1. 歌詞の概要
Iron Maidenの「Aces High」は、1984年のアルバム『Powerslave』のオープニングを飾る楽曲であり、同年シングルとしてもリリースされた。歌詞のテーマは第2次世界大戦におけるバトル・オブ・ブリテン（1940年）である。パイロットの視点から描かれた歌詞は、迫りくる敵機との死闘、極限状態での緊張感、そして勝利か死かという究極の状況を生々しく伝えている。
「夜明けが訪れた」「敵が空から襲ってくる」という描写は、戦争映画さながらの緊張感を持ち、リスナーはあたかもコクピットに座るパイロットになったかのような没入感を覚える。サビの「Run, live to fly, fly to live, do or die!」というフレーズは、命を賭けた空の戦いの本質を端的に表した名文句である。
2. 歌詞のバックグラウンド
「Aces High」はスティーヴ・ハリス（ベース）の作曲によるもので、バンドが持つ「歴史を題材にしたドラマティックな叙事詩的楽曲」の典型例である。『Powerslave』というアルバム自体がエジプト神話や死生観を扱う壮大な作品である中で、「Aces High」は歴史的現実を題材にしつつも、同じく「人間の極限状況」を描き出している。
ライブでは必ずと言っていいほど冒頭に演奏される曲であり、チャーチル首相のスピーチ「We shall fight on the beaches…」が流れ、その後に爆音でイントロが始まるという演出は、Iron Maidenのコンサートを象徴する瞬間として知られている。観客はその時点で熱狂に包まれ、バンドのエネルギーとテーマが一体となった舞台体験を生み出す。
シングルとしても大ヒットし、イギリスのチャートでトップ20に入り、Iron Maidenが世界的メタルバンドとしてさらに地位を確立する契機となった。
3. 歌詞の抜粋と和訳
（歌詞引用元：Iron Maiden – Aces High Lyrics | Genius）
There goes the siren that warns of the air raid
空襲を告げるサイレンが鳴り響く
Then comes the sound of the guns sending flak
続いて高射砲の轟音が響く
Out of the scramble, we’ve got to get airborne
スクランブルだ、俺たちは空へ舞い上がらねばならない
Got to get up for the coming attack
迫りくる攻撃に立ち向かうために
Run, live to fly, fly to live, do or die
走れ、生きるために飛べ、飛ぶために生きろ、生きるか死ぬかだ
歌詞は戦闘機パイロットの生々しい心境を描写し、命を賭けた戦いの狂気と緊迫感をリスナーに直接叩きつける。
4. 歌詞の考察
「Aces High」は、Iron Maidenが得意とする「歴史を題材にした物語音楽」の代表例である。特に本曲が優れているのは、戦争を英雄的に描くのではなく、「生き残るための必死の戦い」としてリアルに提示している点である。
「生きるために飛ぶ」というフレーズは、戦争における兵士の心理を端的に表現している。理想や勝利ではなく、生存そのものが最大の目的であり、そのために命を賭けるしかない。この生々しさが、歴史的事件を単なる叙事詩ではなく「人間の極限の体験」として描き出している。
音楽的には、爆発的なイントロと疾走感あふれるリフが、空戦のスピードと緊張感を表現している。ブルース・ディッキンソンのハイトーンは、パイロットの叫びそのもののように響き、聴き手を戦場の空へと引き込む。スタジオ録音だけでなく、ライブでの圧倒的なエネルギーがこの曲を永遠のアンセムへと押し上げた。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- The Trooper by Iron Maiden
クリミア戦争を題材にした代表曲で、戦場の兵士の視点を描く。 - Where Eagles Dare by Iron Maiden
同じく戦争をテーマにした『Piece of Mind』収録曲。 - 2 Minutes to Midnight by Iron Maiden
核戦争の恐怖をテーマにした社会派楽曲。 - Overkill by Motörhead
戦場の混沌を思わせるスピード感を持つアンセム。 - Holy Diver by Dio
英雄的イメージと叙事詩的メロディが共通する名曲。
6. Iron Maidenのライブを象徴する歴史的アンセム
「Aces High」は、Iron Maidenのライブを開幕から観客の熱狂へと導く究極のオープニング曲である。そのテーマはバトル・オブ・ブリテンという現実の歴史でありながら、音楽はそれを超えて普遍的な「生死の闘争」を描き出す。
戦争の悲劇を英雄譚として美化するのではなく、生存を賭けた極限の体験として描くことで、この曲は歴史的事実を超えて人間存在の本質を示している。スティーヴ・ハリスのベース、ギターリフの疾走感、ブルース・ディッキンソンの絶叫が一体となった「Aces High」は、メタル史における不朽のアンセムであり、今なお空を翔ける兵士の視点から我々に「生き抜くことの意味」を問いかけ続けているのである。
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