
- イントロダクション:鋭いギターが描いた、都市の神経地図
- アーティストの背景と歴史
- 音楽スタイルと影響:二本のギターが会話するロック
- 代表曲の解説
- アルバムごとの進化
- Marquee Moon:パンク以後のギターロックを変えた名盤
- Adventure:冷たい輝きの後に訪れた余白
- Television:再結成後の成熟した響き
- Tom Verlaineという詩人/ギタリスト
- Richard Lloydの重要性:もう一人のギター建築家
- CBGBとニューヨーク・パンクの中のTelevision
- 影響を受けたアーティストと音楽
- 影響を与えたアーティストと音楽シーン
- 同時代のバンドとの比較:Ramones、Patti Smith、Talking Headsとの違い
- 歌詞世界:都市、幻影、神経、そして詩
- ライブパフォーマンス:即興と緊張の現場
- Televisionの美学:冷たい熱狂
- まとめ:Televisionが築いた、パンクとアートロックの橋
- 関連レビュー
イントロダクション:鋭いギターが描いた、都市の神経地図
Television(テレヴィジョン)は、1970年代ニューヨークのパンク/アートロック・シーンを象徴するバンドである。CBGBを中心に活動し、Ramones、Patti Smith Group、Talking Heads、Blondieなどと同じ時代の空気を吸いながら、まったく別の音楽を鳴らした。
彼らは「パンク」の文脈で語られることが多い。だが、Televisionの音楽は、一般的なパンクのイメージとは大きく異なる。速く、短く、単純に叫ぶ音楽ではない。むしろ、絡み合う二本のギター、詩的で謎めいた歌詞、即興的な緊張感、ジャズやガレージロック、サイケデリック、アートロックの要素を含んだ、非常に知的で鋭い音楽である。
中心人物は、ボーカル/ギターのTom Verlaine(トム・ヴァーレイン)。そして、もう一人のギタリストRichard Lloyd(リチャード・ロイド)。二人のギターが織りなす線の美しさこそ、Television最大の個性である。そこにFred Smithのベース、Billy Ficcaのドラムが加わり、バンドはニューヨークの夜のように冷たく、神経質で、しかし不思議な陶酔を持つサウンドを作り上げた。
1977年のデビューアルバムMarquee Moonは、ロック史に残る名盤である。パンクの初期衝動を持ちながら、アートロックの構築美を備え、さらに即興演奏の自由さまで含んでいる。Televisionは、ロックが乱暴であることと、知的であることが矛盾しないことを証明したバンドだった。
アーティストの背景と歴史
Televisionの物語は、Tom VerlaineとRichard Hellの出会いから始まる。二人はデラウェアの学校で知り合い、文学や詩、音楽への関心を共有した。のちにニューヨークへ移り、音楽活動を始める。
初期Televisionには、Tom Verlaine、Richard Hell、Richard Lloyd、Billy Ficcaが参加していた。Richard Hellはベースを担当し、独特のファッションや態度によって、ニューヨーク・パンクのヴィジュアル面にも大きな影響を与えた人物である。しかし、VerlaineとHellの音楽的方向性は次第に分かれていく。Hellはより荒々しく即物的なパンクの衝動へ向かい、Verlaineはより構築的で詩的な音楽を求めた。
Richard HellはTelevisionを離れ、やがてThe Heartbreakers、そしてRichard Hell & the Voidoidsへ進む。その後、Patti Smith GroupにいたFred SmithがTelevisionのベーシストとして加入する。この編成によって、Televisionは代表的な形を得た。
Televisionは、ニューヨークの伝説的クラブCBGBにおいて重要な存在となる。CBGBはもともとカントリー、ブルーグラス、ブルースを掲げたクラブだったが、1970年代半ばにはニューヨーク・パンク/ニューウェイヴの中心地となった。Televisionはこの場所の初期シーン形成に大きく関わり、Patti SmithやRamonesらとともに、ニューヨークの地下音楽を形作った。
1975年にはシングルLittle Johnny Jewelを発表。この曲は長尺で、荒削りながらもTelevision独自のギター構築と詩的な感覚をすでに示していた。1977年、Elektraから1stアルバムMarquee Moonをリリース。商業的な大ヒットにはならなかったが、批評的には高く評価され、後世に大きな影響を与えることになる。
