
発売日:1986年8月25日
ジャンル:ポップ・ロック/シンセ・ポップ/アート・ポップ/ニューウェイヴ/ファンク・ロック
概要
Paul McCartneyの『Press to Play』は、1980年代半ばという急速に変化するポップ・ミュージックの制作環境へ、McCartneyが正面から対応しようとした作品である。The Beatles、Wings、そして1980年代前半のソロ活動を通じてすでに巨大なキャリアを築いていた彼が、シンセサイザー、ドラム・マシン、サンプリング的な音響、硬質なデジタル・プロダクションを積極的に導入し、当時の現代的なポップへ接近したアルバムとして重要な位置を占める。
前作『Pipes of Peace』やその前の『Tug of War』では、George Martinとの共同制作による比較的クラシックなポップ・アレンジが中心だった。ピアノ、ストリングス、バンド演奏を土台とし、McCartneyのメロディメーカーとしての才能を伝統的な形で提示していた。
それに対して『Press to Play』は、明らかに異質である。
プロデュースにはHugh Padghamが関わり、1980年代特有の巨大なドラム・サウンド、シンセサイザー、電子的なパーカッション、細かく加工されたギターが前面に出る。PadghamはPeter Gabriel、Phil Collins、Genesis、The Policeなどの作品で知られ、1980年代のデジタル時代を象徴するサウンドを確立した人物のひとりだった。
そのため本作には、McCartneyの作品としては珍しいほど「時代の音」が強く刻まれている。
さらに重要なのが、10cc出身のEric Stewartとの共同作曲である。
McCartneyはThe Beatles時代からJohn Lennonとの共作で知られてきたが、ソロ転向後は基本的に単独作曲が中心だった。『Press to Play』ではStewartとの共同作業が多く、普段のMcCartneyより複雑で少しねじれたコード、奇妙な言葉遣い、アート・ポップ的な構成が増えている。
この組み合わせによって、本作は単なる「80年代風McCartney」にはならない。
キャッチーな「Press」がある一方で、「Pretty Little Head」「Talk More Talk」「However Absurd」のように、構造や音響がかなり実験的な曲も存在する。
アルバム・タイトルの『Press to Play』は、機械のボタンを押して再生する行為を意味する。
これは1980年代の音楽環境を象徴する言葉でもある。
カセット。
CD。
シーケンサー。
ドラム・マシン。
デジタル機材。
「play」という行為が、人間が楽器を演奏することと、機械の再生ボタンを押すことの両方を意味する時代になっていた。
その二重性は、本作の音楽そのものにも存在する。
McCartneyという極めて人間的なメロディメーカーが、機械的な80年代プロダクションの中でどう響くか。
『Press to Play』は、その実験の記録である。
全曲レビュー
1. Stranglehold
「Stranglehold」はアルバムの幕開けとして、本作の音響的な変化を早い段階から示す楽曲である。
タイトルの「stranglehold」は「締め付け」「強い支配」といった意味を持つ。
恋愛や人間関係において、相手から逃れられない状態を示す言葉として機能する。
McCartneyのラヴ・ソングには、通常もっと明るく、親しみやすいメロディが多い。
しかしこの曲では、関係の中にある束縛や圧力が意識される。
音楽はファンクとロックの中間にある。
ベースとドラムのグルーヴが強く、ギターは短いフレーズでアクセントを付ける。
1980年代的な硬いドラム処理もあり、1970年代Wingsの自然なバンド・サウンドとはかなり異なる。
ヴォーカルにも少し攻撃性があり、アルバム冒頭からMcCartneyが従来のノスタルジックなイメージへ留まらないことを示す。
2. Good Times Coming / Feel the Sun
「Good Times Coming / Feel the Sun」は、二つの異なる部分を組み合わせた組曲的な楽曲である。
前半の「Good Times Coming」には、タイトル通り「良い時代がやって来る」という楽観的な感覚がある。
しかし、それは単純な未来肯定ではない。
過去の楽しかった時間を思い出しながら、再び同じような感覚を求めるニュアンスがある。
