発売日: 1998年10月12日
ジャンル: ポップ、ティーンポップ、ユーロポップ、ケルティック・ポップ
概要
『B_Witched』は、アイルランド出身の4人組ガールズグループB_Witchedが1998年に発表したデビュー・アルバムであり、ポップ・ミュージックにおける“青春の爆発力”をそのまま音にしたような、きらめきに満ちた作品である。
本作は、デビューシングル「C’est La Vie」のUKチャート初登場1位を皮切りに、立て続けに4作連続1位という快挙を成し遂げ、B*Witchedは90年代後半のUKポップ・シーンを象徴する存在へと急成長した。
最大の特徴は、ガールズポップにアイリッシュ・トラッドの要素(フィドルやティン・ホイッスルなど)を大胆に取り入れた点にあり、“スパイス・ガールズ以後”のガールグループ像に新たなバリエーションを与えた。
また、ティーンエイジャー特有の恋愛感情や友情、夢や期待をテーマにした明快な歌詞と、爽快なコーラス・ハーモニーは、同世代の若者たちの心を瞬時に捉えた。
本作は、ヨーロッパのみならず北米や日本でも成功を収め、“ケルティック・ポップ”というジャンルのポップ市場進出を果たした画期的アルバムである。
全曲レビュー
1. Let’s Go (The B*Witched Jig)
インストゥルメンタルに近いオープニング。アイリッシュ・フィドルが飛び跳ねるように舞い、アルバムの楽しい雰囲気を予感させる。
2. C’est La Vie
デビュー曲にして代表作。ウィットに富んだ歌詞とアイリッシュ・ポップのミクスチャー。サビの「Say you will, say you won’t〜」は90年代ポップの象徴的フレーズとなった。
3. Rev It Up
ガールズグループらしいエネルギッシュなアップテンポ・ナンバー。車をモチーフにした恋の駆け引きがテーマ。
4. To You I Belong
切なく美しいバラード。シンプルなアコースティック・ギターに乗せた等身大の愛の告白が胸を打つ。
5. Rollercoaster
恋愛の浮き沈みを“ジェットコースター”に喩えた、エレクトロポップ寄りの一曲。軽快なリズムが心地よい。
6. Blame It on the Weatherman
セカンドシングルにしてチャート1位を獲得した名曲。天気を比喩にした失恋の歌詞が文学的で、ストリングスのアレンジも印象的。
7. We Four Girls
グループの絆や仲間意識をテーマにした賛歌的トラック。4人であることの意味を、楽しげに、そして力強く歌う。
8. Castles in the Air
夢や空想、恋に落ちる瞬間を描いたティーンポップの真骨頂。ふわふわとしたメロディが甘美な世界観を生む。
9. Freak Out
ポップ・ロック色の強い異色曲。ティーンエイジャーの情緒の揺れをそのまま表現したような荒々しさが新鮮。
10. Like the Rose
“バラのように咲いていたい”という少女的願望をテーマにした、繊細でロマンティックなバラード。
11. Never Giving Up
ポジティブな自己肯定のメッセージが込められた一曲。B*Witchedの明るいイメージを支える重要な楽曲。
12. Oh Mr. Postman
恋文をテーマにしたユーモラスなナンバー。古典的題材を90年代風にアレンジするセンスが光る。
総評
『B*Witched』は、ポップ・ミュージックが持つ“明るさ”と“無邪気さ”の可能性を最大限に引き出した一枚である。
サウンド面では、スウィートで軽やかなユーロポップに、フィドルやアイリッシュの要素を絶妙にブレンドすることで、他のガールズグループにはない“地域性”と“独自性”を生み出している。
歌詞の多くは若さゆえの恋や希望に溢れており、デビュー当時メンバーが10代だったことも、その説得力を高めている。
構成も、アップテンポ・ナンバーからバラードまでバランスよく配置されており、通して聴くことでティーンエイジャーの“ひとつの夏”を体験するような流れが味わえる。
B*Witchedは本作で、ガーリッシュでポジティブ、そしてケルト文化を取り入れたポップグループという、唯一無二のスタイルを確立した。
それは今なお、“過去のかわいらしい思い出”ではなく、時代を映した瑞々しい記録として多くの人の記憶に残っている。
おすすめアルバム(5枚)
- S Club 7『S Club』
同じく青春・友情をテーマにしたティーンポップの金字塔。ポジティブなエネルギーがB*Witchedと共通。 - Steps『Step One』
ユーロポップとダンスの融合。B*Witchedに似た男女混成の明るいポップスが楽しめる。 - The Corrs『Talk on Corners』
アイリッシュ・サウンドとポップの融合という意味で、B*Witchedの音楽的親戚的存在。 - Atomic Kitten『Right Now』
2000年代初頭のUKガールズグループによる感情豊かなポップ。B*Witchedの進化系としても聴ける。 -
Avril Lavigne『Let Go』
よりロック寄りだが、10代女性の視点で描かれた感情表現の強さが、B*Witchedのバラードに通じる。
ビジュアルとアートワーク
『B*Witched』のジャケットおよびMVには、ジーンズ・オン・ジーンズのファッション、ブレイズヘア、そして満面の笑顔といった、当時のY2K手前の“ティーンの理想像”が詰め込まれている。
彼女たちのスタイリングは、スパイス・ガールズの都会的で尖ったビジュアルとは異なり、より自然体で“親しみやすい”印象を打ち出すものであり、同世代の少女たちから絶大な支持を得た。
そのポップで親密なビジュアル戦略もまた、本作を時代のアイコンとして確立する上で欠かせない要素であった。
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