アルバムレビュー：Whispers II by Passenger

アルバムレビュー

2025.11.24

発売日: 2015年6月19日
ジャンル: インディーフォーク、アコースティック、シンガーソングライター

概要

『Whispers II』は、Passenger（Mike Rosenberg）が
2015年にリリースしたアルバムであり、
前作『Whispers』（2014）の “影の部分”“内側の声” を
掘り下げた続編として位置づけられている。

『Whispers』が比較的明るく軽やかなフォークポップへ向かい、
旅、日常、温かいストーリーを描いた作品だったのに対し、
本作『Whispers II』は より静かで重く、深い孤独と向き合う アルバムである。

音数は極めて少なく、
アコースティックギターやピアノ、わずかなストリングスが中心。
Passenger の声はとても近く録音されており、
“耳元で語られているような親密さ” を感じさせる。

歌詞は、
老い・後悔・孤独・距離のある愛・逃れられない現実
といった重いテーマが多く、
“Whispers（ささやき）”という言葉が示すように、
誰にも届かないつぶやきのような痛みが濃厚に漂う。

また収益のすべてが「Survival International」に寄付された作品でもあり、
Passengerにとって社会的意義の高いアルバムとなった。

全曲レビュー

1. Coins in a Fountain
2. 27
3. Heart’s on Fire
4. Bullets
5. Riding to New York
6. Whispers
7. Thunder
8. Golden Leaves
9. Scare Away the Dark
10. Two Tales
11. The Way It Goes
12. Fear of Fear
13. Catch in the Dark
14. Travelling Alone
15. Rolling Stone

1. Coins in a Fountain

美しいアコースティックの導入。
“願い”と“運命”を象徴するコインのイメージが印象的で、
静かな希望のような光が差す。

2. 27

人生の焦り、未達成感、自分への苛立ち。
Passengerの核心的テーマが鮮烈に表れる一曲。

3. Heart’s on Fire

恋の残り火を描いた名曲。
アルバムの中でも特にメロディラインの美しさが際立つ。

4. Bullets

過去の痛みや傷を象徴的に描いた深い楽曲。
ギターのループが淡々と続き、静かに心を侵す。

5. Riding to New York

余命わずかな男性の旅を描いた、Passenger屈指の物語曲。
死、赦し、希望が穏やかにまとめられている。

6. Whispers

タイトル曲の続編的位置づけ。
語りかけるようなボーカルが孤独をそのまま伝える。

7. Thunder

不安や恐怖のメタファーとしての“雷”。
内面のざわつきを美しく表現した曲。

8. Golden Leaves

愛が枯れていく過程を秋の落ち葉に重ねた美しいバラード。
Passengerの詩的表現の真骨頂。

9. Scare Away the Dark

現代社会の不健康さや孤独をテーマにした社会派フォーク。
静かな怒りと優しさが共存する。

10. Two Tales

柔らかいストーリーテリングで、
2つの物語が同時に進んでいく構造がユニーク。

11. The Way It Goes

人生の“どうしようもなさ”を淡々と受け入れる曲。
諦観と優しさが混ざり合う。

12. Fear of Fear

恐怖の連鎖をテーマにした深い一曲。
ミニマルな編成が心の震えを際立たせる。

13. Catch in the Dark

夜の静けさを描いた温かいラブソング。
囁くような歌声が心に残る。

14. Travelling Alone

旅する孤独をユーモラスかつ切なく描く。
Passengerの伝統的テーマの延長線にある。

15. Rolling Stone

過去作へのセルフリファレンスのような放浪の歌。
アコースティックフォークの真なる美しさが宿る。

総評

『Whispers II』は、Passenger のディスコグラフィの中でも
最も静かで、最もパーソナルで、最も痛みが深い作品である。

アコースティック主体で音数を削ぎ落とし、
声・言葉・空気の隙間がそのまま感情として響く構造。
前作『Whispers』では外の世界を見つめていたのに対し、
今作では 内側の世界を深く掘り下げる アルバムとなっている。

このアルバムが特に評価される理由は、
– 物語性の高さ
– 声の親密さ
– 深い孤独と優しさの同居
– 社会に対する視線
– 静かな諦観と希望

というPassengerの魅力がそのまま濃縮されているからである。

旅、喪失、人生の短さ、言葉にしづらい痛み――
それらのテーマを、
“静かな声でそっと語る”スタイルが美しく貫かれている。

制作の裏側

『Whispers II』は、Passenger が深い孤独や社会問題へ目を向けていた時期に制作された。
売上の全額を「Survival International」に寄付するという決断は、
“音楽で社会に寄り添う”というPassengerの姿勢を象徴している。

制作は主に少人数で行われ、
ほとんどの楽器を乗せず、
“声と少しのギターだけで世界を作る”ことが意識された。
そのため、粗削りな部分や息遣いがそのまま収録され、
“近距離で語りかけられているような”独特の質感が生まれている。

『Whispers II』は、
Passenger の心の奥深くを最も静かに、
最も痛切に映し出した作品であり、
聴く側もまた、自分自身の静かな痛みに触れるアルバムである。