Beethoven’s 5th (Rearranged) by MARCIN（2021）楽曲解説

1. 歌詞の概要

MARCINによる「Beethoven’s 5th (Rearranged)」は、あのルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェンの交響曲第5番「運命」の冒頭モチーフを、まったく新しいスタイルで再構築した、クラシックと現代音楽の衝突点に生まれたインストゥルメンタル楽曲である。

本作には歌詞は存在しないが、その代わりに、ギター一本で奏でられる音たちが言葉を超えたメッセージ性を強烈に放っている。原曲の持つ「宿命的なテーマ」は残しつつも、MARCINの手によりその運命の扉は「挑戦」「反逆」「再定義」の音色をまとって開かれる。

つまりこの作品は、古典の威厳と21世紀的な自己表現がギリギリまでせめぎ合う「音楽の再構築」なのである。

ポーランド出身のギタリスト、MARCIN（本名：Marcin Patrzałek）は、クラシックギターとフラメンコ、さらには現代のエレクトロニカやポップの感性を融合させた独自のスタイルで注目を集める若き天才である。

彼が「Beethoven’s 5th」をアレンジしたのは、2021年にSNSを通じて発表したパフォーマンス映像がきっかけだった。この演奏はYouTubeやInstagram、TikTokを通じて一気に拡散され、視聴者の度肝を抜く。

特に印象的だったのは、ギターのボディを打楽器のように叩きながら、同時にメロディーとベースライン、さらにはビートまで構築していくその超絶技巧。ベートーヴェンの楽譜をなぞるのではなく、完全に自らの言語に翻訳することで、クラシック音楽を「現代の個人表現」として蘇らせたのだ。

MARCINは幼少期からクラシックギターを学び、のちにフラメンコ、ジャズ、ロックなどを吸収しながら、他ジャンルのエッセンスを縦横無尽に取り入れてきた。その過程が、この「Beethoven’s 5th (Rearranged)」という、古典の象徴を新たな文脈で鳴らす作品に結晶している。

この楽曲はインストゥルメンタルであり、言語的な歌詞は存在しない。ただし、その演奏の“言語性”は極めて強く、音のひとつひとつが「意思」として語りかけてくる。

原曲「交響曲第5番ハ短調作品67」のモチーフ、

“ダダダダー！”

この4音の運命的な動機が、MARCINの手によりスラップ・タッピング・パーカッシブ奏法を通じて鋭く、そしてリズミカルに切り出される。言葉はいらない。音が語る「生と死」「決意と解放」こそが、この曲の真の“リリック”なのである。

ベートーヴェンの原曲が発表されたのは1808年。ナポレオン戦争の渦中、音楽の役割が「娯楽」から「精神の叫び」へと変わろうとしていた時代である。

その「運命」がMARCINの手で生まれ変わるとき、そこには時代を超えた“自我の叫び”が宿る。彼の演奏は、単にクラシックをアップデートするのではない。むしろ、それを破壊して再構築し、今日のリスナーに対して全く新しい問いを投げかけているのだ。

「この旋律を、あなたはどう聴くのか？」「200年前の魂の叫びは、今のあなたにとって何なのか？」

MARCINのギターは、問いを突きつけながら、同時にその答えを強要しない。聴く者それぞれが、自らの「運命」と向き合うための余白を与えてくれる。

“Toccata” by Marcin
　同様にクラシックの断片を現代風に再構築した、スピード感と構成力の際立つパフォーマンス。
“Canon Rock” by JerryC / FunTwo
　クラシック楽曲をギターアレンジで大衆化させたインターネット黎明期の名アレンジ。
“Fur Elise (Metal Version)” by Cole Rolland
　伝統とモダンなジャンルの融合による、異文化的クラシカル・クロスオーバー。
“Bach’s Prelude in C” (Reharmonized) by Jacob Collier
　ハーモニーの再解釈という観点で、クラシックへの新たな接続を提示する。
“Love Theme” (Fingerstyle) by Sungha Jung
　感情をギター一本で紡ぎ出す現代の名手。MARCINと通じるフィジカルな語り口が魅力。