McCartneyはしばしば少年時代や家族、英国の夏、昔のポップ文化をノスタルジックに扱う。
この曲にも、その回想的な性格が感じられる。
後半の「Feel the Sun」では、さらに開放的なイメージへ移る。
太陽を感じる。
外へ出る。
光を浴びる。
その感覚は極めてMcCartney的だ。
本作は電子音が多いが、ここでは自然のイメージが強く、機械的なアルバムの中に温度を戻す。
二つの曲をつなぐ形式は、The Beatles後期やWings時代のメドレー的な構成を思わせる。
3. Talk More Talk
「Talk More Talk」は、本作でも特に実験的な楽曲のひとつである。
タイトルは「もっと話せ」という意味を持ち、コミュニケーションそのものをテーマにする。
しかし、音楽は通常の会話とは逆に、非常に断片的で人工的だ。
話し声。
加工された声。
サンプリング的な素材。
細かなリズム。
これらが組み合わされ、曲全体が一種の言語コラージュのように聞こえる。
ここでは「話す」という行為が、意味を伝える手段であると同時に、音そのものとして扱われる。
言葉は意味を持つ。
しかし声はリズムでもある。
1980年代のデジタル制作技術が可能にした「声の素材化」が、本作では早い段階から試されている。
McCartneyはThe Beatles時代からテープ編集や逆回転、効果音などに積極的だった。
その実験精神が1986年の技術環境へ移し替えられた楽曲と考えることができる。
4. Footprints
「Footprints」は、本作の中でも比較的静かで、メロディを前面に出した楽曲である。
タイトルは「足跡」。
過去に誰かが歩いた痕跡。
あるいは、自分自身が残してきた人生の軌跡。
そうした時間のイメージを持つ。
歌詞には孤独や記憶への視線があり、『Press to Play』の電子的な外観の中では珍しく、非常に人間的な温度がある。
音楽は穏やかで、過度なドラム・サウンドを抑え、ヴォーカルとメロディが中心になる。
McCartneyの最大の強みは、どれほどプロダクションが変化しても、単純な旋律だけで感情を成立させられることにある。
「Footprints」はその能力がよく分かる。
また、「足跡」というモチーフはキャリアの長いMcCartney自身にも自然に重なる。
The Beatles。
Wings。
ソロ。
長い時間を歩いてきた人物が、自分の残した痕跡を見る。
そのような読み方も可能な曲である。
5. Only Love Remains
「Only Love Remains」は、本作を代表するバラードである。
タイトルは「最後に残るのは愛だけ」という意味を持つ。
McCartneyが長年書いてきたラヴ・ソングの伝統に最も近い楽曲のひとつであり、アルバムの人工的なサウンドから一歩離れたところにある。
歌詞は、時間が過ぎ、さまざまなものが変化しても、愛情だけは残り続けるという内容を持つ。
このテーマは非常に古典的だ。
しかしMcCartneyは、それを複雑な比喩よりメロディによって説得力のあるものにする。
ピアノを中心とした構成も重要である。
彼のバラードでは、ピアノは単なる伴奏ではなく、歌声とほぼ同じ重要性を持つ。
「Maybe I’m Amazed」「My Love」などと同じく、和音の動き自体が感情を作る。
『Press to Play』の中では最も伝統的なMcCartney像が前面に出る一曲である。
6. Press
「Press」はアルバムの中心的なシングルであり、本作のコンセプトを最も直接的に表現する曲でもある。
タイトルの「Press」は、ボタンを押すことと、身体的に押し付けることの両方を連想させる。
その二重性を利用しながら、恋愛や身体的な接近を軽快なポップ・ソングへ変える。
音楽は典型的な1980年代ポップである。
プログラムされたリズム。
明るいシンセサイザー。
短く切られたギター。
軽快なヴォーカル。
巨大なロック・サウンドではなく、都市的で機械的なポップの精密さを重視する。
しかし、その上に乗るメロディは非常にMcCartneyらしい。
サビはすぐ覚えられる。
言葉も単純だ。
この「時代のプロダクションと古典的ポップ・ソングライティング」の組み合わせが、本作を象徴している。
7. Pretty Little Head
「Pretty Little Head」は、『Press to Play』でも最も異様で、実験性の高い楽曲のひとつである。
タイトルは「かわいい小さな頭」と一見軽い。
しかし音楽はむしろ不穏だ。