1978年には2ndアルバムAdventureを発表。その後、バンドは解散する。1992年には再結成し、アルバムTelevisionをリリースした。活動は断続的だったが、Televisionが残した影響は非常に大きい。彼らは短い活動期間で、ロックの語法そのものを変えたバンドのひとつである。
音楽スタイルと影響:二本のギターが会話するロック
Televisionの音楽を語るうえで最も重要なのは、ギターである。Tom VerlaineとRichard Lloydの二本のギターは、通常のリードギターとリズムギターの関係とは違う。どちらかが主役で、もう一方が支えるという構造ではない。二本のギターが互いに絡み合い、反応し、会話する。
このギターの絡み方は、The Velvet Undergroundの反復性、The Byrdsのきらめき、ガレージロックの鋭さ、そしてジャズの即興性を思わせる。しかし、Televisionの音はそれらの単純な合成ではない。彼らのギターは、感情を叫ぶというより、都市の空気に細い線を引いていくように鳴る。冷たく、鋭く、どこか乾いている。
Tom Verlaineのギターは、神経質でひりついている。音数は多いが、過剰にブルージーではない。むしろ、弦の上を細い刃が走るような感覚がある。Richard Lloydのギターは、よりロックンロール的な力強さと旋律性を持ち、Verlaineの抽象的な線に肉体性を与える。この二人の対比が、Televisionの音楽に独特の緊張感を生む。
リズム隊も重要である。Fred Smithのベースは、曲の構造をしっかり支えながら、ギターの余白を広げる。Billy Ficcaのドラムは、パンク的な直線性にとどまらず、ジャズ的な揺れやダイナミクスを持つ。彼のドラムは、Televisionの曲を単なるギターロックではなく、呼吸する音楽にしている。
Televisionは、パンクの初期衝動を持っていた。しかし、彼らはパンクを単純化の方向へ進めなかった。むしろ、パンクが開いた自由な空間を使って、より複雑で、より詩的なロックを作った。そこにTelevisionの歴史的意義がある。
代表曲の解説
Marquee Moon
Marquee Moonは、Televisionの代表曲であり、ロック史における最重要楽曲のひとつである。約10分に及ぶ長尺曲でありながら、冗長さはない。むしろ、曲が進むほどに緊張が高まり、ギターの線が夜空へ伸びていくような感覚がある。
イントロのギターからして特別である。シンプルなようでいて、微妙にねじれたリフが反復され、その上で二本のギターが少しずつ関係を変えていく。Tom Verlaineのボーカルは、叫ぶというより、神経質に言葉を吐き出す。歌詞は抽象的で、都市、夜、死、幻覚、記憶の断片が混ざり合う。
この曲の中盤以降、ギターソロは単なる見せ場ではなく、曲そのものの精神的な上昇となる。音が高く昇り、少しずつ熱を帯び、最後には恍惚に近い場所へ到達する。だが、その恍惚はブルースロック的な熱狂ではない。もっと冷たく、透き通っていて、知的な陶酔である。
Marquee Moonは、パンクが持っていた自由を、アートロック的な構築と即興的な美しさへ変えた曲である。Televisionというバンドのすべてが、この一曲に凝縮されている。
See No Evil
See No Evilは、アルバムMarquee Moonの冒頭を飾る楽曲であり、Televisionの鋭さを一気に示す曲である。短く、軽快で、ギターは鋭い。だが、普通のパンクソングとは違い、曲の中には複雑な線が走っている。
タイトルの「悪を見ない」という言葉には、道徳的な拒絶というより、都市の中で何かを見ないふりをして生きる感覚がある。Tom Verlaineの歌は、皮肉と緊張を帯びている。演奏は引き締まっているが、どこか不安定で、いつ崩れてもおかしくないような感覚がある。
この曲は、Televisionがパンクの勢いを持ちながら、すでに別の方向へ向かっていたことを示している。単純な三コードの爆発ではなく、鋭い知性を持ったロックである。
Venus
Venusは、Televisionの詩的な側面がよく表れた楽曲である。タイトルはローマ神話の女神ヴィーナスを連想させるが、曲の中の世界は神話的というより、ニューヨークの街角に落ちてきた幻のようである。
ギターは軽やかに絡み、リズムはしなやかに進む。Tom Verlaineの歌詞は、物語のようでいて、完全には説明されない。聴き手は、そこに何かの場面を見る。だが、その場面はすぐに消える。Televisionの歌詞は、映画の一場面というより、夢から覚める直前に残る断片のようだ。
