発売日: 2000年6月
ジャンル: オルタナティブ・ポップ、シンガーソングライター、フォーク・ロック
概要
『Broken Bracelet』は、ミシェル・ブランチが2000年に自主制作で発表したデビュー・アルバムであり、
メジャーデビュー以前の彼女の“原石としての輝き”と、シンガーソングライターとしての純粋な衝動を封じ込めた貴重な作品である。
当時17歳だった彼女は、アリゾナ州の自宅ガレージでギターを抱えながら楽曲を書き続けており、
このアルバムには、のちにメジャーで再録される楽曲や、ライブでも人気の高い曲が数多く含まれている。
アルバムタイトルの「Broken Bracelet（壊れたブレスレット）」は、ミシェルが尊敬するシンガーソングライター、
ジュエルがくれたブレスレットが壊れた日に“人生が変わる”と予言されたことにちなんでいる。
実際、その後のブランチの成功は、まさにその“壊れた瞬間”から始まっていたとも言える。
全曲レビュー
If Only She Knew
痛みと希望が入り混じるアコースティックなオープナー。
“彼女が知ってさえいれば”というフレーズが、思春期の不器用な嫉妬と優しさを滲ませる。
Sweet Misery
切なさの中に力強さを秘めたフォーク・ロック・ナンバー。
恋に溺れながらも自己を見失いたくないという、ブランチの芯の強さが表れる。
Washing Machine
日常の風景と感情の浮き沈みを重ね合わせるという、若きブランチらしい比喩的な表現が光る。
タイトルの“洗濯機”は、感情の渦に翻弄される自分自身を象徴している。
I’d Rather Be in Love
のちに『The Spirit Room』にも再録された代表曲のひとつ。
“愛されること”ではなく“恋している状態”を肯定する視点が、新世代の恋愛観を提示している。
Paper Pieces
失われた関係の残滓を「紙切れ」に喩える、叙情的なミディアムバラード。
簡潔ながらも、強い映像喚起力を持つリリックが印象的。
Stewart’s Coat
ジュエルのカバー。敬意を込めつつ、彼女自身の声で語り直しており、
メンターと弟子の美しい連なりが音の中に宿る。
You
フォークギターのリフが心地よい、等身大のラブソング。
“I hate the way you look at me sometimes”など、リアルで生々しい感情が逆に魅力。
Hold Me
シンプルながらも、ハーモニーの美しさが際立つスロー・ナンバー。
抱きしめることが救済になるような、親密で穏やかな瞬間を描く。
Don’t Stay
軽快なテンポと“突き放す”ような歌詞のギャップが心地よい。
若者特有の白黒はっきりした感情と、その裏にある脆さがにじむ。
Goodbye to You
後にメジャーアルバムでも再録される、最も有名な失恋曲。
この自主制作版では、よりナイーブで生々しい演奏と歌声が胸を打つ。
“君にさよならを告げることが、いちばん難しい”というフレーズが、静かに胸を刺す。
総評
『Broken Bracelet』は、ミシェル・ブランチという才能の“出発点”であると同時に、
2000年代初頭に登場する“新しい女性シンガーソングライター像”の萌芽をはらんだ作品である。
ギターと声だけで語り切るスタイルは、過剰な装飾を拒む潔さに満ちており、
その素朴な響きは、同時代のジュエルやサラ・マクラクラン、さらにはアラニス・モリセットといった先達たちの系譜に連なるものである。
しかし、ブランチの特異性は、その中でもよりポップで、より“普通の女の子”に近い視点から歌を紡いでいる点にある。
彼女の歌は等身大で、感情は未整理で、だからこそ聴き手は自分自身を重ねることができる。
メジャーデビュー作『The Spirit Room』以降の彼女を知るリスナーにとっても、本作は**“はじまりの光景”**として非常に意味深い。
あの透明なメロディと、少し背伸びしたリリックの原型は、このアルバムにすべて詰まっているのだ。
おすすめアルバム（5枚）
- Jewel『Pieces of You』
若き才能が放つフォーク・ソングの純粋な輝きという点で、共鳴する作品。 - Vanessa Carlton『Be Not Nobody』
ピアノ主体だが、同世代女性アーティストとしての感性と歌詞世界が近い。 - Alanis Morissette『Jagged Little Pill』
内省的で怒りを孕んだ表現が特徴。ブランチの感情的爆発に通じるものあり。 - Sarah McLachlan『Surfacing』
透明感と情感のバランス。ブランチのバラード志向と重なる部分がある。 -
Avril Lavigne『Let Go』
より後の世代だが、“普通の女の子”がロックを歌うスタンスに近い。
6. 制作の裏側（Behind the Scenes）
本作は、当時無名だったミシェル・ブランチが地元アリゾナで録音し、インディーズ・レーベルの“Twin Dragon Records”から自主リリースされた。
レコーディングはごく限られた予算と機材で行われ、プロデューサーのJeff Rabhanの協力により仕上げられた。
多くの楽曲がライブで鍛えられたものであり、音のラフさ＝ライブ感の強さとして残っているのも本作の魅力である。
まさに、“青春の手ざわり”がそのまま音源に封じ込められている作品と言えるだろう。
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