
発売日: 2017年7月28日
ジャンル: インディーフォーク、アコースティック、シンガーソングライター
概要
『The Boy Who Cried Wolf』は、Passenger(Mike Rosenberg)が
2017年にリリースしたアルバムであり、
“孤独・後悔・優しさ・喪失・淡い希望” を静かに描く、
極めて内省的な作品である。
前作『Young as the Morning Old as the Sea』(2016)が
壮大なプロダクションとバンドサウンドを取り入れたのに対し、
今作はルーツへ戻るように
アコースティック主体の親密なフォーク作品として制作された。
本作は、Passenger がライブ会場の物販ブースで突然発表したことでも話題となり、
“静かに生まれたアルバム” であることが音にも強く反映されている。
ほぼ全曲が生々しい演奏で収録され、
リバーブを抑えた、耳元で囁くような録音が特徴。
歌詞は、
– 愛が終わる瞬間
– 時間の残酷さ
– 過去への罪悪感
– 旅する孤独
– 誰にも届かない声
といったPassengerの核心テーマが濃密に表現され、
“物語を語るようなフォーク”の魅力が全開になった作品である。
全曲レビュー
1. Fairytales & Firesides
静かに始まる、語り口の美しいフォーク。
“昔語り”のような優しさが漂い、物語の導入として理想的。
2. Sweet Louise
甘く切ない恋の記憶を描くラブソング。
Passengerらしい温かさと哀愁が絶妙に混ざる一曲。
3. The Boy Who Cried Wolf
タイトル曲にしてアルバムの核心。
“オオカミ少年”の寓話をもとに、
“本当に苦しいときこそ声が届かない”という悲劇を描く。
メロディと歌詞の美しさが圧倒的。
4. Hell or High Water
心の崩壊、迷い、再生の兆しを繊細に描くフォーク曲。
後にシングルとして再録されるほど人気が高い楽曲。
5. Ghost Town
かつて誰かがいた場所、残った静けさ。
“いなくなった人の影”を描く、映画のような曲。
6. Lanterns
闇の中を照らす小さな光を象徴とした、希望の曲。
本作では希少な、ほんの少しの前向きさが差す。
7. The Way That I Love You
“こんなに愛しているのに報われない”という切実さを
淡々と歌うバラード。
胸が締め付けられるような痛みがある。
8. Beautiful Birds
鳥のイメージを使い、
恋の儚さと自由の葛藤を描く詩的な一曲。
9. Young as the Morning Old as the Sea
前作タイトル曲の再録版。
アコースティックで再解釈され、
成熟と若さというテーマが美しく響く。
10. Fool’s Gold
“美しく輝いて見えても、本当は偽物だった”
という恋を描いた寓話的バラード。
Passengerの比喩表現の巧みさが光る。
11. Travelling Alone
孤独な旅の物語を淡々と語る、彼の代表的世界観。
静かだが情景描写が鮮明。
12. Perfect Storm
感情の渦、運命の暴風雨のような恋を描くメロディックな一曲。
緩やかな起伏が美しい。
13. In The End
終わりと受け入れの静かな歌。
人生の儚さと優しさを包む、余韻の深いラストトラック。
総評
『The Boy Who Cried Wolf』は、Passengerの作品の中でも
最も静かで、最も“物語的”で、最も心の深部へ語りかけるアルバムである。
派手な演出を排し、
声・ギター・言葉だけで世界を作り上げており、
そのミニマルな構成が逆に感情を強烈に際立たせている。
特にタイトル曲「The Boy Who Cried Wolf」や
「Hell or High Water」「Ghost Town」は、
Passengerの叙情性の極致と言える名曲であり、
“痛みの中の美しさ”が見事に描かれている。
作品全体を通して、
旅・喪失・孤独・赦し・後悔・優しさ
といった Passenger の根源テーマが深く掘り下げられており、
静かな語りの中に、人生の重さと温度が宿る作品となっている。
おすすめアルバム(5枚)
- Whispers II / Passenger
同じく静かで内省的な叙情フォーク。 - All the Little Lights / Passenger
Passengerの核心的世界観を知る決定的作品。 - Runaway / Passenger
旅をテーマにした、広がりのあるフォークポップ。 - Damien Rice / O
囁くような親密な歌唱と深い感情表現が響き合う。 - Ben Howard / I Forget Where We Were
重く静かなフォークを深めたい人に最適。
制作の裏側
本作は、Passenger が大規模なツアーを続けながら
ホテルの部屋・移動中・滞在地のスタジオなど
さまざまな環境で曲を作り、録音した作品である。
そのため、
“旅の孤独”と“移動の静けさ”がそのまま音像に焼き付いている。
また、派手なサウンドへ走らず、
あえてアコースティックギター1本に戻ることで、
Passengerは“原点回帰”と“心の内側の再発見”を行った。
『The Boy Who Cried Wolf』は、
静かに灯り続けるランタンのようなアルバムであり、
聴くたびに別の表情を見せる、深く味わえる作品である。



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