
発売日: 1999年10月18日
ジャンル: ポップ、ダンスポップ、ケルティック・ポップ、ティーンポップ
概要
『Awake and Breathe』は、アイルランド出身のガールズグループB*Witchedが1999年にリリースした2枚目のスタジオ・アルバムであり、ティーンポップ全盛の時代にあって、より成熟した音楽性を模索した意欲作である。
前作『B*Witched』が、ケルト音楽の要素を散りばめたポップ・デビューとして世界中の若年層に絶大な人気を誇った一方、本作ではポップスの中にソウル、アコースティック、R&B的要素を融合させ、より柔らかく、落ち着きのあるサウンドへとシフトしている。
また歌詞の面でも、恋愛のときめきや失恋、成長や自立といったテーマが増え、ティーンエイジャーから“大人になりかけの少女たち”への過渡期の感情が率直に描かれているのが特徴である。
セールス面では前作のような爆発的ヒットには至らなかったものの、グループとしての音楽的幅を広げたという意味で、重要なアルバムであることに疑いはない。
全曲レビュー
1. If It Don’t Fit
軽快なギターとシンセで彩られたポップ・ナンバー。恋愛の“違和感”を描くリアリスティックな視点が新鮮。
2. Jesse Hold On
先行シングル。疾走感のあるサビとストリングスのアレンジが印象的で、前作よりも洗練されたサウンドへの進化を感じさせる。
3. I Shall Be There
アフリカン・ドラムとコーラスが印象的なエスニック・ポップ。グループの冒険心が感じられる異色曲。
4. Jump Down
ダンサブルなビートとファンキーなベースラインが際立つパーティーチューン。グループの中でもっともエネルギッシュな一曲。
5. Someday
バラード調の曲で、片思いのせつなさを描写。シンプルなアコースティック・ギターが楽曲の感情を引き立てる。
6. Leaves
ケルト風の装飾が施されたスロウナンバー。季節の移り変わりに重ねた関係の変化を歌っており、詩的な表現が光る。
7. The Shy One
内向的な性格の主人公が恋に向き合うストーリー。ポップでありながら自己肯定のメッセージが込められている。
8. Red Indian Girl
フォーキーな要素が強い一曲。物語性のある歌詞とリズムの強弱が交差し、絵本のようなイメージが浮かぶ。
9. It Was Our Day
友情やグループの絆をテーマにした佳曲。卒業や別れの時期に聴きたくなる、ノスタルジックなムードが漂う。
10. My Superman
ロマンスをファンタジーで包んだミドルバラード。子どもっぽさと大人びた感情が交錯する境界線的楽曲。
11. Are You a Ghost?
幻想的なタイトル通り、ミステリアスで浮遊感あるトラック。別れた恋人への未練と疑念を描くリリックが切ない。
12. In Fields Where We Lay
アルバムのラストを飾る、静かでスピリチュアルなバラード。自然や記憶をモチーフにした壮大な構成で、物語を締めくくるにふさわしい。
総評
『Awake and Breathe』は、B*Witchedが“ティーンのアイドル”から一歩踏み出し、自らの音楽性と向き合おうとした誠実な作品である。
確かにデビュー作ほどのインパクトや商業的成功は得られなかったが、その分このアルバムには、音楽的な探求心と個性の成長が刻まれている。
サウンドはユーロポップ主体から、アコースティックやエスニック、R&B的アプローチへと多彩に広がっており、B*Witchedというグループがもはや“バブルガムポップの一発屋”ではないことを静かに証明している。
歌詞にも少女から大人への成長過程にある揺れや矛盾が繊細に描かれており、それがリスナーに共感と余韻を残す。
『Awake and Breathe』は、ポップの軽やかさと内面性を絶妙に両立させた、過小評価されがちな良作であり、今こそ聴き直すべき90年代後半の隠れた名盤である。
おすすめアルバム(5枚)
- All Saints『Saints & Sinners』
内省的な歌詞と洗練されたサウンドが、B*Witchedの進化後と響き合う。 - Atomic Kitten『Feels So Good』
恋愛や友情をテーマにしたミディアムバラード中心のガールズ・ポップ。感情表現が共通。 - Natalie Imbruglia『Left of the Middle』
ポップとオルタナの間にある独特の叙情性が、B*Witchedの“成長”と重なる。 - The Corrs『In Blue』
ケルティックな要素とポップを融合したアプローチで、B*Witchedの音楽的血縁を感じさせる。 - Billie Piper『Walk of Life』
ティーンアイドルからの脱却を目指したポップ・アーティストによる第二作。立ち位置が非常に近い。
後続作品とのつながり
『Awake and Breathe』のリリース後、グループは方向性や契約問題により解散状態となるが、2010年代に再結成を果たし、EPやライブ活動を再開することとなる。
その意味で本作は、B*Witchedの“最初の物語”の終章にして、“次なる目覚め”の伏線ともいえる。
楽曲タイトルの「Awake and Breathe(目覚めて、息をして)」は、まさにB*Witchedというグループの“音楽の呼吸”そのものを象徴する言葉として、静かに響いてくる。
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