発売日: 2006年8月8日
ジャンル: オルタナティブ・ロック、インディーロック、ポストロック
洗練された芸術性と感情の爆発——As Tall As Lionsがたどり着いた音楽の成熟
2006年にリリースされたAs Tall As Lionsは、バンドのセルフタイトル作であり、彼らの音楽的な進化を示す重要な作品である。
前作Lafcadio（2004年）では、ポストハードコアやエモ的な要素を含んでいたが、本作ではより洗練され、ポストロック的な広がりのあるアレンジとジャズ／ソウルの影響を感じさせる演奏が加わり、独自の音楽性を確立。ヴォーカルのDaniel Nigroの表現力も向上し、バンドの音楽がより感情的かつドラマチックに深化している。
また、サウンドのプロダクションも向上し、楽器の空間的な配置や、シンセ、ホーン、ピアノなどの要素が絶妙に組み合わさり、シネマティックで幻想的な雰囲気を持つアルバムに仕上がっている。
As Tall As Lionsは、この作品でエモ／オルタナティブ・ロックの枠を超え、アート志向の強いバンドとしての地位を確立した。
全曲レビュー
1. Stab City
アルバムの幕開けを飾る、ダークで緊張感のあるサウンドが印象的な楽曲。ジャズの影響を感じさせるドラムワークと、Daniel Nigroの情熱的なボーカルが絡み合い、リスナーを一気にアルバムの世界観に引き込む。
2. Song for Luna
浮遊感のあるギターと、メロディアスなボーカルが特徴の楽曲。ノスタルジックでロマンティックな雰囲気を持ち、ポストロック的な広がりのあるアレンジが印象的。
3. Set Yourself on Fire
リズミカルなドラムとベースラインが際立つ楽曲。エモーショナルなボーカルと緊張感のある展開が、バンドの持つダイナミズムを最大限に引き出している。
4. A Break A Pause
静かなピアノと優しいボーカルから始まり、徐々に盛り上がっていく。ジャズやソウルの要素が感じられるアレンジが特徴で、バンドの音楽性の多様性を示す楽曲。
5. Milk and Honey
本作のハイライトのひとつ。幻想的なギターのアルペジオと、感情のこもったボーカルが際立つ。サウンドのレイヤーが絶妙に重なり合い、バンドの持つシネマティックな要素が最も発揮されている楽曲のひとつ。
6. Be Here Now
ジャジーなリズムとソフトなギターの音色が特徴の楽曲。「今ここにいること」の大切さをテーマにした歌詞が、リスナーに穏やかで感傷的な気持ちを与える。
7. I’m Kicking Myself
メロディアスでキャッチーな楽曲でありながら、歌詞のテーマは深く、自己嫌悪や後悔といった感情が描かれている。アコースティックなアレンジとエモーショナルなボーカルが際立つ。
8. Where Do I Stand?
静かな始まりから徐々に壮大なサウンドへと展開する楽曲。スティーブン・クリスチャンのボーカルが、楽曲の持つドラマチックな雰囲気を際立たせている。
9. Maybe I’m Just Tired
アルバムのラストを飾る美しいバラード。シンプルなピアノと優しいボーカルが、アルバム全体の感情の流れを締めくくるのにふさわしい。静かに終わることで、余韻が長く残るエンディングとなっている。
総評
As Tall As Lionsは、バンドが音楽的な成熟を遂げた作品であり、エモ／オルタナティブ・ロックの枠を超え、ジャズやポストロックの要素を取り入れた独自のサウンドを確立したアルバムである。
前作Lafcadioが持っていたエネルギッシュな要素は残しつつも、より繊細で洗練されたアレンジが施され、幻想的な音のレイヤーが楽曲の奥行きを生み出している。
また、Daniel Nigroのボーカルは、より感情の込められた表現へと進化し、シンプルなメロディの中にも深い情緒が感じられるようになった。歌詞のテーマも、愛、喪失、希望といった普遍的なものが描かれ、アルバム全体を通してシネマティックなストーリーを紡いでいる。
このアルバムは、単なるエモ／オルタナティブ・ロック作品ではなく、アート性の高いロックアルバムとして、2000年代のインディーシーンの中でも特別な存在感を放つ。
その後のアルバムYou Can’t Take It with You（2009年）では、より実験的な方向へと進化していくが、本作はAs Tall As Lionsの持つ芸術性とエモーショナルな音楽のバランスが最も優れた形で表現された作品である。
おすすめアルバム
- Circa Survive – On Letting Go (2007)
エモーショナルなボーカルと幻想的なサウンドが、本作と共通する。 - The Dear Hunter – Act II: The Meaning of, & All Things Regarding Ms. Leading (2007)
ドラマチックな展開とアート志向の強いアレンジが、本作とリンク。 - The Appleseed Cast – Peregrine (2006)
ポストロックとエモの融合が、本作と似た雰囲気を持つ。 - Copeland – Eat, Sleep, Repeat (2006)
繊細なメロディとジャズ的なアプローチが、本作と共鳴。 - Minus the Bear – Menos el Oso (2005)
リズミカルなギターアレンジと、洗練されたサウンドが本作と似ている。
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