせている」
No matter what the weather brings to me
I will always be your same
「どんな天気が僕を打ちつけても
僕はずっと君のままでいる」
I saw the red sun burst and fall
And I’ve seen it rise again
「赤い太陽が爆ぜて落ちるのを見た
それがまた昇るのも、僕は見たんだ」
この詩的なイメージの中にあるのは、生の循環と変容のメタファーである。太陽は落ちても、また昇る。苦しみも訪れるが、それもやがて終わり、新しい局面がやってくる。語り手はそこに「希望」と「運命」と「再生」の兆しを見出している。
4. 歌詞の考察
「Change」の魅力は、その語られなさにある。直接的なメッセージや物語が語られることはなく、語り手はただそこに“立っている”。その静けさの中で、「変わる」という言葉は単なる行動ではなく、精神的な成熟のプロセスそのものを表している。
「変わる」ということは、すなわち「かつての自分を捨てること」であり、「まだ見ぬ自分と出会うこと」である。それは必ずしもポジティブなものとは限らず、むしろ痛みや喪失を伴うものでもある。しかしこの曲では、それを「選択」ではなく、「自然現象」として受け入れているようにも感じられる。雨が降るように、太陽が昇るように、変化は起きる。それに抗うことはできない。ただ、その変化を受け入れたときにこそ、自分という存在がより深く立ち上がってくるのだ。
音楽的にも、この曲の構成は静→動のコントラストが鮮やかで、特に終盤にかけてのギターとボーカルが一体となった高まりは、まるで魂が脱皮していくかのようなカタルシスを生み出す。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- Black by Pearl Jam
失われたものを静かに抱きしめるような、喪失と赦しの詩。 - Nutshell by Alice in Chains
内なる痛みと孤独に静かに向き合う、グランジ屈指のバラード。 - Like a Stone by Audioslave
死や信仰と向き合うことをテーマにした、魂のバラード。 - Come In From the Rain by Captain Beyond
変化と再生のメタファーを壮大に描いたプログレ的スピリチュアルソング。 - The World I Know by Collective Soul
変わりゆく世界の中で、自分自身を問い直す静かな名曲。
6. “変わることは、終わることではない”
Candleboxの「Change」は、終わりのようで、始まりでもある“変化の瞬間”を音楽化した詩である。怒りや叫びを使わず、静かに語ることでむしろ強く訴えかけてくるこの曲は、聴き手の心の奥にある“変わりたい”という小さな叫びに優しく寄り添ってくれる。
「Change」は、自分を変えようとしても変われなかった夜、もしくは変わってしまった自分に戸惑う朝にそっと聴いてほしい。そこには**言葉では説明しきれない“感情の居場所”**がある。そしてその静けさの中で、あなたはきっと、自分が変わってきたことに気づくはずだ。変化はいつも、音もなく始まっている。Candleboxはそのことを、この7分に及ぶ叙情詩で静かに教えてくれるのだ。
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