発売日: 2003年5月20日
ジャンル: メロディック・ハードコア、パンクロック、ハードコア・パンク
血と情の絆に縛られて——闘争の後に見つめ直す“つながり”の意味
『Bound by Ties of Blood and Affection』は、カリフォルニアのメロディック・ハードコア・バンドGood Riddanceが2003年にリリースした6作目のフルアルバムである。
本作は、彼らがFat Wreck Chordsから発表したアルバムの中でも最もバランスの取れた音楽的成熟と、精神的静けさを感じさせる作品であり、
怒りの炎がゆっくりと内側に沈み、“対話”や“回復”といったテーマへと歩み寄った重要作として位置づけられる。
タイトルにある「血と情の絆」は、家族や仲間、思想的共同体のことを暗示している。
それは同時に、「怒りではなく共感で結ばれる関係性」への希求でもあり、
本作を通して感じられるのは、ラディカルな闘争を経た後の、穏やかで実直な人間性である。
前作『Symptoms of a Leveling Spirit』(2001)で得たメロディの強さと構成の巧みさを継承しつつ、
本作ではよりオーガニックでライヴ感ある音像が目立つ。
録音は再びThe Blasting Roomにて、Bill StevensonとJason Livermoreが共同プロデュース。
全曲レビュー
1. Made to Be Broken
オープナーにして、このアルバムの核心を突くような言葉が並ぶ。
“壊れるために作られたもの”としての制度や規範、その中での人間の孤独がにじむ。
2. More DePalma, Less Fellini
前作に続いて再録されたこの楽曲では、商業主義と文化の空洞化がテーマ。
ストレートな演奏が、批評精神をさらに際立たせる。
3. Saccharine
タイトル通り“甘ったるい嘘”への警鐘。
現実逃避的なポジティブさを拒み、真実を見据える姿勢が描かれる。
4. Up & Away
エネルギッシュな2ビートの中に、希望と前進が込められたメロディックな楽曲。
自己変革の物語として機能する。
5. Symptoms of a Leveling Spirit
前作タイトル曲のリマスターバージョン。
“均される精神”という概念が、再び強く響く位置に配置されている。
6. The Dubious Glow of Excess
過剰消費と表層的成功への批判を、毒と皮肉を込めて歌う。
ギターの重層性が際立つ中盤のハイライト。
7. Black Bag Confidential
CIAを連想させる“ブラック・バッグ”という言葉を用いた政治的トラック。
情報操作や国家権力への疑念が炸裂するスピーディな楽曲。
8. Paean to the Enlightenment
啓蒙への賛歌というユニークなタイトル。
人間の理性と自由の価値を、パンクの形式で祝福する哲学的内容。
9. There’s No “I” in Team
集団の中での個人の役割と責任を問いかける。
タイトルはよく使われる皮肉表現だが、実は真の協力とは何かを掘り下げている。
10. The Process
個人の成長、変化、再生をテーマにした、内省的なナンバー。
Good Riddanceらしい“闘う中で考える”姿勢が反映されている。
11. Dylan
ボブ・ディランではなく、個人名としての“Dylan”に向けたプライベートなトラック。
喪失や友情がテーマと見られ、アルバム中最も抒情的な楽曲。
12. Remember Me
エモーショナルかつメロディアスなバラード。
“覚えていてほしい”というフレーズが、個人の存在証明として響く。
13. Flies First Class
毒舌とユーモアを織り交ぜた風刺曲。
成功や富の裏側にある腐敗と虚無を暴くパンクらしい切れ味。
総評
『Bound by Ties of Blood and Affection』は、Good Riddanceが築き上げてきた政治的/倫理的美学を、より柔らかく、深く内側から照らし直した一作である。
“闘うこと”だけが正義ではない。“繋がること”にもまた、同じくらいの勇気と倫理が必要なのだ。
このアルバムは、そうした共感と内省のパンクとして成立している。
演奏はタイトでありながら、強さよりも誠実さがにじむトーン。
Russ Rankinのボーカルも、かつての攻撃性よりも“語りかける”ような温度感を持ち、
それがアルバムのメッセージをより普遍的なものにしている。
“家族”、“友情”、“連帯”といったパンクでは語られにくいテーマが、
ここでは決して甘くならず、批評性と共にしっかりと扱われている。
Good Riddanceが、“声を荒げるだけのパンク”を超えた瞬間がここにある。
おすすめアルバム
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Strike Anywhere – Exit English (2003)
社会批評と内省を両立させた、ポスト・Good Riddance世代の名作。 -
None More Black – Loud About Loathing (2004)
個人の不安と社会的疎外を描いた、ユーモラスかつ鋭い短編パンク。 -
Propagandhi – Potemkin City Limits (2005)
政治的でありながら、詩的で哲学的なリリックが光るインテリジェント・パンク。 -
Rise Against – Siren Song of the Counter Culture (2004)
GRの精神性を受け継ぎつつ、よりメロディックに昇華したバンドの代表作。 -
Avail – Dixie (1994)
地域性と人間性を同時に描いた、熱量と真実味のあるオーセンティックな一枚。
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