アルバムレビュー：Absolutely by Madness

発売日: 1980年9月26日
ジャンル: 2トーン・スカ、ポップロック、ニューウェイブ、ミュージックホール

概要
全曲レビュー
総評
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概要

『Absolutely』は、Madnessが1980年に発表した2作目のスタジオ・アルバムであり、
スカとポップ、ユーモアと社会観察を融合させた“ロンドン労働者階級のグルーヴ”を確立した重要作である。

前作『One Step Beyond…』でUKスカ・リヴァイバルの中心に躍り出た彼らは、
本作でその勢いを維持しつつ、よりソングライティングに重きを置いた成熟の兆しを見せている。

プロデューサーは引き続きClive Langer & Alan Winstanley。
録音はわずか数週間で行われ、荒削りながら生き生きとしたエネルギーがそのまま刻み込まれた“ナットティ・ポップ”の結晶となった。

“家族”“学校”“日常のイライラと楽しさ”といった小さなテーマを、
都市生活のサウンドトラックとしてコミカルかつシニカルに描いたこのアルバムは、Madnessというバンドの核となる物語性＝“キッチンシンク・ドラマ的美学”を確立した作品でもある。

全曲レビュー

1. Baggy Trousers

開幕から炸裂する、学校生活への風刺とノスタルジーをコミカルに描いた代表曲。

スピード感あるリズムと跳ねるようなサックス、さらにパンキッシュなユーモアが詰まった歌詞は、
多くのUKキッズの共感と爆笑を誘った。

MVでの空飛ぶサックス奏者（Lee Thompson）は今や伝説。Madnessの代名詞的1曲。

2. Embarrassment

珍しく深いテーマを扱ったナンバーで、異人種間の出産を家族がどう受け入れるかという現実的な社会問題に踏み込んでいる。

音楽的にはスカ・ビートを軸にしながら、ストリングスとミドルテンポのアレンジが曲に重みを与える。

コメディバンドではないMadnessの社会性が滲む傑作。

3. E.R.N.I.E.

実在の馬券払い戻し制度“ERNIE”をもじった小曲。

ギターと鍵盤がユーモラスに絡み合いながら、労働者の小さな夢と現実のコントラストをポップに描いている。

オチの効いた構成は、まるでイギリス版の落語のようでもある。

4. Close Escape

逃避と追われる感覚を軽快なスカ・リズムに乗せて表現。

Suggsの語り口調ヴォーカルとサックスの駆け引きがスリリングで、映画的カーチェイスのような緊張とユーモアが交錯する。

短い曲ながら、Madnessらしい演劇的センスが光る。

5. Not Home Today

「今日は家にいないよ」という、ティーンの“心の距離”をユーモラスに描いた曲。

両親、学校、友人──どれにも属さない感覚を軽快なスカのテンポで表現し、
音楽の明るさとリリックの孤独が絶妙に交差している。

6. On the Beat Pete

労働と日常、ロンドンの街角の風景をミニマルに切り取った1曲。

メロディは淡々としているが、その単調さが日常の退屈さと繰り返しを的確に捉えており、まるで短編小説のよう。

7. Solid Gone

ホーンとピアノが先導するスウィング調のリズムに、ミュージックホール的な狂騒とグルーヴが融合。

これはもうスカというより“ナットティ・ジャズ”。
バンドの引き出しの広さを証明する実験的なトラック。

8. Take It or Leave It

ストレートなコード進行とスカのミッドテンポに、別れを題材にした少しだけ切ないポップナンバー。

Madnessにしては珍しく恋愛要素を前面に出しており、
全体の騒がしさの中で“落ち着き”を与える役割も担っている。

9. Shadow of Fear

タイトル通り、ややダークなムードを持つ異色の楽曲。

陰鬱さはあるものの、鍵盤とブラスのレイヤーが常にリズムを支配しており、グルーヴィでありながらも不穏な美しさを放つ。

スカ・バンドの枠を超える表現力を示す1曲。

10. Disappear

ポップでアップビートな中にも、“消えたい”という願望がひそむナンバー。

無邪気に踊っているようで、どこか不安定。
Madness特有の“明るい闇”が最も端的に表れた楽曲のひとつ。

11. Overdone

ジャジーな展開と重たいホーンセクションが印象的なナンバー。

タイトル通り、過剰さ＝“やりすぎた何か”への自己批評や風刺を感じさせる構成になっており、アルバムの中でも実験色の強い一曲。

12. In the Rain

雨とともに流れるようなメロディラインが美しいバラード。

スカというよりレゲエに近いリズムで、“雨の中の孤独”を繊細に描いた、Madnessにしては非常に内省的な楽曲。

バンドの“静”の側面を象徴する。

13. You Said

閉じ込められたようなコード進行と歪んだサウンドが際立つ、皮肉と恨みを渦巻かせたナンバー。

ラストに向けてトーンが次第に上がっていく構成がドラマチックで、
Madnessの“単なる陽気さ”ではない深層を見せる1曲。

総評

『Absolutely』は、Madnessが**“一発屋のスカ・バンド”ではなく、都市の片隅から現実を観察し語り続ける“語り部”であることを証明したアルバム**である。

そこにはロンドンの通学路、家庭のキッチン、パブの片隅といった庶民の日常のリアリズムが刻まれており、
その描写を支える音楽は、単なるスカではなく、ブリティッシュ・ミュージックホールとニューウェイブのミクスチャーとして洗練されている。

“バカ騒ぎ”の中に垣間見える孤独や矛盾、愛情や哀しみ。

Madnessはこのアルバムで、笑いの裏にある真実こそが最も音楽的であるという信念を静かに提示したのだ。