断片的なリズム。
シンセサイザー。
加工されたヴォーカル。
空間の大きいアレンジ。
これらによって、曲にはアート・ポップやニューウェイヴに近い感覚が生まれる。
Eric Stewartとの共同作曲の効果も強く感じられる。
10ccの音楽には、ポップ・ソングでありながら構造や音響をひねる特徴があった。
「Pretty Little Head」も同様に、普通のMcCartney的メロディを期待するとかなり異質に聞こえる。
歌詞には相手の心理や思考へ入り込もうとするような感触がある。
しかし明快な物語にはせず、音の奇妙さそのものを重視する。
本作が単なる80年代商業ポップではなく、実験的なスタジオ作品でもあることを示す重要曲である。
8. Move Over Busker
「Move Over Busker」は、アルバム後半でロックンロールの推進力を戻す楽曲である。
「busker」は街頭演奏者を意味する。
タイトルには「そこをどいてくれ」といった勢いがあり、ストリート的な音楽家のイメージとショービジネス的な野心が混ざる。
McCartneyは世界的なスターでありながら、路上で演奏する音楽家や小さなクラブのロックンロールへの愛着を長く持ってきた。
この曲にはその原点志向がある。
音楽はギター中心で、本作のシンセ・ポップ的な曲よりずっと直接的だ。
しかしプロダクションは依然として1980年代的で、ドラムの質感は大きく、ギターも乾いている。
古いロックンロール精神を、現代的なサウンドで鳴らしたような一曲である。
9. Angry
「Angry」は、タイトル通り怒りを前面に出した楽曲である。
McCartneyには穏やかで親しみやすいイメージが強いため、こうした攻撃的な曲は相対的に珍しい。
歌詞では、欺瞞や不誠実さ、他人への苛立ちが表現される。
その怒りを、感傷的なバラードではなく、ハードなファンク/ロックとして処理する。
サウンドは重く、リズムが非常に強い。
ギターも鋭く、McCartneyのヴォーカルは普段より荒い。
Phil CollinsとPete Townshendが参加していることも、この曲の力強さに寄与している。
TownshendのギターはThe Who的な攻撃性を思わせ、Collinsのドラムは80年代的な巨大さを加える。
アルバムの中でも最も直接的にロックのエネルギーを感じさせる曲のひとつである。
10. However Absurd
アルバムを締めくくる「However Absurd」は、タイトル通り「どれほどばかげていても」という意味を持つ。
本作の最後にこの言葉を置くことは非常に象徴的である。
『Press to Play』は、McCartneyが当時の最新技術や若い制作感覚に接近し、自分のスタイルを意図的に変形させた作品だった。
その試みは時に奇妙で、時に過剰で、時に彼自身の従来のイメージから遠い。
しかし「however absurd」、どれほど不条理でも試してみる。
その姿勢がアルバム全体にある。
音楽はアート・ポップ的で、構成も通常のラジオ向けポップより複雑だ。
メロディにはMcCartneyらしい美しさがある一方、アレンジには不穏さが残る。
単純な幸福感で終わらず、少し不可解な余韻を残す。
それによって『Press to Play』は、商業ポップとしてではなく、実験のアルバムとして幕を閉じる。
総評
『Press to Play』は、Paul McCartneyのキャリアの中でも特に評価が分かれやすい作品である。
その最大の理由は明確だ。
1986年という時代のサウンドが非常に強い。
巨大なスネア。
シンセサイザー。
プログラムされたリズム。
デジタル処理。
加工されたヴォーカル。
こうした音は、The BeatlesやWingsに見られる有機的なバンド・サウンドとは大きく異なる。
そのため、「McCartneyらしさ」をメロディ、ピアノ、ベース、生演奏の温かさに求める場合、本作は距離を感じさせる。
しかし、その違和感こそが『Press to Play』の歴史的な面白さでもある。
McCartneyは1940年代生まれであり、1950年代のロックンロールに憧れ、1960年代にThe Beatlesで革命的な作品を作った人物だ。
その彼が1980年代半ばになっても、当時の最新サウンドへ近づこうとしている。
つまり、本作は「過去の巨匠が自分の型を守ったアルバム」ではない。
むしろ、自分の型を一度壊そうとしたアルバムである。
これはMcCartneyのキャリアに一貫する特徴でもある。