Venusには、Televisionのロマンティックな側面がある。ただし、それは甘いロマンスではない。ひび割れた都会のロマンスである。ネオン、階段、夜、偶然の視線。そうした断片が、ギターの響きとともに浮かぶ。
Friction
Frictionは、タイトル通り摩擦の曲である。ギター、声、リズム、言葉が互いに擦れ合い、火花を散らす。Televisionの音楽にある緊張感が、非常に分かりやすく表れている。
この曲では、リフの切れ味とバンド全体のタイトさが際立つ。パンク的な攻撃性はあるが、演奏は乱暴に崩れない。むしろ、精密に制御された不安定さがある。まるで細いワイヤーの上を歩くような音楽だ。
Frictionは、Televisionが持つ肉体性と知性のバランスを示す曲である。考えすぎているのに、身体も動く。冷たいのに、火花が散る。これがTelevisionのロックである。
Elevation
Elevationは、タイトル通り上昇感を持つ楽曲である。ただし、その上昇は明るい解放ではない。暗い都市の底から、細い螺旋階段を上っていくような上昇である。
ギターは反復しながら少しずつ変化し、リズムは曲を静かに押し上げる。Tom Verlaineの声は、感情を完全に開放しない。だが、言葉の背後には強い渇望がある。どこかへ行きたい、上へ行きたい、しかし何から逃げているのかは分からない。そんな感覚がある。
Televisionの曲には、しばしば「移動」の感覚がある。歩く、昇る、迷う、夜の街を横切る。Elevationは、その中でも特に精神的な移動を感じさせる曲である。
Prove It
Prove Itは、Televisionの中では比較的ポップな輪郭を持つ楽曲である。軽快なリズムと印象的なメロディがあり、ギターの絡みも美しい。だが、やはり普通のポップソングではない。どこか捻れていて、透明な不安がある。
タイトルの「証明してみせろ」という言葉には、挑発と疑いがある。愛なのか、真実なのか、自分自身なのか。何を証明するのかは明確ではないが、その曖昧さが曲の魅力になっている。
この曲では、Televisionがメロディのバンドでもあったことが分かる。彼らは複雑なギター構築だけでなく、耳に残る曲を書く力も持っていた。
Little Johnny Jewel
Little Johnny Jewelは、Televisionの初期シングルであり、バンドの原型を知るうえで非常に重要な楽曲である。長尺で、荒削りで、まだ後のMarquee Moonほど完成されてはいない。だが、そこにはTelevisionの本質がすでにある。
曲は通常のシングルらしい簡潔な構成ではなく、ギターの反復と展開によって進む。Tom Verlaineの歌は詩的で、どこか不穏である。Richard Hellがいた初期の空気、CBGBの荒れた雰囲気、そしてVerlaineが目指した長く張り詰めたギターロックの方向性が同時に感じられる。
Little Johnny Jewelは、Televisionがパンクの中から生まれながら、最初からパンクの定型を超えようとしていたことを示す曲である。
Foxhole
Foxholeは、2ndアルバムAdventureに収録された楽曲であり、より引き締まったロック感を持つ曲である。タイトルは「塹壕」を意味し、戦争や防衛、閉じ込められた感覚を連想させる。
Adventureは前作に比べて少し穏やかで、透明感が増しているが、Foxholeには緊張感がある。ギターは相変わらず鋭く、リズムはタイトだ。Televisionが持つアートロック的な構築性と、より直接的なロックの力が結びついた曲である。
Glory
Gloryは、Adventureの中でも印象的な楽曲である。タイトルは「栄光」を意味するが、曲の響きは大げさな勝利の歌ではない。むしろ、遠くにある光を見つめるような、少し控えめな美しさを持つ。
この曲には、1stアルバムの鋭利な緊張とは違う、成熟した余白がある。ギターは依然として絡み合うが、全体の空気はやや柔らかい。TelevisionがMarquee Moonで築いたスタイルを、別の角度から展開しようとしていたことが分かる。
アルバムごとの進化
Marquee Moon:パンク以後のギターロックを変えた名盤
1977年のMarquee Moonは、Televisionの最高傑作であり、ロック史における重要な分岐点である。このアルバムは、パンクの時代に登場しながら、パンクの単純化とは逆の方向へ進んだ。そこが革新的だった。
収録曲はどれも、鋭いギター、神経質な歌、引き締まったリズム、詩的な歌詞を持っている。See No Evilで一気に始まり、Venusで都市の幻影を描き、Frictionで火花を散らし、タイトル曲Marquee Moonで長大な陶酔へ到達する。その流れは、非常に完成度が高い。
