
発売日: 2010年9月24日
ジャンル: インディーフォーク、アコースティック、シンガーソングライター
概要
『Flight of the Crow』は、Passenger(Mike Rosenberg)が2010年にリリースした
ソロ名義での2作目となるアルバムである。
本作の最大の特徴は、
オーストラリアのインディーシーンを中心とした多数のアーティストとのコラボレーション
によって成立している点である。
Lior、Josh Pyke、Katie Noonan、Boy & Bear、Kate Miller-Heidke など、
当時のオージー・インディーフォーク/アコースティックを支えた
実力派シンガーたちが多数参加。
Passenger の “語り部”としての世界が、
多彩な声によって拡張された作品となっている。
サウンドの中心にはアコースティックギターとストーリーテリングがあり、
ソロ期特有の 静寂・孤独・旅情・優しさ が濃密に刻まれている。
同時に、ゲストアーティストの色が曲ごとに滲み、
Passenger にとって “国境を越えた新たな表現のスタート地点” ともいえる一枚である。
全曲レビュー
- 1. Fairytales & Firesides
- 2. Feather on the Clyde
- 3. Things That Stop You Dreaming
- 4. The Break
- 5. Travelling Alone
- 6. Flight of the Crow (feat. Josh Pyke)
- 7. What You’re Thinking (feat. Boy & Bear)
- 8. Shape of Love (feat. Katie Noonan)
- 9. Brick Wall (feat. Lior)
- 10. The One You Love (feat. Kate Miller-Heidke)
- 11. The Year I Met You
- 12. Stray Dog
- 13. Restless Ones
- 14. Flight of the Crow (Reprise)
1. Fairytales & Firesides
穏やかで暖かいアルバムの幕開け。
“物語を語るように歌う” Passenger の魅力が凝縮されている。
2. Feather on the Clyde
川に浮かぶ羽のように、漂う心を描いた美しいフォーク曲。
のちの代表的な叙情性がすでに開花している。
3. Things That Stop You Dreaming
夢を阻むものに立ち向かう姿を描いたポジティブな楽曲。
アコースティックと軽やかなメロディが心地よい。
4. The Break
ゲストとの掛け合いが引き立つ温度の高い曲。
声と声が交わる瞬間の柔らかな感情が美しい。
5. Travelling Alone
旅の孤独と、誰かを求める本音が描かれる。
Passengerの物語性と繊細な声が存分に生きた一曲。
6. Flight of the Crow (feat. Josh Pyke)
タイトル曲にして重要曲。
Crow(カラス)を旅の象徴として描き、
自由と不安の両面を抱えながら進む姿が印象的。
Josh Pyke の存在感が深みを与える。
7. What You’re Thinking (feat. Boy & Bear)
温かいハーモニーが光るアンサンブル曲。
Boy & Bear のフォーキーな響きが、Passengerの世界にぴったり重なる。
8. Shape of Love (feat. Katie Noonan)
Katie Noonan の柔らかく透明な歌声が美しく、
恋の形の変化を静かに見つめるバラード。
9. Brick Wall (feat. Lior)
硬質なメタファーで心の障害を描く一曲。
Lior の深い声が、物語をより重層的にしている。
10. The One You Love (feat. Kate Miller-Heidke)
独特の高音と表現力で知られる Keidke が参加。
切なさと温度の混ざる、美しいデュエット。
11. The Year I Met You
出会いと別れの余韻を描いた曲。
過ぎた時間への優しいまなざしが胸を温かくする。
12. Stray Dog
孤独と放浪を象徴するナンバー。
Passengerの“さまよえる心”が深く沁みる。
13. Restless Ones
落ち着かない心の動きを、シンプルなメロディで描く。
アルバム後半の静けさにぬくもりを添える。
14. Flight of the Crow (Reprise)
タイトル曲のモチーフが再登場し、
アルバム全体の物語が静かに収束していく。
総評
『Flight of the Crow』は、Passenger の作品群の中でも
“人とのつながりによって広がった世界” を捉えた唯一無二のアルバムである。
特に、オーストラリアのアーティストたちの参加によって、
アコースティックフォークの美しさと、
Passengerの繊細で独白的なスタイルが多方向に拡張されている。
テーマは、
– 孤独
– 愛の形
– 旅と放浪
– 自己との対話
– 他者との関係性
といった、Passengerの核となる世界観そのまま。
しかし“声と声の化学反応”がそれを新しい角度から照らし出し、
多層的な叙情が生まれている。
後の代表作『All the Little Lights』へ向かう
アーティストとしての成長と拡張がしっかりと刻まれた作品であり、
Passenger 入門としても、深く味わう作品としても優れている。
おすすめアルバム(5枚)
- All the Little Lights / Passenger
叙情的フォークの代表作。Passengerの核心へ近づく。 - Whispers / Passenger
語り部としての魅力がより深く磨かれた作品。 - Runaway / Passenger
旅情と軽やかさが共存するフォークポップ。 - Josh Pyke / Chimney’s Afire
共演者との比較として聴くと魅力がより鮮明に。 - Boy & Bear / Moonfire
コラボの延長でフォーキーな世界観を楽しめる。
制作の裏側
『Flight of the Crow』は、Passenger がオーストラリア滞在中に
多数のシンガーたちと出会い、ライブやセッションを通じて
自然発生的に作られた作品である。
スタジオに集まり、
“歌いたい曲に自由に声を重ねていく”
というライブ感に満ちた制作スタイルが採用され、
その結果、温度のあるアコースティックサウンドが生まれた。
この作品を経て、Passenger はソロアーティストとしての方向性を固め、
世界へ羽ばたくための基盤を築いた。



コメント