
発売日:2023年6月2日
ジャンル:Punk Rock / Street Punk
概要
Tomorrow Never Comesは、Rancidが2023年に発表した10作目のスタジオ・アルバムである。前作Trouble Makerから約6年ぶりとなり、プロデュースはBad Religionのギタリストであり、長年Rancid作品に関わってきたBrett Gurewitzが担当した。Tim Armstrong、Lars Frederiksen、Matt Freeman、Branden Steineckertという編成を維持し、全16曲を30分に満たない時間へ収めている。長いイントロや大規模なアレンジをほぼ排し、短いパンクソングを連続させる構成が本作の基本である。
1990年代のRancidを特徴づけたスカやレゲエの要素はかなり控えめで、今回はストレートなパンクロックに焦点を絞っている。ギターは短いリフとコードストロークを中心にし、Matt Freemanのよく動くベースとBranden Steineckertの速く硬いドラムが曲を押し進める。Armstrongのしゃがれた声とFrederiksenの太い声、それに複数人のコーラスを組み合わせる昔ながらの方法も健在だが、録音は各楽器の輪郭が分かる程度に整理されている。
歌詞では社会への不信、都市で生きる人物、過去の記憶、仲間との結びつき、暴力や生存といったRancidが長く扱ってきた題材が並ぶ。結成から30年以上を経たバンドだが、成熟を示すためにテンポを落とすのではなく、むしろ曲をさらに短くする方向へ進んだ。新しい音楽性を提示するより、自分たちのパンクロックから何を削れば最も直接的に響くのかを試した作品と考えると分かりやすい。
全曲レビュー
1. 「Tomorrow Never Comes」
ギターのコードとドラムがほぼ同時に飛び込み、助走なしでアルバムを始めるタイトル曲。サビでは複数の声を重ね、短いフレーズを観客と一緒に叫べる形へ変えている。「明日は決して来ない」という題名には先の見えなさがあるが、演奏は沈まず、むしろ現在を押し切るように速い。2分に満たない尺の中で、本作の速度、コーラス、簡潔な構成をまとめて提示する。
2. 「Mud, Blood, & Gold」
題名に並ぶ泥、血、金という荒々しいイメージに合わせ、ギターとリズム隊も硬く直線的に進む。メロディを長く引っ張らず、短い歌のフレーズに集団コーラスを返すことでストリートパンクらしい力を作っている。富や暴力、生き残ることが接近した世界を思わせる歌詞と、余分な装飾を持たない演奏がよく噛み合う。
3. 「Devil in Disguise」
軽快なテンポの上で、信用できない相手を「変装した悪魔」として捉える。ギターは低音を重く引き延ばさず、小刻みにコードを鳴らすため、題材の暗さに反して曲にはロックンロール的な身軽さがある。善良そうに見える表面と内側の危険性という単純明快なイメージを使い、短時間で人物の不穏さを立ち上げている。
4. 「New American」
社会や国家を見るRancidの視点が前面に出る曲で、タイトルにある「新しいアメリカ」が何を意味するのかを問いかけるように進む。演奏は政治的な題材を大げさに演出せず、速いドラムと歪んだギターで押し切る。個人的な生活と社会の変化を切り離さない彼らの作詞法が表れており、短い曲だからこそ主張が標語のような強さを持つ。
5. 「The Bloody & Violent History」
暴力が繰り返されてきた歴史へ目を向けながら、音楽は説明的にならず猛烈なテンポを維持する。タイトルそのものが曲の問題意識をほぼ言い切っており、細かな物語より、過去から現在へ続く暴力の感覚を短い言葉で積み上げる。ドラムの連打と荒いコーラスが切迫感を加え、序盤の社会的な色をさらに濃くしている。
6. 「Don’t Make Me Do It」
相手への警告をそのままフックにした、簡潔なパンクロックである。Tim Armstrongの崩した歌い方とコーラスの応答が中心になり、ギターは複雑な旋律を弾くより歌のアクセントを強調する。題名には責任を相手へ押し返す危うさもあり、威勢のよさだけではない緊張を残す。短い言葉を反復して印象を作る本作の作曲法がよく出ている。
7. 「It’s a Road to Righteousness」
勢いは保ちながら、題名には正しさへ向かう「道」というイメージが置かれる。Rancidの歌詞に昔からある、生き方や忠誠を抽象論ではなく進む方向として捉える感覚に近い。複数人の声が加わることで個人の決意が集団的なものへ広がり、細かな楽器の装飾を使わなくてもサビを大きく聞かせている。
8. 「Live Forever」
「永遠に生きる」という大きな言葉を掲げながら、曲そのものは驚くほど短い。ここでの永遠は文字通りの不死というより、記憶や音楽、人との結びつきが残っていく感覚としても読める。キャリアの長いRancidが歌うことで若いバンドとは違った響きが生まれるが、演奏には老成した雰囲気がなく、最後まで高速で走り抜ける。
9. 「Drop Dead Inn」
曲名からしてRancidらしい猥雑な場所のイメージを持ち、アルバム中盤に短い物語のような感触を加える。ギターはパンクの基本的なコードを勢いよく鳴らし、ベースがその下で細かく動くことで単純な伴奏にしない。社会全体を扱う前半の曲から、街の片隅にある具体的な風景へ視点を近づける役割も果たしている。
10. 「Prisoners Song」
閉じ込められた人物の視点を思わせる題材を、重苦しいスローナンバーではなく高速パンクへ変換する。声を重ねる部分には囚人同士が一緒に歌うような集団性があり、孤立した状況とコーラスの強さが対照を作る。Rancidが得意とする、社会の周辺に置かれた人物を短い物語として描く方法が表れた一曲である。
11. 「Magnificent Rogue」
