発売日: 1995年4月4日
ジャンル: ローファイ・インディーロック、ガレージロック、パワーポップ
無秩序の中のポップの輝き——Guided by Voicesが描く音楽の万華鏡
1995年、**Guided by Voices（GBV）**は、前作『Bee Thousand』（1994年）の成功を経て、メジャー・インディーレーベルMatador Recordsと契約し、バンドの最高傑作のひとつとされる『Alien Lanes』をリリースした。
前作『Bee Thousand』はローファイ・インディーロックの金字塔とされ、家庭用4トラック・レコーダーで録音された雑然としたサウンドと、驚くほどキャッチーなポップメロディの融合が、当時のオルタナティブ・ロック界に衝撃を与えた。本作『Alien Lanes』もその路線を継承しつつ、より意図的にカットアップ的な編集が施され、楽曲の短さと断片的な構成が極限まで研ぎ澄まされているのが特徴だ。
アルバム全体で28曲、合計41分という驚異的な構成で、ほとんどの楽曲が1〜2分以内で終わる。まるでロックンロールの断片を詰め込んだカセットテープをランダム再生しているかのような、奇妙な浮遊感がある。しかし、そんな実験的な構成の中に、ロバート・ポラードの生み出すメロディックなセンスが光り、次々と記憶に残るフレーズが飛び出してくるのがGBVの真骨頂である。
Matadorからのリリースとなったことで、録音環境が少し向上したものの、ローファイ特有の荒々しさは健在であり、むしろその雑多なエネルギーこそが本作の魅力となっている。
全曲レビュー（主要曲ピックアップ）
1. A Salty Salute
「The club is open!」というロバート・ポラードの象徴的なシャウトで幕を開ける本作。GBV流のアンセム的な要素を持ちつつも、ローファイのザラついた質感がしっかりと残っている。
2. Evil Speakers
短いながらもパワーポップのエッセンスを凝縮した楽曲。キャッチーなメロディと、わずか40秒で終わる潔さがGBVらしい。
3. Watch Me Jumpstart
アルバムの中でも比較的まとまりのある楽曲で、バズコックスのようなパンク的エネルギーと、ザ・フー的なメロディの融合が見事。
5. Game of Pricks
本作のハイライトのひとつであり、GBVの代表曲とも言える名曲。 ローファイながらも、圧倒的なメロディの強さで聴き手を惹きつける。のちにリレコーディングされ、シングルとしてもリリースされた。
8. Closer You Are
ザ・フー的なギターリフと、エネルギッシュなボーカルが特徴。荒削りながらも、ライブ映えする楽曲。
11. As We Go Up, We Go Down
ジャングリーなギターと、不穏なコード進行が独特の雰囲気を醸し出す。GBVらしい実験的な一曲。
16. My Valuable Hunting Knife
ミステリアスなムードの漂う楽曲で、ポップなメロディとシュールな歌詞の対比が印象的。GBVの多面的な音楽性を感じられる一曲。
21. Striped White Jets
アップテンポで、キャッチーなメロディが際立つ楽曲。GBVのガレージロック的な側面がよく表れている。
24. Alright
穏やかなアコースティックギターのイントロが印象的なバラード風の楽曲。アルバムの流れの中で、心地よいブレイクを作り出している。
28. Over the Neptune / Mesh Gear Fox
アルバムの締めくくりにふさわしい、カオティックでエネルギッシュなトラック。最後まで無秩序なロックンロールの精神を貫く。
総評
『Alien Lanes』は、『Bee Thousand』の成功を受けて制作されたが、単なる続編ではなく、さらに実験的なアプローチを強化し、GBVの音楽をよりカオティックに、よりポップに、そしてより自由にした作品である。
28曲という圧倒的なボリュームの中には、1分にも満たない楽曲や、未完成のようなアイデアの断片も多く含まれているが、それこそがこのアルバムの魅力。 まるでロックンロールの断片をコラージュしたかのような構成が、GBVの持つDIY精神と創造性の高さを際立たせている。
また、ポラードのポップセンスはさらに磨きがかかっており、「Game of Pricks」や「My Valuable Hunting Knife」など、ローファイながらもメロディが際立つ名曲が詰まっている。
90年代インディーロックの中でも、最もエネルギッシュで、最も自由なアルバムのひとつであり、リスナーによっては**「音楽の万華鏡」のように感じられるだろう。**
このアルバムが好きな人におすすめの5枚
- Pavement – Crooked Rain, Crooked Rain（1994年）
GBVと並ぶローファイ・ロックの代表格。よりメロディアスで、聴きやすい作品。 - The Replacements – Tim（1985年）
パンクとパワーポップの要素が融合した名盤。GBVの影響源のひとつ。 - Sebadoh – Bakesale（1994年）
ローファイ・ロックの名盤。GBVの荒削りな魅力が好きな人におすすめ。 - The Apples in Stereo – Tone Soul Evolution（1997年）
60年代ポップとローファイ・ロックを融合させた作品。GBVのポップな側面に共鳴する。 - The Olivia Tremor Control – Music from the Unrealized Film Script, Dusk at Cubist Castle（1996年）
サイケデリック・ポップと実験的な音楽が融合した作品。GBVのカットアップ的な編集が好きなら必聴。
『Alien Lanes』は、ロックンロールの美しさとカオスが共存する、Guided by Voicesの最高傑作のひとつ。
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