このアルバムの音は、意外なほど乾いている。ハードロックのような厚い歪みではなく、ギターの線がはっきり聞こえる。余白があり、冷たく、透明である。そのため、二本のギターの絡みが非常に美しく響く。
Marquee Moonは、パンクの初期衝動、アートロックの知性、ジャズ的な即興性、ガレージロックの鋭さを融合した作品である。後のポストパンク、ニューウェイヴ、インディーロック、オルタナティヴ・ロックに与えた影響は計り知れない。
Adventure:冷たい輝きの後に訪れた余白
1978年の2ndアルバムAdventureは、前作Marquee Moonの圧倒的な評価の後に発表された作品である。一般的には前作ほど語られないが、Televisionの別の魅力を示す重要なアルバムである。
Adventureは、前作よりも少し柔らかく、抑制されている。鋭さは残っているが、全体には透明な余白がある。Glory、Days、Foxholeなどでは、ギターの絡みはより穏やかに広がり、曲には叙情性が増している。
この作品は、Marquee Moonのような衝撃を期待すると物足りなく感じるかもしれない。しかし、聴き込むと、Televisionが単なる一枚の名盤だけのバンドではなかったことが分かる。彼らは緊張を少し緩め、よりメロディアスで、より静かな方向へ進もうとしていた。
ただし、バンド内部の関係は不安定になっており、Adventureの後にTelevisionは解散する。このアルバムには、その終わりの気配も漂っている。前作が夜の街を鋭く切り裂く音だとすれば、Adventureは夜明け前の冷たい空気のような作品である。
Television:再結成後の成熟した響き
1992年に発表されたTelevisionは、再結成後のアルバムである。前作から長い時間が経っていたが、Televisionらしいギターの絡みと抑制された緊張感は残っている。
このアルバムは、若い頃の切迫した鋭さとは少し違う。音はより落ち着き、演奏には成熟がある。だが、二本のギターが会話する感覚は健在であり、Televisionが単なる過去の伝説ではなく、独自の音楽言語を持つバンドだったことを再確認させる。
もちろん、Marquee Moonのような歴史的衝撃はない。しかし、再結成作としては非常に自然であり、Televisionの音楽が時代を越えて機能することを示している。
Tom Verlaineという詩人/ギタリスト
Tom Verlaineは、Televisionの中心人物であり、ロック史における最も個性的なギタリストのひとりである。彼の名前は、フランス象徴派詩人Paul Verlaineから取られている。この芸名自体が、彼の文学的な志向を物語っている。
Verlaineの歌詞は、非常に詩的である。物語を明確に説明するのではなく、イメージの断片を並べる。夜、街、空、幻影、身体、光、死、階段、月。そうした言葉が、意味を固定されないまま漂う。聴き手は歌詞を理解するというより、その中に入り込む。
彼のギターもまた、詩的である。ブルースロックのように感情を太く吐き出すのではなく、細い線で空間を描く。音は鋭く、時に不安定で、しかし非常に美しい。Verlaineのギターソロは、速弾きの技巧を見せるためのものではない。曲の中で、思考が少しずつ高まっていく過程のように響く。
Tom Verlaineは、ロックスターというより、電気ギターを持った詩人だった。彼の存在が、Televisionを単なるパンクバンドではなく、アートロックの領域へ押し上げた。
Richard Lloydの重要性:もう一人のギター建築家
Televisionを語るとき、Tom Verlaineの存在が大きくなりがちだが、Richard Lloydの重要性も非常に大きい。彼のギターがなければ、Televisionの音楽はあれほど立体的にはならなかった。
Lloydの演奏は、Verlaineよりもロックンロール的な力を持つ。彼はメロディアスで、鋭く、時に情熱的である。Verlaineのギターが空中に細い線を引くなら、Lloydのギターはその線に重さと色を与える。二人の関係は、対立ではなく緊張を含んだ共存である。
Televisionの楽曲では、どちらがリードでどちらが伴奏なのかが曖昧になる瞬間が多い。これこそがTelevisionの魅力だ。二本のギターが独立しながら、全体として一つの構造を作る。Richard Lloydは、その構造を成立させる不可欠な存在だった。
CBGBとニューヨーク・パンクの中のTelevision
Televisionは、CBGBの歴史において非常に重要なバンドである。CBGBは、1970年代半ばのニューヨーク地下音楽の中心地となったクラブであり、多くの重要バンドがここから登場した。