The Beatles時代にはテープ・ループやオーケストラ、インド音楽、ミュージック・コンクレートを試した。
『McCartney II』ではシンセサイザーと宅録へ進んだ。
後にはThe Fireman名義でアンビエントやエレクトロニック・ミュージックも試している。
したがって、『Press to Play』の電子的な実験は、表面的には80年代的でも、根本にはMcCartneyの長年の好奇心がある。
特に「Talk More Talk」と「Pretty Little Head」はその好例だ。
この2曲では、ヒット・シングルを書くことより、音の配置や声の加工そのものが重要になっている。
これはThe Beatles後期のスタジオ実験精神ともつながる。
ただし、1960年代にはテープ編集によって行っていたことを、1980年代にはデジタル機器やシーケンサーに置き換えている。
この技術的な世代交代が本作には刻まれている。
一方で、「Only Love Remains」のような曲を聴くと、McCartneyの中心はまったく変わっていないことも分かる。
彼の最大の武器はやはりメロディだ。
複雑なスタジオ処理がなくても成立する。
ピアノと声だけでも曲になる。
この伝統的な側面と、電子的な実験の間にある緊張が、本作の最大の特徴である。
Eric Stewartとの共同作業も重要だ。
McCartneyはThe Beatles解散後、自分一人で曲を書くことに慣れていた。
しかしStewartと共作することで、普段なら選ばないコード、言葉、構成が入り込む。
「Pretty Little Head」や「However Absurd」に見られる少し屈折した感覚は、その共同作業の成果として理解できる。
10ccもまた、1970年代にポップの構造とスタジオ実験を融合したバンドだった。
McCartneyとStewartには「ポップであること」と「実験的であること」を対立させない共通点があった。
ただし、この共作が必ずしも自然に統一された結果を生んだわけではない。
『Press to Play』には、曲ごとの方向性がかなり異なる。
「Only Love Remains」は伝統的なバラード。
「Press」はシンセ・ポップ。
「Angry」はファンク/ハード・ロック。
「Talk More Talk」は実験的な音響コラージュ。
「Move Over Busker」はロックンロール。
そのためアルバム全体には、明確な一つのスタイルより「試している途中」という感覚がある。
この散漫さは弱点でもある。
しかし、それをキャリア中期の実験作として見れば、非常に興味深い。
1980年代半ばのMcCartneyは難しい位置にいた。
彼はすでにロック史そのものだった。
しかしポップ市場は急速に若返り、MTV、デジタル・シンセ、サンプラー、巨大なプロダクションが主流になっていた。
Prince。
Peter Gabriel。
Phil Collins。
Dire Straits。
a-ha。
Pet Shop Boys。
こうしたアーティストが、映像とデジタル制作を前提とした新しいポップを作っていた。
McCartneyがその中で「自分は60年代の伝説だから昔の音を続ける」とは考えなかったことが、本作には表れている。
「Press」はその最も分かりやすい例だ。
メロディは典型的なMcCartney。
しかしリズムと音色は完全に1986年。
この二つが自然に融合しているかどうかは聴き手によって評価が分かれる。
しかし、少なくとも彼が現代のポップを無視していなかったことは明白である。
歌詞の面では、McCartneyらしいラヴ・ソングと、従来より少し抽象的な表現が共存する。
「Only Love Remains」は非常に明快だ。
愛だけが残る。
一方、「Pretty Little Head」「Talk More Talk」「However Absurd」は、意味より音やイメージを重視している。
この違いも、Eric Stewartとの共同作業やアート・ポップ志向と関係する。
タイトルの『Press to Play』をアルバム全体へ広げると、本作には「人間と機械」というテーマを読み取ることもできる。
再生ボタンを押す。
ドラム・マシンを起動する。
シーケンサーが一定のリズムを刻む。
しかし、その上でMcCartneyは歌う。
人間の声。
人間のメロディ。
人間の感情。
1980年代のポップは「機械化された音楽」という批判を受けることもあった。
