発売日: 1955年4月25日
ジャンル: トラディショナルポップ、ジャズ
Frank SinatraのIn the Wee Small Hoursは、アルバム単位での芸術性を追求した初期のコンセプトアルバムの一つであり、失恋や孤独、内省をテーマにした深い感情が描かれた作品である。Sinatraの豊かなボーカル表現と、Nelson Riddleが手掛けたオーケストラアレンジが一体となり、リスナーを夜の静けさと心の中の葛藤に引き込む。
このアルバムは、1950年代のアルバム制作における革新を象徴しており、Sinatraがキャピトル・レコードで築いた黄金時代の最初期を代表する作品の一つだ。20世紀のポピュラーミュージックにおける金字塔であり、現在でもその芸術的価値は色褪せることがない。
各曲ごとの解説
1. In the Wee Small Hours of the Morning
アルバムのタイトル曲であり、夜明け前の静けさの中での孤独を歌った楽曲。Sinatraの低く穏やかなボーカルが、リスナーに深い感情を伝える。Riddleの控えめなストリングスアレンジが、この楽曲に静かな哀愁を添えている。
2. Mood Indigo
ジャズスタンダードのカバーで、Duke Ellingtonの名作をSinatraが優雅に再解釈。低音域での滑らかな歌声が、原曲のブルージーな雰囲気をさらに際立たせている。
3. Glad to Be Unhappy
内面的な苦悩をテーマにした楽曲で、Sinatraの歌唱が痛みと希望の微妙なバランスを表現している。メロディの起伏が少ない中で、彼のボーカル表現が際立つ。
4. I Get Along Without You Very Well
ほろ苦い別れを歌ったバラードで、Sinatraの繊細な声が心に響く。リスナーに忘れられない愛の記憶を呼び起こすような力を持つ楽曲。
5. Deep in a Dream
夢の中に逃げ込むような心情を描いた楽曲。Riddleのアレンジは、楽曲の幻想的な雰囲気を完璧に補完している。
6. I See Your Face Before Me
失った愛を回想する物語的な楽曲。Sinatraの声の抑制されたトーンが、静かな悲しみを伝えている。
7. Can’t We Be Friends?
失恋後の複雑な感情を表現した一曲。リズムセクションが軽快さを添える一方で、Sinatraの歌声は深い感情を湛えている。
8. When Your Lover Has Gone
別れの悲しみをテーマにした楽曲で、Sinatraの情熱的な歌唱が際立つ。ジャズのエッセンスを感じさせるリッチなアレンジが特徴的。
9. What Is This Thing Called Love?
Cole Porterの名曲をドラマチックに歌い上げた一曲。Sinatraの歌唱は、愛の不可解さを深く掘り下げている。
10. Last Night When We Were Young
過ぎ去った青春と愛への郷愁を描いた感動的なバラード。ストリングスが楽曲に荘厳さを加えている。
フリーテーマ: コンセプトアルバムの先駆けとしての価値
In the Wee Small Hoursは、単なる楽曲の寄せ集めではなく、明確なテーマを持ったコンセプトアルバムとして画期的な存在である。このアルバムでは、曲順や編曲が一貫性を持ち、リスナーを一つの物語や感情の旅へと誘う。夜の孤独や失恋の痛みを描写するスタイルは、後のアルバム制作におけるテンプレートとなり、ポピュラーミュージックの新たな可能性を切り開いた。
アルバム総評
In the Wee Small Hoursは、Frank Sinatraのキャリアにおける頂点の一つであり、彼のボーカル技術と感情表現の深さを堪能できる作品である。失恋や孤独といった普遍的なテーマが、Sinatraの声とRiddleのアレンジによって、時代を超えた感動を呼び起こす。コンセプトアルバムの先駆けとしての意義とともに、1950年代の音楽文化を知る上でも欠かせない一枚だ。
このアルバムが好きな人におすすめの5枚
Songs for Swingin’ Lovers! by Frank Sinatra
陽気でリズミカルな楽曲が多く収録された一枚で、Sinatraの多才さを堪能できる。
Only the Lonely by Frank Sinatra
同じく失恋や孤独をテーマにしたアルバムで、Sinatraの感情表現がさらに深まった作品。
Ella Fitzgerald Sings the Cole Porter Songbook by Ella Fitzgerald
ジャズとスタンダードの名曲が揃った作品で、Sinatraファンにもおすすめ。
Nat King Cole Sings for Two in Love by Nat King Cole
ロマンチックなムードが漂う一枚で、Sinatraのスタイルに共通点が多い。
Chet Baker Sings by Chet Baker
クールジャズの代表作で、静謐な雰囲気と感情表現がSinatraのアルバムと調和する。
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