Ramonesは、短く速い曲でパンクの原型を作った。Patti Smithは、詩とロックを結びつけた。Talking Headsは、神経質で知的なニューウェイヴを発展させた。Blondieは、パンク、ポップ、ディスコを横断した。その中でTelevisionは、ギターによるアートロック的な可能性を切り開いた。
彼らはパンクだった。だが、パンクの中でも異端だった。服装や態度、活動場所はパンクだったが、音楽は長く、複雑で、詩的だった。このズレが重要である。ニューヨーク・パンクは、ロンドン・パンクのように単一のスタイルではなく、非常に多様な実験の場だった。Televisionはその多様性を象徴するバンドである。
影響を受けたアーティストと音楽
Televisionの音楽には、さまざまな影響が流れている。The Velvet Undergroundからは、都市的な冷たさ、反復、詩的な退廃を受け継いでいる。The Rolling StonesやThe Yardbirds、The 13th Floor Elevatorsなどのガレージ/サイケデリック・ロックからは、ギターの鋭さと荒々しさを吸収している。
また、ジャズの即興性も重要である。Televisionの曲は、単純なロックの構造に収まりきらない。特にMarquee Moonの長い展開には、ジャズ的な演奏の呼吸がある。ただし、彼らはジャズロックのように技巧を前面に出すわけではない。あくまでロックバンドとして、即興的な緊張を取り込んだ。
文学的な影響も大きい。Tom VerlaineやRichard Hellは詩に強い関心を持ち、フランス象徴派、ビート文学、ニューヨークの詩文化などとつながる感覚を持っていた。Televisionの歌詞が普通のロックソングと違うのは、この文学的背景によるところが大きい。
影響を与えたアーティストと音楽シーン
Televisionが後世に与えた影響は非常に大きい。特に、ポストパンク、ニューウェイヴ、インディーロック、オルタナティヴ・ロックにおいて、彼らのギターアプローチは重要な参照点となった。
U2のThe Edgeは、空間的なギターの使い方においてTelevisionから影響を受けたと語られることが多い。R.E.M.の初期ギターサウンドにも、Television的な絡み合うギターの感覚が見える。Sonic Youthは、ニューヨークのギター実験の系譜としてTelevisionを継承している部分がある。さらに、The Strokes、Interpol、Yeah Yeah Yeahsなど、2000年代ニューヨーク・ロック・リバイバルのバンドにも、Televisionの影は濃い。
特にThe Strokesとの関係は興味深い。The Strokesはよりシンプルでポップなガレージロックとして登場したが、ニューヨークの乾いたギター、都会的な冷たさ、余白のあるアンサンブルには、Television以降の系譜が感じられる。Interpolの暗く鋭いギターにも、Televisionの影響は見えやすい。
Televisionは、巨大な商業的成功を収めたバンドではない。しかし、ギターロックの語法を変えた。特に「二本のギターが主従関係ではなく、対話する」という発想は、多くの後続バンドにとって重要な手本となった。
同時代のバンドとの比較:Ramones、Patti Smith、Talking Headsとの違い
Televisionは、同じCBGB周辺のバンドと比較すると、その個性がよりはっきり見える。
Ramonesは、パンクを極限まで簡潔にしたバンドである。短い曲、単純なコード、猛烈なスピード、反復されるリズム。彼らはロックを削ぎ落とした。一方、Televisionは削ぎ落とすよりも、線を増やし、構造を作った。Ramonesが一直線の道路なら、Televisionは入り組んだ都市の路地である。
Patti Smith Groupは、詩とロックを結びつけた存在である。その点ではTelevisionと近い。しかし、Patti Smithが言葉のカリスマ性と身体性でロックを拡張したのに対し、Televisionはギターの構造によってロックを拡張した。Patti Smithが詩を叫ぶなら、Televisionはギターで詩を書く。
Talking Headsは、神経質で知的なニューウェイヴを作ったバンドである。彼らもまた、パンクの中から出てきながら、ファンク、アフリカ音楽、アートスクール的感覚へ進んだ。TelevisionはTalking Headsほどリズムの実験に向かわず、ギターの絡みとロックの構造に集中した。