だが本作では、機械が人間性を消すというより、McCartneyがその機械を新しい楽器として使おうとしている。
この試行錯誤が最も面白い。
また、本作を後年のMcCartney作品から振り返ると、その過渡期的な性格がさらに明確になる。
1989年の『Flowers in the Dirt』ではElvis Costelloとの共作を通じ、より伝統的でライブ感のあるポップ・ロックへ戻る。
そのため『Press to Play』は、1980年代中盤のデジタル・プロダクションへ最も深く踏み込んだ特殊な地点として孤立している。
しかし、孤立しているからこそ価値がある。
The Beatles的な曲を期待して聴く作品ではない。
Wings的なバンド・ロックを求める作品でもない。
Paul McCartneyという歴史的なソングライターが、自分より若い世代が作った音響環境へどう入り込もうとしたかを聴く作品である。
商業的には、彼の過去の巨大な成功と比べれば控えめだった。
批評的にも長く評価が高い作品ではなかった。
しかし、後年の視点では、その不器用さや過剰な時代性も含めて興味深い。
なぜなら「時代に適応しようとすること」そのものが作品のテーマのように聞こえるからだ。
成功している部分もある。
無理を感じさせる部分もある。
実験が曲を強くしている部分もあれば、メロディを覆ってしまう部分もある。
その不均衡こそが『Press to Play』の本質である。
『Press to Play』は、McCartneyの代表作として最初に挙げられるアルバムではない。
しかし、彼のキャリアを「常に過去の成功を再現した人物」ではなく、「長期間にわたって新しい制作方法を試し続けた人物」と理解するうえでは重要である。
伝統的なメロディメーカー。
前衛的なスタジオ実験家。
大衆的なポップ・スター。
時代に適応しようとするベテラン。
それらのMcCartney像が、時に衝突しながら一枚の中に収められている。
そしてタイトル通り、再生ボタンを押した瞬間、そこから聞こえるのは「1986年のPaul McCartney」である。
過去のPaul McCartneyではない。
未来のPaul McCartneyでもない。
その時代特有の音響と格闘している姿を、そのまま封じ込めたアルバムである。
おすすめアルバム
1. Paul McCartney – McCartney II(1980)
シンセサイザー、ドラム・マシン、宅録を大胆に使用したMcCartneyの実験作。「Coming Up」「Temporary Secretary」などを収録し、『Press to Play』の電子的な側面を理解するうえで最も重要な先行作品である。こちらのほうがDIY色が強く、より奇妙で自由な実験性を持つ。
2. Paul McCartney – Flowers in the Dirt(1989)
『Press to Play』の次に大きな評価回復を果たした作品。Elvis Costelloとの共作を通じ、より有機的なポップ・ロックと強いソングライティングへ回帰している。両作を比較すると、1980年代後半にMcCartneyがどのように制作スタイルを再調整したかが分かる。
3. 10cc – The Original Soundtrack(1975)
Eric Stewartが在籍した10ccの代表作。「I’m Not in Love」などを収録し、キャッチーなポップと高度なスタジオ実験を融合している。『Press to Play』のStewart共作曲に見られる屈折したアート・ポップ感覚の背景を理解するうえで関連性が高い。
4. Peter Gabriel – So(1986)
『Press to Play』と同じ1986年に発表された、デジタル時代のポップ・ロックを代表する作品。シンセサイザー、サンプリング、巨大なドラム・サウンドを使いながら、人間的な歌唱と実験的な音響を両立している。80年代中盤の制作環境を比較するうえで非常に重要な一枚である。
5. Genesis – Invisible Touch(1986)
同じく1986年を象徴するデジタル・ポップ/ロック作品。Hugh Padghamのプロダクションによる明快で巨大なドラム、シンセサイザー、簡潔なポップ構造が特徴で、『Press to Play』が接近しようとしていた同時代のメインストリーム・サウンドを理解するうえで非常に分かりやすい作品である。

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