1. 歌詞の概要
「Severina(セヴェリナ)」は、The Missionが1987年にリリースしたデビュー・アルバム『God’s Own Medicine』に収録された楽曲であり、バンド初期を象徴する優美なラブソングとして、ファンの間でも根強い人気を誇る作品である。重厚で荘厳な雰囲気をまといながらも、その中心にあるのはひとりの女性“Severina”への深い憧れと執着、そして崇拝に近い感情である。
曲名にもなっている“Severina”は、具体的な実在の人物というよりも、**理想化された女性像、あるいは救済者、聖女、または“闇のミューズ”**のような象徴的存在として描かれている。彼女は傷ついた語り手の前に現れ、現実を包み込み、神話のようなイメージとともに心を支配していく。恋愛を超えて、信仰や幻想と混ざり合ったこの“愛”は、ただの感情ではなく、崇高な祈りに近い。
この楽曲の特徴は、The Missionが得意とするゴシックな神話性とポップな親しみやすさが絶妙なバランスで共存している点にある。劇的でありながら美しく、ロマンティックでありながらもどこか妖しさを帯びたこの楽曲は、まさにThe Missionというバンドの核を象徴する1曲なのである。
2. 歌詞のバックグラウンド
The Missionは、The Sisters of Mercyを脱退したWayne HusseyとCraig Adamsを中心に結成されたバンドであり、1980年代のゴシック・ロック・ムーブメントの中でより叙情的かつスピリチュアルな方向性を追求したアーティストとして知られている。
「Severina」は、アルバム『God’s Own Medicine』の中でも特にメロディックで親しみやすく、それでいて荘厳なムードを損なわない“ゴシック・ポップ”の完成形として高く評価されている。プロデュースはTim Palmerが手がけ、ギターの透明感、ヴォーカルの哀愁、重なるコーラスが、曲全体を一種の夢幻的な風景へと引き込んでいく。
タイトルの“Severina”という名前はラテン語起源で、「厳格な者」「切り離す者」といった意味合いを持つ。つまりこの存在は、語り手を救うと同時に引き裂く存在でもあり、そこに複雑な二面性を感じさせる。これは、The Missionの世界観においてしばしば登場する「救済と誘惑が背中合わせにある」という主題に通じている。
3. 歌詞の抜粋と和訳
(引用元:Genius Lyrics)
Severina, I’m trembling now / Can’t hold it in much longer
セヴェリナ、僕はもう震えている これ以上、抑えきれない
Severina, I’m lost somehow / But I feel so much stronger
セヴェリナ、どこかで迷子になっているのに なぜか、以前よりも強くなった気がする
I was waiting for you / To come into my dreams
ずっと君を待っていた 夢の中に現れるのを
And now you’ve come back to me / Through the silent screams
いま、君は戻ってきた 静かな叫び声を通して
Severina, in your heart I found / A sanctuary from the storm
セヴェリナ、君の心の中に 嵐から逃れる聖域を見つけた
この詩は、セヴェリナという存在に対して、語り手がどれほど深く依存し、同時に魅了されているかを描き出している。“夢”や“叫び”、“聖域”といった言葉は、現実を越えた次元で語られる恋愛を象徴しており、ここでの「愛」はすでに宗教的な領域に達している。彼女は単なる“恋人”ではなく、“救済と破滅の鍵”を持つ存在なのだ。
4. 歌詞の考察
「Severina」は、The Missionが持つ美学、すなわち**“愛は祈りであり、恋は儀式である”という世界観の凝縮**といえる。
歌詞の中で描かれる感情は、どこかで神への祈りのようでもあり、同時に絶対的なミューズへの崇拝のようでもある。Wayne Husseyはここで、「愛」と「信仰」、「欲望」と「救済」を完全に重ね合わせている。Severinaという名前の女性像は、現実の誰かかもしれないし、幻想、過去の喪失体験、あるいは自己の深層から浮かび上がる理想像かもしれない。
彼女に惹かれる理由が“彼女だから”というだけで説明されないこの感情こそ、ゴシック・ロマンスの核心である。「なぜだかわからない。でも、抗えない」——この言葉の奥にあるものは、理性を超えた本能的な崇拝、そして人が“神”を求める感情と限りなく近い。
音楽面においても、その神秘性は見事に表現されている。ギターは澄んだ水面のように広がり、ドラムは儀式的に脈打ち、Husseyの声は低く甘く、しかしどこか壊れそうなほど脆い。このバランスが、「Severina」を単なるラブソング以上の存在へと高めている。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- Lucretia My Reflection by The Sisters of Mercy
同じく女性像を神話的に描いた、ミニマルかつ退廃的なゴシックロック。 - Marian by The Sisters of Mercy
宗教的イメージと耽美な愛が溶け合う、冷ややかで官能的な愛の形。 - She’s in Parties by Bauhaus
現実と虚構の境界を曖昧にする、幻想と崩壊の儀式的ポストパンク。 - Christine by Siouxsie and the Banshees
女性の多面性と幻想を歌った、ポップでいて不穏な名曲。 -
Deliverance by The Mission
「Severina」以後に描かれる、祈りと救済の深淵。より内面的で静かな儀式のような作品。
6. “セヴェリナ”とは、私たちの内にある幻影なのか
「Severina」は、The Missionが提示する“幻想的な恋愛観”の中でもとりわけ美しく、そして危うい存在を描いた一曲である。
その名を繰り返すたび、聴き手の中にも、かつて誰かに抱いた想い、名前を呼ぶだけで胸が痛くなるような記憶が浮かび上がる。彼女は外部にいる“誰か”であると同時に、私たち自身の深層に眠る“理想と喪失の記憶”の象徴でもある。
「Severina」は、愛の喜びではなく、愛に憑かれることの苦しみを、それでも美しいものとして抱きしめようとする音楽である。
だからこそこの曲は、祈りのように静かに、叫びのように激しく、私たちの心に焼きつく。
そして誰もが、自分だけの“セヴェリナ”に出会う日が来るかもしれない。
それが救いなのか、破滅なのか——それは、神のみぞ知る。
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