発売日: 2021年1月8日
ジャンル: インディーフォーク、アコースティック、シンガーソングライター
概要
『Songs for the Drunk and Broken Hearted』は、Passenger（Mike Rosenberg）が
2021年に発表したアルバムであり、
その名の通り “酔いどれた心” と “壊れた心” に寄り添うための作品である。
制作の背景には、Passenger自身の失恋、
そして世界がパンデミックの最中にあったという状況が深く関わっている。
“喪失・孤独・未練・後悔・赦し・再生”
といった感情が濃厚に反映され、
タイトルどおり バーの薄暗がりで語られるようなフォーク物語 で構成されている。
音楽性は、
– アコースティックギター
– ウォームなストリングス
– ゆったりとしたフォークのテンポ
– 物語性の強い歌詞
といった Passenger の定番スタイルを軸にしつつ、
時折ウィスキーの香りがするような“くぐもった哀愁”が漂う。
アルバム全体のテーマは「痛みから立ち上がる」。
悲しい歌が多いが、その奥には 温かい諦観と静かな希望 がある。
全曲レビュー
1. Sword from the Stone
深い孤独と自己再生を描く名バラード。
エド・シーランも参加したエド特有のリミックス版も存在し、
楽曲の普遍性と美しさが際立つ。
2. Tip of My Tongue
言いかけて飲み込む本音をテーマにした、繊細なフォーク。
軽やかなギターと語り口が魅力。
3. What You’re Waiting For
焦燥と希望の間で揺れる曲。
サビの抜け感が心に優しく広がる。
4. The Way That I Love You
切ない愛の形を淡々と描いたバラード。
Passenger特有の“感情の節度”が美しい。
5. Remember to Forget
忘れたいのに忘れられない――
失恋後の揺れる心をそのまま閉じ込めた曲。
6. Sandstorm
砂嵐のように舞う思考、混乱、後悔を描写した象徴的な曲。
メロディが幻想的で美しい。
7. A Song for the Drunk and Broken Hearted
タイトル曲。
酒場の片隅で傷を抱えた人々が弱さを吐き出すような、
物語性に満ちた楽曲。
8. Suzanne
孤独な女性の人生を優しく描いたストーリーソング。
Passengerの叙情的語りが最も映える。
9. Nothing Aches Like a Broken Heart
痛みの深さを静かに歌うバラード。
声の震えに生々しい感情が宿る。
10. Year on Year, Day by Day
時間が傷を癒すのか、悪化させるのか。
その曖昧さを描いた繊細な一曲。
11. Heaven Hides
“天国は隠れてしまった”という比喩が美しい。
喪失と希望のバランスが絶妙。
12. Amsterdam
旅と恋を重ねた楽曲。
都市の情景が柔らかく目に浮かぶ。
13. London in the Spring
季節の移ろいと心の再生を描いた軽やかなフォーク。
アルバムを柔らかく締める。
総評
『Songs for the Drunk and Broken Hearted』は、Passenger のキャリアの中でも
失恋と孤独を最もストレートに描いた作品である。
多くの曲が静かでメランコリックだが、
その静けさこそがアルバムの強みであり、
“壊れた心を抱えたまま、前へ進もうとする人” のための音楽として機能している。
特に
– 「Sword from the Stone」
– 「Suzanne」
– 「A Song for the Drunk and Broken Hearted」
– 「Nothing Aches Like a Broken Heart」
こうした曲はPassengerの叙情性の頂点であり、
痛みの描写と優しさの両立 が極めて見事だ。
アルバム全体として、
酒場の片隅で語られる物語のような温度感 を持ち、
心の隙間にそっと入り込む作品となっている。
おすすめアルバム（5枚）
- Whispers II / Passenger
深い孤独と静かな痛みを描いた本作の“影の兄弟作”。 - All the Little Lights / Passenger
Passengerの世界観を最も象徴する作品。 - The Boy Who Cried Wolf / Passenger
内省的なフォークとしての系譜が近い。 - Damien Rice / O
静かな感情表現という点で非常に相性が良い。 - Ben Howard / Noonday Dream
空気感重視のフォーク作品として比較が面白い。
制作の裏側
このアルバムは、Passenger が数年におよぶツアー生活の中で経験した
破局・孤独・旅の時間をもとに制作された。
さらにコロナ禍の影響で静かな時間が増えたことで、
彼は“過去の痛み”とより深く向き合い、
楽曲を完成させていったという。
レコーディングは少人数で行われ、
アコースティック中心のサウンドにこだわり、
“部屋の空気がそのまま聞こえるような”親密な音作りが徹底された。
『Songs for the Drunk and Broken Hearted』は、
心に傷を負った人のためのアルバムであり、
Passengerの優しい目線と深い物語性が
最も繊細に表れた作品のひとつである。
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