発売日: 2016年10月7日
ジャンル: オルタナティヴ・ロック、インダストリアル・ロック、グランジ
概要
『All Bright Electric』は、Feederが2016年に発表した通算9作目のスタジオ・アルバムであり、彼らのキャリアにおいて“静寂と轟音”、“光と闇”という二極の感情をこれまで以上に鮮烈に対比させた作品である。
前作『Generation Freakshow』からは4年ぶりのリリース。2012年の活動休止（あるいは“沈黙”）を経ての復帰作であり、グラント・ニコラスがソロ活動で培った新たな表現力をFeederとして再統合させた結果、バンドは再びそのコアにあった“轟音の美学”と向き合うことになった。
『All Bright Electric』というタイトルには、抽象的な感情を音像に落とし込むFeederの現在地が象徴されており、“すべてが輝き、かつ電気的である”という言葉からは、感情の強度や時代との接続を読み取ることができる。
本作は、Feederの中でも特にダークでヘヴィ、しかし同時に洗練された作品であり、“ポップ”や“リリカル”といった過去の肩書きを一度脱ぎ捨てたうえで再構築された、新たな地平である。
全曲レビュー
1. Lord of the Manor
不穏で重厚なイントロから始まる、7分超の壮大な楽曲。
“荘園の主”という象徴的なタイトルは、権力や支配、そしてその空虚さへの皮肉とも解釈できる。
緩急のある展開がアルバムのスケール感を予告するようだ。
2. Universe of Life
ギターのトレモロとインダストリアル風のドラムが印象的なナンバー。
“命の宇宙”という壮大なタイトルに反して、リリックは非常に内省的で、日常の中の不安や静かな希望を描いている。
3. Eskimo
ヘヴィで引きずるようなギターが印象的なミドルテンポの楽曲。
“エスキモー”という単語が比喩するのは、外界からの断絶と内面の閉ざされた空間である。
4. Geezer
突き刺すようなリフが特徴の攻撃的なロックナンバー。
“爺さん”というタイトルながら、歌詞は若さへの執着と老いの境界を鋭く描いており、アイロニーが効いている。
5. Infrared-Ultraviolet
赤外線から紫外線まで、“見えない光”をテーマにしたサウンドスケープ的楽曲。
シンセサイザーとギターが幾重にも重なり、まるで音そのものがスペクトラムの中で揺れているような感覚を生む。
6. Oh Mary
アルバム中では異色の、柔らかく哀愁のあるバラード。
“マリー”という名に込められた愛と喪失、そして過去へのノスタルジーが、ひときわエモーショナルに響く。
7. The Impossible
荒々しいギターとリズミカルなビートの組み合わせが新鮮。
“あり得ないもの”を肯定するような、現実逃避と挑戦の間を漂う哲学的な歌詞が印象的。
8. Divide the Minority
少数派の分断という現代的テーマを扱った楽曲。
怒りを直接的に表すのではなく、冷静な視線で社会のひずみを描く。音数は少なめだが、その分メッセージの鋭さが際立つ。
9. Angels and Lullabies
天使と子守唄という二律背反のモチーフを融合させた幻想的なナンバー。
不穏なシンセに乗せられた優しいメロディが、現代における安らぎの不在を訴えているようでもある。
10. Paperweight
圧倒的な音圧で押し寄せるグランジ風ロック。
“文鎮”という静的な物体が、逆に内なる怒りや感情の重さを象徴しているかのようだ。
11. Another Day on Earth
締めくくりにふさわしい、メロディアスで包容力のある曲。
“また地球の一日が始まる”というタイトルには、破滅ではなく“生きること”そのものへの静かな肯定が込められている。
総評
『All Bright Electric』は、Feederが再び“ロックの暗部”と向き合いながら、そこに独自の美学を与えた作品である。
このアルバムでは、彼らの原点でもあるグランジ的アプローチと、ソングライターとしての成熟が極めて高いレベルで結びついており、軽快なギターポップ路線からの脱却と再定義が図られている。
とりわけ注目すべきは、サウンドの奥行きと立体感だ。
従来のFeeder作品に比べて音の重層性が増しており、ギター、ベース、ドラムのみならず、シンセやSEも大胆に導入。
リスナーに“音の景色”を見せるようなトラックが揃っている。
歌詞も、社会的テーマから個人的な告白までを幅広く扱いながら、いずれも抽象度が高く、聴き手に解釈の余地を多く与えている。
これはグラント・ニコラスのソロ活動で培われた詩的感覚が、バンド形式にうまく持ち込まれた結果であり、過去の“語りかけるようなリリック”から、“共鳴させる言葉”への転換点でもある。
Feederはこのアルバムで、静かな破壊力と美しさを備えた“夜のロック”ともいうべき音楽を提示した。
それは激しさだけでなく、余白の中にある感情の波を感じ取らせるような作品であり、彼らの新章の幕開けを告げるにふさわしい力作である。
おすすめアルバム
- Radiohead『A Moon Shaped Pool』
内省と実験性の融合。抽象度の高いリリックや音像が共鳴する。 - Queens of the Stone Age『…Like Clockwork』
不穏さとエモーショナルな深みが交錯するロック作品。 - Placebo『Meds』
ダークでシリアスなテーマを繊細なロックで描いた共通点あり。 - Manic Street Preachers『The Holy Bible』
思想性と破壊力の共存。政治性と詩性が重なる空気感。 -
Mogwai『Hardcore Will Never Die, But You Will』
インストゥルメンタル的なアプローチにおいても『All Bright Electric』と共鳴。
制作の裏側（Behind the Scenes）
本作のレコーディングは、モダンなデジタル設備とアナログ録音機材の両方を活用し、“即興性と緻密さの同居”を目指して行われた。
プロデュースはグラント・ニコラス自身が手がけ、バンドとしての一体感と、ソロ活動を通じて得た静寂の美学を融合させることが意識された。
また、アートワークやMVのビジュアル面でも、人工的な光と自然の暗さが交錯するモチーフが多く見られ、音楽的テーマとの整合性が高い。
すべてが“明るく、そして電気的である”というアルバムタイトルの示唆する通り、現代の感情と風景が、鋭く、しかし美しく捉えられた一作となっている。
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