この比較から分かるのは、ニューヨーク・パンクが非常に多様だったということだ。その中でTelevisionは、パンクとアートロック、ガレージと詩、即興と構築を結ぶ特別な存在だった。
歌詞世界:都市、幻影、神経、そして詩
Televisionの歌詞は、一般的なロックソングのように明確な物語を語らない。Tom Verlaineの言葉は、断片的で、象徴的で、どこか夢のようである。そこには、都市の夜、幻覚、天使、月、摩擦、上昇、逃走、記憶といったイメージが散りばめられている。
この歌詞世界は、ニューヨークという都市と深く結びついている。だが、Televisionのニューヨークは、観光地としてのニューヨークではない。汚れた路地、深夜のクラブ、壊れたネオン、誰かの部屋、地下鉄の音、眠らない神経。そうしたものが、言葉の奥に漂っている。
Verlaineの歌詞は、意味を説明しようとすると逃げていく。だが、音と一緒に聴くと強い映像が立ち上がる。Marquee Moonの中で月が輝くとき、それは実際の月であると同時に、都市の精神的な穴のようにも感じられる。Frictionの摩擦は、人間関係の摩擦でもあり、ギター弦と指の摩擦でもあり、都市生活そのものの摩擦でもある。
Televisionの歌詞は、ロックにおける詩の一つの到達点である。説明しないことで、より深く感じさせる。意味を閉じないことで、聴くたびに違う風景を見せる。
ライブパフォーマンス:即興と緊張の現場
Televisionのライブは、スタジオ録音とはまた違う魅力を持っていた。特に初期のCBGBでの演奏は、長尺のギター展開と即興的な緊張によって、観客に強烈な印象を与えた。
彼らのライブは、パンク的な暴発ではない。だが、決して冷たいだけでもない。曲は演奏の中で伸び、ギターは互いに反応し、リズム隊はその緊張を支える。観客は、決まったショーを見ているというより、曲がその場で形を変えていく瞬間に立ち会うことになる。
Marquee Moonのような曲は、ライブでさらに長く、さらに自由に展開されることもあった。Televisionの音楽において、ギターソロは単なる演奏技術ではなく、曲の精神が広がる場所だった。ライブではその性質がよりはっきり表れる。
この即興性は、彼らをパンクの枠からはみ出させた理由でもある。Televisionは、短く爆発して終わるバンドではなく、緊張を持続させ、その中で音を変化させるバンドだった。
Televisionの美学:冷たい熱狂
Televisionの美学を一言で表すなら、「冷たい熱狂」である。彼らの音楽は熱を持っている。だが、その熱は炎のように赤く燃えるのではなく、青白い電気のように光る。
ギターは鋭いが、重く濁らない。歌は感情的だが、過剰に泣かない。曲は長く展開するが、だらしなく崩れない。すべてが張り詰めている。Televisionの音楽は、激情をコントロールし、構造の中に閉じ込めることで、かえって強い陶酔を生む。
彼らのロックは、肉体的でありながら知的である。街の汚れを知っているが、そこから詩を作る。パンクの自由を持っているが、単純化には向かわない。これがTelevisionの美学だ。
まとめ:Televisionが築いた、パンクとアートロックの橋
Televisionは、ニューヨーク・パンクの重要バンドでありながら、一般的なパンクの定型には収まらない存在だった。彼らは、パンクの初期衝動を持ちながら、アートロックの構築性、ジャズ的な即興性、詩的な歌詞、そして二本のギターによる緻密な対話を組み合わせた。
Marquee Moonは、その結晶である。鋭く、冷たく、長く、神経質で、美しい。このアルバムは、パンクが単なる破壊ではなく、新しい構築へ向かうことができると示した。Adventureでは、その美学をより透明で叙情的な方向へ広げた。再結成後のTelevisionでは、彼らの音楽言語が時代を越えて有効であることを証明した。
Televisionの影響は、ポストパンク、ニューウェイヴ、インディーロック、オルタナティヴ・ロックへ深く広がっている。彼らが示した二本のギターの絡み、都市的な冷たさ、詩的な緊張感は、多くの後続バンドに受け継がれた。
彼らは商業的な巨大バンドではなかった。だが、ロックの可能性を大きく広げた。パンクの荒々しさと、アートロックの知性。街のノイズと、詩の静けさ。即興の自由と、緻密な構造。Televisionは、そのすべてを一本の細いギターの線で結びつけた。
ニューヨークの夜に、二本のギターが交差する。その音は、今もなお冷たく輝いている。Televisionは、パンクとアートロックの架け橋を築いた、都市の伝説である。

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