「見事な悪党」とでも訳せるタイトル通り、単純な善悪では捉えにくい人物像を中心に置く。Armstrongのしゃがれた声はこうしたアウトサイダーの描写と相性がよく、整った人物紹介ではなく、断片から性格を想像させる。演奏も人物の危うさをなぞるように荒いが、サビには明確なフックがあり、短い尺でも輪郭を残す。
12. 「One Way Ticket」
後戻りできない「片道切符」というイメージを、前へ進み続けるリズムと結びつけた曲。ドラムがほとんど休まず拍を刻み、ギターも長い音を伸ばさないため、演奏そのものが引き返せない感覚を作る。Rancidが何度も扱ってきた移動や生存の題材を、説明より速度によって伝えている点が効果的だ。
13. 「Hellbound Train」
列車と破滅を組み合わせた古典的なイメージを使い、終盤へ向けて荒々しいロックンロールを聞かせる。一定のビートが線路を進むような推進力を生み、ギターとベースがその上で忙しく動く。どこへ向かっているか分かっていても止まれないという感触があり、「One Way Ticket」に続けて置かれることで移動のイメージも自然につながる。
14. 「Eddie the Butcher」
固有名を持つ人物を中心にした短編的な曲で、Rancidが長年得意としてきたストリートの人物描写へ戻る。Eddieという名前と「Butcher」という呼び名だけでも危険な人物像が立ち上がり、歌詞は長い背景説明をせず断片を素早く並べる。速い演奏が物語を駆け抜けるため、詳細よりも人物にまつわる噂を聞いているような感触が残る。
15. 「Hear Us Out」
終盤で「俺たちの話を聞け」と呼びかける題名は、パンクバンドとしてのRancidの姿勢そのものにも重なる。個人的な内省へ閉じるのではなく、複数の声を使ったコーラスによって外側へ訴えかける力を作っている。アルバムを通して使われてきた短いフレーズと高速演奏をここでも崩さず、最終曲へ向けて集団的な熱量を高める。
16. 「When the Smoke Clears」
煙が晴れた後に何が残るのかというイメージを使った最終曲。タイトルだけなら静かな後日談も想像できるが、Rancidはテンポを大幅に落とさず、最後までパンクバンドとしての運動量を維持する。混乱や衝突を通過した後に状況を見直す視点が、社会、不信、生存を扱ってきた本作の締めとして機能する。壮大な結論を作らず短く終わることも、徹底して余分なものを削ったアルバムらしい。
総評
Tomorrow Never Comesの特徴は、Rancidの音楽に新しい要素を足したことより、すでに持っている要素を極端に絞ったことにある。スカやレゲエへ大きく寄り道せず、ギター、ベース、ドラム、ボーカルという基本的な道具で16曲を駆け抜ける。1曲ごとのアイデアを長く展開しないため、サビやリフが役割を果たした時点ですぐ次へ進む。この潔さによって、キャリア30年を超えたバンドとは思えないほどせわしないアルバムになった。
その単純さを支えているのがリズム隊である。特にMatt Freemanのベースはギターと同じ音を追うだけではなく、その下を細かく移動し、短い曲にも旋律的な動きを加える。Branden Steineckertのドラムは高速でも輪郭が崩れず、ArmstrongとFrederiksenの異なる声を乗せるための安定した土台を作る。演奏の巧さをソロで見せるのではなく、曲を短く保ったまま情報量を増やす方向へ使っている。
一方、16曲の多くが似た速度と編成で作られているため、…And Out Come the Wolvesのようにスカやレゲエを挟んで大きな起伏を作る作品と比べれば、曲ごとの差は小さい。そこは本作の弱点であると同時に狙いでもある。個別の曲に豪華なアレンジを与えるのではなく、短い曲が連続して一つの勢いを作ることを優先しており、アルバム全体が30分弱の一続きのパンク・セットのように聞こえる。
歌詞に過去や歴史を意識する言葉が増えても、音楽は懐古的な速度へ落ち着かない。社会への不満、危険な人物、仲間、生き残ることといった昔からの題材を、現在のRancidが無理なく演奏できる形へ研ぎ直している。革新的な方向転換ではないが、変化しないことと停滞することは同じではないと演奏で示した作品である。Tomorrow Never Comesは、Rancidというバンドの核を最小限の形まで削り、その強度がまだ残っているかを確かめるようなアルバムだ。
おすすめアルバム
Trouble Maker by Rancid
前作にあたる2017年作。短いパンクソングを大量に並べる発想は共通するが、スカやロックンロールを含む振れ幅はこちらの方が広い。そこからTomorrow Never Comesが何を削ったのかを比較しやすい。
Let’s Go by Rancid
短い曲を休みなく連続させる1994年作で、Tomorrow Never Comesの速度重視の構成に最も分かりやすくつながる。録音はより荒く、若いRancidが持っていた切迫感を直接聞ける作品である。
###…And Out Come the Wolves by Rancid
パンクの速度を保ちながらスカやレゲエを大胆に取り込み、曲ごとの差を広げた1995年作。本作の直線的な作りと対照的であり、Rancidのもう一つの大きな特徴であるジャンル横断性がよく分かる。
Energy by Operation Ivy
Tim ArmstrongとMatt FreemanがRancid結成以前に在籍したOperation Ivyの音源をまとめた作品。高速パンク、スカ、社会への視線、短い曲で観客を巻き込むコーラスなど、後のRancidへ受け継がれた基本的な発想を確認できる。
Generator by Bad Religion
Brett Gurewitzが在籍するBad Religionの1992年作。Rancidとはボーカルや作曲の感触が異なるものの、高速パンクを明確なメロディと引き締まった演奏で成立させる方法には共通点があり、Tomorrow Never Comesを広いカリフォルニア・パンクの流れから捉えられる。

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