
発売日: 2013年10月15日
ジャンル: オルタナティヴ・ロック、ハードロック、パワーポップ、フォークロック
『Lightning Bolt』は、Pearl Jam が2013年に発表した10作目のスタジオアルバムである。
『Backspacer』(2009)で軽やかさとポップ性を手に入れたバンドは、
本作でさらに “成熟・深み・バンドとしての総合力” を押し広げ、
重厚さと親しみやすさを高いレベルで共存させる方向へ向かった。
サウンドの骨格はロックだが、
- 荒々しいギターロック
- エモーショナルなバラッド
- フォーク的な静けさ
- パワーポップの明快さ
など多彩な表情を見せ、
“これまでのPearl Jamの集大成”とも言える幅の広さを持っている。
歌詞世界は、
- 親子関係
- 死と喪失
- 生きることの重さ
- 愛と赦し
というテーマが中心で、
エディ・ヴェダーの声と人生観がますます深みを増した作品である。
全曲レビュー
1曲目:Getaway
タイトでスピーディなロックナンバー。
政治や社会のノイズから“逃げろ”と叫ぶようなエネルギーがある。
本作の勢いを象徴する幕開け。
2曲目:Mind Your Manners
パンクの衝動をそのまま注ぎ込んだ爆走曲。
90年代の攻撃性を想起させつつ、短く鋭い。
3曲目:My Father’s Son
複雑な家庭や父子関係を描くダークな曲。
不安定さと焦燥が混ざり、感情の揺らぎがストレートに伝わる。
4曲目:Sirens
本作最大の名曲のひとつ。
穏やかで美しいメロディと、痛切な歌詞が深く刺さるバラッド。
大人のPearl Jamを象徴する、普遍的な優しさが宿る。
5曲目:Lightning Bolt
アルバムタイトル曲。
ダイナミックなビートで突き進むロックアンセム。
光と闇を切り裂くようなギターが印象的。
6曲目:Infallible
政治・経済の問題をテーマにした批評的な曲。
重厚なアンサンブルが、歌詞の重量感と呼応する。
7曲目:Pendulum
暗く、ミニマルで、陰影の深い曲。
幽霊のように揺れる音像は、後期Pearl Jamの中でも独特。
アルバムの“夜”の部分を象徴する。
8曲目:Swallowed Whole
自然・海・自由といったモチーフが強い爽やかな曲。
疾走感と開放感のバランスが絶妙。
9曲目:Let the Records Play
ブルースロックを基調にした遊び心ある曲。
ヴィンテージ感と現代性が同居する一曲。
10曲目:Sleeping by Myself
エディの弾き語り曲をバンドアレンジで再演。
孤独と優しさが美しく重なる、静かなハイライト。
11曲目:Yellow Moon
月の神話から着想を得た幻想的なバラッド。
繊細なメロディが夜空のように広がる。
12曲目:Future Days
アルバムを締める、深く静かなラブソング。
“未来の日々”を誰かと共に歩むことへの感謝。
エディの声が極めて温かく、涙を誘うフィナーレ。
総評
『Lightning Bolt』は、
Pearl Jam のディスコグラフィの中でも
最も“総合力が高い”アルバムと言える。
特徴を整理すると、
- ロックとバラッドが高い完成度で共存
- 感情表現が成熟し、歌詞世界が深い
- 90年代の衝動と2000年代の静けさが自然に融合
- Brendan O’Brien のプロダクションが丁寧で壮大
- “長く寄り添える大人のロック”としての完成
本作は“革新的”ではないが、
“Pearl Jamというバンドが何者であるか”を最も美しく示した作品
といえる。
同時代のバンドで例えるなら、
・Bruce Springsteen の後期の完成度
・R.E.M. の円熟味
・Foo Fighters の安定感
などと共鳴しつつも、
Pearl Jam は唯一無二の温度感を保っている。
特に「Sirens」「Pendulum」「Future Days」は、
Pearl Jam 後期の美しさを象徴する三曲として、多くのファンに愛されている。
おすすめアルバム(5枚)
- Backspacer / Pearl Jam (2009)
本作の軽快さと前向きさの“前段階”。 - Pearl Jam(Avocado) / Pearl Jam (2006)
政治性とロック回帰の直系として聴き比べたい。 - Riot Act / Pearl Jam (2002)
陰影の深い精神性が“Lightning Bolt”の夜側と共通。 - Bruce Springsteen / Magic
大人のロックにおける“明−暗のバランス”という点で比較が面白い。 - Foo Fighters / Wasting Light
現代ロックの安定感の中での“勢い”という文脈で響き合う。
制作の裏側(任意セクション)
『Lightning Bolt』は、バンドが非常に良好な状態で制作したアルバムである。
メンバー各自の家族環境が安定し、
長年のツアー活動で“無理なく働くリズム”をつかみ、
気力と集中力のバランスが良かったという。
Brendan O’Brien の指揮のもと、
プロダクションは丁寧かつスピーディに進み、
サウンドの重厚さと清潔感が両立している。
「Pendulum」は、偶発的なスタジオの即興から生まれた曲であり、
静かで深い美しさを宿している。
アルバム全体に漂う“落ち着いた強さ”は、
Pearl Jam が成熟したロックバンドとして
ひとつの頂点を迎えた証でもある。



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