
発売日: 2022年4月14日
ジャンル: インディーフォーク、アコースティック、シンガーソングライター
概要
『Birds That Flew and Ships That Sailed』は、Passenger(Mike Rosenberg)が
2022年に発表したアルバムであり、
旅・喪失・希望・赦し・人生の静かな移ろい を描いた、
極めて穏やかでパーソナルな作品である。
本作は、パンデミックを経て歩みを止めざるを得なかった時期に書かれた楽曲が中心で、
“時間の流れの意味”を繰り返し問うような深い内省性が漂う。
アコースティックギターと柔らかな声だけで構築された曲が多く、
Passengerのディスコグラフィの中でも 最もミニマルで静かな作品のひとつ と言える。
アルバムタイトル
「飛び立った鳥たち、航海に出た船たち」
は、人生における別れや旅立ちを象徴しており、
遠ざかるものを静かに見送るような優しさがアルバム全体を包んでいる。
全曲レビュー
1. Bird That Flew
静かで凛としたイントロ曲。
羽ばたいていった“鳥”の比喩は、失われたものや離れていく人を象徴している。
出だしから深い静寂が広がる。
2. Against the Grain
自分の進む道が周囲とまったく違っても“それでいい”と語る曲。
人生の孤独と勇気を、優しいメロディに乗せて描く。
3. Lanterns
闇の中を照らす“ランタン”の光をテーマにした楽曲。
温かい言葉がそっと寄り添い、救いのような光を感じさせる。
4. All My Life
愛の持つ持続力を穏やかに歌う曲。
アコースティックのシンプルさが言葉と歌声の温度を際立たせる。
5. Chasing Gold
“黄金を追い続ける人生”という比喩で、
終わりのない欲望や不安を語る。
淡々とした語りが逆に刺さる楽曲。
6. Nothing Aches Like a Broken Heart
失恋の痛みを包み隠さず描いたバラード。
静かな声が胸の奥に染み込むような深い一曲。
7. What You’re Waiting For
焦燥と希望の狭間で揺れる感情を描く。
軽やかなギターによって、悩みながらも一歩踏み出す姿が感じられる。
8. The Way That I Love You
優しい愛の形を淡く照らすラブソング。
小さな言葉が大きな感情を運ぶ、“Passengerらしさ”に満ちた曲。
9. Life’s for the Living (2022 Version)
代表曲の新録バージョン。
オリジナルよりも穏やかで成熟したニュアンスが加わり、
年月を経た視点から“人生は生きるためにある”というテーマに深みが生まれた。
10. Let Her Go (Acoustic Version)
世界的ヒット曲の新アコースティック版。
シンプルなアレンジにより、原曲にあった“儚さ”がさらに際立っている。
11. Northern Star
旅の行き先を照らす“北極星”をモチーフにした美しい曲。
静かながら、人生の指針をそっと示すような余韻が残る。
12. Ships That Sailed
アルバムを締めくくるタイトル性の強い曲。
“航海に出た船”の比喩が、別れ・旅立ち・人生の流転を象徴する。
深い静けさと温かな諦観が共存する終曲。
総評
『Birds That Flew and Ships That Sailed』は、Passenger のキャリアにおいて
最も穏やかで、最も成熟したアルバムのひとつである。
派手な展開や大きなサビはほとんどなく、
ギターと声だけで構築された静かな楽曲が中心。
しかし、その静けさこそが作品の魅力であり、
人生における“失われていくもの・遠ざかるもの・それでも続く日々”
を静かに受け止めていくような、深い情感が滲み出ている。
特に、
– 「Bird That Flew」
– 「Lanterns」
– 「Nothing Aches Like a Broken Heart」
– 「Ships That Sailed」
これらの曲は、Passenger の内省性と詩的表現の美しさをもっともよく示している。
本作は、心が少し疲れたときや、
誰かの旅立ちを見送る静かな瞬間にそっと寄り添うような、
やわらかなフォークの灯火 といえる。
おすすめアルバム(5枚)
- Whispers II / Passenger
静かな痛みと孤独を中心にした作品で、本作と非常に近い世界観。 - All the Little Lights / Passenger
彼の核心的叙情性を知る決定的な一枚。 - The Boy Who Cried Wolf / Passenger
静かでパーソナルな音像と豊かな物語が共通する。 - Ben Howard / Noonday Dream
空気感重視の内省的フォークとして相性が良い。 - José González / Vestiges & Claws
ミニマルで哲学的なフォークの美しさが共鳴する。
制作の裏側(任意セクション)
このアルバムはパンデミック中、
Passenger が長く静かな時間を過ごす中で生まれた作品である。
大規模な制作チームではなく、
少人数・静かなスタジオ・シンプルな録音 を徹底し、
声とギターの質感を最も大切にした音作りが行われた。
「Life’s for the Living」や「Let Her Go」などの代表曲を再録したのは、
“今の自分の声と心で、もう一度歌い直したい”という
アーティストとしての成熟を反映した選択だと言える。
『Birds That Flew and Ships That Sailed』は、
Passenger が“旅人としての人生”と“変わりゆく風景”を
静かに受け止めた結果生まれた
深く優しいフォークアルバムである。


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