1. 歌詞の概要
Iron Butterflyの「Belda-Beast」は、1969年のアルバム『Ball』のラストを飾る楽曲である。歌詞の内容は、幻想的かつ神秘的で、タイトルの「Belda-Beast」という言葉自体が造語的であり、具体的な意味よりも響きやイメージが先行している。全体を通して「別れ」「旅立ち」「時間の流れ」といったテーマが込められており、ある存在への惜別と、その先に広がる未知の世界への視線を感じさせる。
物語的で抽象的な表現が多く、聴き手の解釈に大きな余地を残している。ラブソングの要素もありながら、ただの恋愛を超えて「人生や存在の移ろい」に重ねられているようでもある。最後の曲にふさわしく、余韻を強く残すリリックとなっているのだ。
2. 歌詞のバックグラウンド
『Ball』は、前作『In-A-Gadda-Da-Vida』（1968）の爆発的な成功を経てリリースされたアルバムであり、Iron Butterflyが“一発屋”ではないことを証明しようとした意欲作である。その中で「Belda-Beast」は最終曲に置かれ、アルバム全体を締めくくる重要な役割を担った。
特筆すべきは、この曲がギタリストのエリック・ブラノウによって書かれ、彼自身がリード・ヴォーカルを担当している点である。Iron Butterflyといえば通常はダグ・インモン（オルガン／ヴォーカル）がフロントマンを務めるが、この曲では異なる声と視点が提示される。アルバムの最後にブラノウの声が響くことは、バンドの多様性を示す試みでもあった。
音楽的には、ヘヴィサイケ的な重厚さと抒情的なアコースティック感覚が同居しており、バンドの中でも最も詩的で内省的なナンバーのひとつとされる。ブラノウのギターは硬質さと繊細さを兼ね備え、曲に独特の陰影を与えている。
3. 歌詞の抜粋と和訳
（歌詞引用元：Iron Butterfly – Belda-Beast Lyrics | Genius）
I need you, love, more than before
今まで以上に、僕には君という愛が必要だ
I can’t get away from your door
君の扉から離れることができない
When we’re apart, I feel so alone
僕らが離れているとき、僕はひどく孤独を感じる
But in my heart, you still are my own
けれど僕の心の中で、君はまだ僕のものなんだ
歌詞は抽象的な幻想性を帯びつつも、実際には「愛する人との別れと執着」が核にある。繰り返し現れる感情表現は、切実で人間的なものであり、曲の幻想的なタイトルとのコントラストが興味深い。
4. 歌詞の考察
「Belda-Beast」の核心は「別れの痛み」と「愛の残響」である。歌詞では「まだ自分のものだ」と主張しつつも、すでに失われつつある関係を暗示しており、愛と喪失の間で揺れる感情が描かれている。その感情は普遍的であると同時に、サイケデリック時代特有の「幻覚的な映像美」と重なっている。
タイトルの「Belda-Beast」は具体的な意味を持たないが、それがかえって「正体不明の存在」「愛と別れを象徴する幻想的キャラクター」として機能している。まるで夢の中に出てくる象徴のように、聴き手が自由にイメージを投影できるのだ。
また、アルバムのラストに配置されていることも意味深い。長大で重厚な曲を得意とするIron Butterflyにあって、「Belda-Beast」はむしろ内省的で叙情的であり、リスナーに余韻と問いを残してアルバムを締めくくる。愛の終わりを歌いながら、それが新しい始まりを予感させるような二重性を持っているのも特徴である。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- Her Favorite Style by Iron Butterfly
同じアルバム収録の抒情的楽曲で、愛と人間味を描いた曲。 - My Mirage by Iron Butterfly
幻想と現実の狭間を描いた『In-A-Gadda-Da-Vida』収録の名曲。 - Today by Jefferson Airplane
愛の儚さを繊細に描いた60年代サイケのラブソング。 - A Pillow of Winds by Pink Floyd
内省的で幻想的なラブソングで、「Belda-Beast」と同じ静謐さを持つ。 - Crystal Ship by The Doors
夢と愛を重ね合わせた詩的なバラードで、幻想的な響きが共通する。
6. アルバムを締めくくる幻想的エピローグ
「Belda-Beast」は、『Ball』の最後にふさわしい、幻想的で内省的なエピローグ的楽曲である。Iron Butterflyの音楽はしばしば重厚で力強いものと結びつけられるが、この曲では異なる側面が提示されている。
ギタリストのエリック・ブラノウがヴォーカルを取ることで、バンドの個性に新しい彩りが加わり、アルバムを単なる「In-A-Gadda-Da-Vidaの後継」以上の作品に引き上げている。愛の喪失と執着、そして新たな始まりへの予感を幻想的に描き出したこの曲は、Iron Butterflyの深みを知るうえで欠かせない一曲なのである。
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