1. 歌詞の概要
「Along Comes Mary」は、Bloodhound Gangが1999年のアルバム『Hooray for Boobies』でカバーした楽曲であり、オリジナルは1966年にThe Associationによってリリースされたサイケポップの名曲である。オリジナルでは曖昧な言葉遊びを通じて薬物依存や性的暗喩が描かれていたが、Bloodhound Gangはこの楽曲を、彼ららしいエレクトロ・ロック+下ネタ+皮肉のミクスチャーとして再解釈している。
このカバー版では、原曲の語感の良さとスピード感を保ちつつ、歌詞やサウンドアレンジの面でより露骨かつアグレッシブに進化しており、オリジナルの“曖昧さ”を過剰な明確さとバカ騒ぎに変換してしまったと言ってよい。
“Mary”という名前が指すものが“マリファナ”なのか“女性”なのか、あるいはその両方なのかは明言されていないが、語り手はMaryに出会ったことで退屈な日常が変わった反面、混乱と依存の渦に巻き込まれていく。その二面性を、滑稽かつ狂騒的に描き出しているのが本楽曲の主眼である。
2. 歌詞のバックグラウンド
オリジナルの「Along Comes Mary」は、1960年代後半のドラッグカルチャーと自由な恋愛観を象徴する楽曲として知られ、文学的で多義的な歌詞が特徴だった。多くのラジオ局が「Mary」がマリファナの隠語だとして放送を自粛したが、公式には曖昧なままにされていた。
Bloodhound Gangがこの曲をカバーすることは、一見意外な選択にも思えるが、実は彼らにとって理想的な題材であった。なぜなら、この曲には曖昧なダブルミーニング、ポップな語感、潜在的な不道徳性がすでに内包されていたからである。それをBloodhound Gangはあえて下世話でサイケなパーティーチューンとして仕上げ、原曲の“知的なフェティッシュ”を“思春期の暴走”に置き換えてみせた。
3. 歌詞の抜粋と和訳
以下に、Bloodhound Gang版の「Along Comes Mary」の印象的な一節を抜粋し、英語と日本語訳を紹介する(出典:Genius Lyrics):
Every time I think that I’m the only one who’s lonely
Someone calls on me
「自分だけが孤独だと思っていたら
誰かがいつも僕を呼びに来る」
Along comes Mary
Does she want to give me kicks
And be my steady chick
And give me pick of memories
「そこに現れるのがメアリー
快楽をくれるため?
恋人になりたい?
それとも記憶のカケラをばらまきに来たのか?」
この部分では、Maryという存在が“救済”と“堕落”の両方を象徴していることがわかる。彼女(あるいはそれに見立てられた何か)は、孤独な主人公に快楽と混乱をもたらし、彼の世界を一変させる。
4. 歌詞の考察
Bloodhound Gangによるこのカバーは、原曲が持っていた知的な曖昧さや暗喩をあえて過剰にデフォルメすることで、その背後に潜んでいた**“甘美な依存”と“反社会性”**をあぶり出すことに成功している。彼らは「Mary」という名の“何か”に取り憑かれることの魅力と恐ろしさを、爆音・性欲・ドラッグ的快楽のイメージで包み直し、時代に合わせた“新しい病理”として提示している。
特に注目すべきは、語感のスピード感と過剰なシラブルの押し込み方で、これは原曲の詩的リズムを維持しつつ、Bloodhound Gang独特の“詰め込み型ユーモア”へと昇華されている。歌詞に含まれる文言は意味不明な部分も多いが、それがむしろトリップ感や妄想の暴走を強調しており、「何かヤバいものに支配されている感覚」をうまく表している。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- White Rabbit by Jefferson Airplane
薬物とフェアリーテイルを重ねた、サイケロックの象徴的楽曲。 - Mother’s Little Helper by The Rolling Stones
処方薬に依存する主婦をテーマにした風刺的ロック。 - Loser by Beck
ナンセンスと倦怠を詩的にミックスした90年代のアウトサイダー賛歌。 - Hash Pipe by Weezer
薬物と性にまつわる衝動をポップに昇華したノイジー・アンセム。 - The Bad Touch by Bloodhound Gang
本能と行動を笑いに変換したBloodhound Gangの代表作。
6. “原曲のサイケをポルノに、詩情をバカ騒ぎに”
「Along Comes Mary」は、1960年代の幻覚と隠喩の世界を、1990年代末の過剰と皮肉の文脈に焼き直した大胆なカバーである。Bloodhound Gangは、原曲の持つ文学的な雰囲気を破壊しながらも、その根底にある“逃避と依存”のテーマだけはしっかり受け継いでいる。違うのは、オリジナルが“文学少年の幻想”だとすれば、Bloodhound Gang版は“思春期男子の暴走する妄想”だという点である。
彼らは笑いながら、文化の神聖さをあえて壊すことで、その裏にある偽善や欲望の構造をさらけ出している。「Mary」は幻想であり、依存であり、そして中毒である。その存在に振り回される滑稽さを、Bloodhound Gangは全力で“踊れるパロディ”に変えてみせた。
「Along Comes Mary」は、血迷った恋心と依存心が入り混じる“混乱のアンセム”であり、Bloodhound Gangの“賢いふざけ”が最も効果的に炸裂したカバー曲である。彼らは原曲の残像をトランス状態のダンスビートで上書きし、聴き手を“楽しくてちょっと怖い中毒性”の中に引きずり込む。これはただのカバーではない、“再解釈による破壊と再構築”なのだ。
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