1. 歌詞の概要
「Modern World」は、Wolf Paradeのデビューアルバム『Apologies to the Queen Mary』（2005年）に収録された楽曲であり、現代社会における疎外感、孤独、そして自己と世界とのズレを詩的に、そしてどこか反抗的に描いた一曲である。タイトルが示す通り、“現代世界”への批評的な視線が通底しており、希望と絶望、接続と断絶が入り混じる複雑な感情が、静かなリフレインの中で美しく反響する。
語り手は、表面的には「この現代が好きだ」と繰り返しながら、その実、現代という時代の冷たさや、自分がそこにうまくなじめていないことを暗示している。つまりそれは皮肉であり、半ば自虐的な独白でもある。現代を生きることの意味が問われ続ける中、この曲は“どこにも属せない者たち”へのアンセムのように響く。
2. 歌詞のバックグラウンド
「Modern World」は、スペンサー・クルーグの手によって書かれた楽曲であり、彼特有のメランコリックで詩的なスタイルが全開となっている。実は本作にはアルバムの冒頭にも「Modern World (Intro)」という別バージョンが収録されており、本編となるこの曲はそのフルバージョンとして展開される形になっている。
クルーグは、Arcade FireやSunset Rubdownといった他のモントリオール系インディーバンドと同様、都市と人間、そして文明そのものへの不信感と愛情を併せ持った視点で歌詞を書いている。冷静な諦観と、どこか暴力的なまでの感情のうねりが同居する彼の歌詞は、現代人が抱える“生きづらさ”に静かに寄り添ってくる。
3. 歌詞の抜粋と和訳
以下に、印象的なフレーズを抜粋して和訳を記す（引用元：Genius Lyrics）：
Modern world, I’m not pleased to meet you
You just bring me down
「現代よ、会えて嬉しくなんかない
君は僕をひたすら落ち込ませるだけだ」
Modern world, I’m not pleased to meet you
You just bring me down
「現代よ、君にはもううんざりなんだ
出会うたびに、僕は沈んでいく」
I don’t belong to no one
A modern world
「僕は誰のものでもない
この現代世界に」
この反復的な語り口は、呪文のようであり、同時に悲鳴のようでもある。自分の立つ場所が見つからないこと、居場所のない現実への失望が、繰り返しの中で静かに膨らんでいく。
4. 歌詞の考察
この曲は、表面上は淡々としているが、その内側にはとてつもなく強い“不適応の痛み”が宿っている。語り手は「現代の世界」と出会い、その複雑さ、冷たさ、過剰なスピードに圧倒され、そこに自分の居場所を見つけることができない。だが、それを激しく叫ぶのではなく、あくまで“静かに拒絶する”ことで、より一層の切実さが滲み出ている。
「I don’t belong to no one」というフレーズは、孤独の表明であると同時に、自己決定の意志でもある。社会からの同調圧力や枠組みに組み込まれることを拒み、自分だけの立ち位置を模索する姿勢がここにある。
また、「好きだ」と繰り返しながら、それが本心ではないことは明らかだ。この皮肉なレトリックは、現代のコミュニケーションや表現そのものを風刺しているようでもある。つまり、“好き”や“肯定”が形骸化し、空虚になってしまった社会の言語に対する違和感を、まさにその言葉を使って表現しているのだ。
音楽的にも、この曲は派手な展開はない。ミニマルなリフと抑制されたリズムが、むしろその“言いたくても言えない、叫びたくても叫べない”という感情の行き場のなさを際立たせている。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- Disorder by Joy Division
自我の崩壊と現代社会への違和感を音に変えたポストパンクの古典。疎外感の美学が通じる。 - Staring at the Sun by TV on the Radio
現代における焦燥感と生への衝動を、音の熱量で表現した名曲。無力感と希望の同居が共鳴。 - Young Liars by TV on the Radio
真実と虚構の狭間をさまよう詩的表現。Wolf Parade同様の文学性と音響的冒険心がある。 - New York I Love You, But You’re Bringing Me Down by LCD Soundsystem
都市を愛しながらも、そこに疲れていく者の心情。モダンワールドへの複雑な感情を語る曲として双子のよう。 - We Used to Wait by Arcade Fire
“現代”の変化とそこに取り残される感情を、ノスタルジーとともに描いたアンセム。
6. “現代世界”を拒みながら生きること
「Modern World」は、単なる時代批判の歌ではない。それは、“わかりあえない世界”の中で、それでも生きていくという選択を描いた詩でもある。現代は便利で、開かれていて、機会に満ちている。だがその一方で、誰かがどこにも属せずに、言葉も届かず、ただ沈んでいくような場所でもある。
Wolf Paradeはこの曲で、その“属せなさ”を美しく描き出した。しかもそれを怒りや絶望ではなく、淡々と、まるで観察記録のように提示してみせた。その静けさこそが、この曲の強度であり、同時にこのバンドがインディーロック史に刻んだ最も静かな反逆なのである。
「Modern World」は、2000年代の不安と孤独を生きた若者たちへの静かな手紙であり、その声は今なお、多くの“現代人”の心に寄り添っている。もしあなたがこの世界にどこか違和感を抱えているのなら、この曲はその感情に、そっと火を灯してくれるはずだ。
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