アルバムレビュー：Burn Burn by Our Lady Peace

アルバムレビュー

2025.11.24

発売日: 2009年7月21日
ジャンル: オルタナティヴ・ロック、ポストグランジ、アダルト・オルタナティヴ

概要

『Burn Burn』は、Our Lady Peace が2009年に発表した7作目のスタジオアルバムであり、
バンドが“原点への回帰”と“成熟した再構築”を同時に目指した作品として位置づけられる。

前作『Healthy in Paranoid Times』（2005）は、政治性・社会批評・精神的混乱が濃厚に反映された
重い空気のアルバムであったが、
本作『Burn Burn』は一転して、
より明快でストレート、個人的なメッセージと開放感を重視した方向性へ舵を切った。

特筆すべきは、Raine Maida が本作で セルフプロデュース を行っている点。
これにより、初期作の人間臭さやエモーショナルさが現代的な感覚と融合し、
OLP流の“ミニマリズム × メロディ重視”が徹底された作品として結実している。

サウンドは重い歪みや複雑な構造を避け、
クリアなギター、広がりのあるリバーブ、ミッドテンポの大きなうねりが中心。
“燃え尽きる前に、もう一度心を取り戻す”というテーマが、
アルバム全体のムードを静かに支えている。

全曲レビュー

1. All You Did Was Save My Life
2. Dreamland
3. Monkey Brains
4. The End Is Where We Begin
5. Escape Artist
6. Blindness
7. Waited
8. Signs of Life
9. Paper Moon

1. All You Did Was Save My Life

アルバムの象徴的シングル。
希望に満ちたメロディと力強いコーラスが、
“救われる瞬間”の高揚感を描き出す。
刺々しさを抑えたポップさが心地よい。

2. Dreamland

浮遊感のあるリズムと、Raine の柔らかい歌声が特徴。
幻想世界と現実の狭間に立つような雰囲気で、
アルバムの内省的側面を示す一曲。

3. Monkey Brains

人間の衝動性や混沌をテーマにしたロックナンバー。
ギターリフの粘りつく質感と、Raine の語りかけるような歌い方が印象的。

4. The End Is Where We Begin

最もドラマティックな曲。
タイトル通り“終わりが始まりである”というテーマが、
静と動のコントラストで表される。
バンドの緊張感がよく出ている名曲。

5. Escape Artist

軽やかなリズムが特徴のポップロック。
日常の束縛から抜け出したいという願望が描かれ、
本作の中でも少し光度の高い曲。

6. Blindness

ダークで粘りつくグルーヴのある楽曲。
“見えない恐怖”をテーマにしつつも、
メロディの美しさが前面に出ている。

7. Waited

初期OLP的な情緒と現代的サウンドが融合した一曲。
感情の揺れ幅を繊細に描くメロディが美しい。

8. Signs of Life

静かなイントロから徐々に広がる構成が魅力。
再生や希望の萌芽をテーマにした曲で、
アルバムの後半を温かく彩る。

9. Paper Moon

しっとりとしたバラード。
光の欠片のようなピアノと、Raine の声の親密さが美しい。
深い余韻を残す、アルバムの感情的ハイライトの一つ。

総評

『Burn Burn』は、Our Lady Peace にとって
“新しい段階へ進むための静かな決意表明” のようなアルバムである。

前作までの尖った政治性や社会的怒りは薄れ、
代わりに“生き直し”“自分を取り戻す”“心の再生”といったパーソナルなテーマが前面に出る。
そのため作品全体は緩やかで、余白を大切にしたサウンドデザインとなっている。

Raine Maida のセルフプロデュースは、
初期OLPの精神性と、成熟したオルタナロックの空気を
バランスよく融合させる方向へ機能しており、
“過剰な装飾のない、素のバンドサウンド”が魅力として際立つ。

もちろん、90年代の尖ったサイケデリアや精神性を求めるファンにとっては
やや物足りなく感じる部分もあるかもしれない。
だが、本作は “Our Lady Peace の大人としての表現” がもっとも純度高く現れた作品であり、
時間を置いて聴くほど、深い味わいが染み出してくるタイプのアルバムである。

制作の裏側（任意セクション）

『Burn Burn』は、
Raine Maida のスタジオにて、より自由度の高い“セルフプロデュース体制”で進められた。
その結果、外部プロデューサーによる商業的な圧が排除され、
バンド本来のバランス感覚とエモーションが自然体で記録されている。

録音にはアナログ的な手法も取り入れられ、
ギターやボーカルの生々しいテクスチャーが随所に残っている。
余白を重視し、音を詰め込みすぎないことで、
メロディと声の温度がじんわりと伝わる“呼吸するロック”へと仕上がった。

『Burn Burn』は、
Our Lady Peace が“成熟した自分たちの音”を見直し、
未来への新たな章を静かに開いたアルバムである。