発売日: 1991年10月1日
ジャンル: R&B、アーバン・コンテンポラリー、ニュー・ジャック・スウィング
概要
『Burnin’』は、Patti LaBelleが1991年に発表した通算11作目のソロ・スタジオ・アルバムであり、彼女のキャリアにおける新たな黄金期を象徴する傑作である。
本作は、90年代初頭のR&Bシーンの中で、往年のディーヴァがいかにして時代に適応しながらも“魂の声”を失わずに輝き続けたかを雄弁に語る一枚である。
アーバン・コンテンポラリー、ニュー・ジャック・スウィング、パワーバラードといった当時のトレンドを取り込みつつも、その中心には常にパティ・ラベルの圧倒的な歌唱力があり、技巧に走ることなく感情を深く伝える表現力が光っている。
本作はグラミー賞「Best Female R&B Vocal Performance」を受賞し、彼女の名声と実力を次世代にも印象づける転機となった。
全曲レビュー
1. Somebody Loves You Baby (You Know Who It Is)
リードシングルとして大ヒットしたバラード。
シンプルなタイトルの中に秘められた“誰かがあなたを深く愛している”というメッセージが、抑制の効いたアレンジとともに静かに心に沁みわたる。
サビの繰り返しが、慈愛と確信を象徴するように力強い。
2. When You’ve Been Blessed (Feels Like Heaven)
本作のスピリチュアルなハイライトであり、ゴスペル出身である彼女の原点回帰ともいえる一曲。
“祝福されたとき、それは天国のような気分”というストレートな歌詞と、クワイアとの共演が壮大なスケールを生む。
ラベルの声が天に昇るような感覚をもたらす名演。
3. I Don’t Do Duets (feat. Gladys Knight)
タイトルとは裏腹にグラディス・ナイトとの夢のようなデュエットが実現。
ユーモアと自負が込められた“私は滅多にデュエットなんてしない”というメッセージが、2人の歌姫の個性を際立たせる。
競演というより“共鳴”と呼ぶにふさわしい仕上がり。
4. Temptation
ニュー・ジャック・スウィング調のビートを基調にしたアーバンR&B。
誘惑と理性の葛藤をテーマに、都会的で洗練されたサウンドが展開される。
リズムは現代的でも、ラベルのヴォーカルは揺るがず真摯。
5. Burnin’
アルバムタイトル曲にして、内に秘めた情熱を爆発させるようなソウル・ナンバー。
“私は今も燃えている”という自己肯定が、彼女のキャリア全体を象徴するような力を持つ。
中間部のシャウトは圧巻。
6. Let Me Be There for You
静かな誓いのような愛のメッセージを歌ったバラード。
“あなたのそばにいる”というシンプルな言葉に込められた深い情愛が、パティの繊細なボーカルによって丁寧に描かれる。
ピアノとストリングスの控えめなアレンジが楽曲を支える。
7. Love Never Dies
“愛は決して死なない”という普遍的テーマを掲げたスロウ・バラード。
ラベルの声がまるで愛そのもののように響く、純粋でエモーショナルな一曲。
教会音楽的な余韻も漂う。
8. I Can’t Forget You
過去の恋を忘れられない女性の心情を描いたミディアム・テンポのR&B。
感傷に浸りながらも、前へ進もうとする意志が見え隠れする。
リズムと旋律のバランスが心地よい。
9. One of These Mornings
夜明けの静寂を思わせる、幻想的なバラード。
“ある朝、私は自由になる”という希望に満ちた歌詞と、包み込むようなヴォーカルが深い癒しを与える。
アルバムの終盤にふさわしい余韻を残す楽曲。
10. Just the Facts
軽妙なビートに乗せて、恋愛における“事実だけを語れ”と突きつける、強気で知的なR&Bナンバー。
女性の自己主張と現代的な視点が込められており、90年代初頭の空気感を強く映している。
総評
『Burnin’』は、Patti LaBelleがディーヴァとしての成熟と進化を同時に遂げたアルバムである。
80年代の成功を経て、90年代に入ってもその存在感を保ち続けるために、彼女は単に“時代に合わせる”のではなく、“時代に自らを焼き付ける”選択をした――それが本作の核心である。
ソウル、R&B、ゴスペル、そしてアーバン・コンテンポラリーのすべてが見事に調和し、特にバラードにおける表現力は、比類なき深みをたたえている。
グラミー受賞もうなずける、まさに“燃えるような”完成度を持った傑作である。
おすすめアルバム(5枚)
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Whitney Houston – I’m Your Baby Tonight (1990)
同時代のR&Bポップ。『Temptation』のような都会的ビートと共鳴。 -
Gladys Knight – Good Woman (1991)
共演者とのソロ作品で、成熟した愛と自己肯定が『Burnin’』と重なる。 -
Luther Vandross – Power of Love (1991)
バラードの深みとソウルフルなヴォーカルの理想形。『Love Never Dies』と響き合う。 -
Aretha Franklin – What You See Is What You Sweat (1991)
ディーヴァの90年代的変革。『Just the Facts』のような“今”を映すR&Bに通じる。 -
Anita Baker – Compositions (1990)
成熟した女性ヴォーカルの極み。『Let Me Be There for You』のしっとりとした叙情性と共振。
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