発売日: 2019年4月5日
ジャンル: アートポップ、ドリームポップ、バロックポップ
Weyes Blood（ナタリー・メリング）による4作目のアルバム『Titanic Rising』は、彼女のキャリアの中で最も完成度が高く評価される作品であり、温かさと儚さが共存する壮大なサウンドスケープを描き出している。このアルバムは、現代社会の不安や環境問題、愛と喪失をテーマにしながらも、クラシックなポップソングの魅力をたたえた普遍的な美しさを持つ。
『Titanic Rising』の最大の特徴は、70年代ソングライターの影響を受けたメロディと、オーケストラのような重厚なアレンジの融合である。ストリングスやピアノ、シンセサイザーが広がりを持たせつつ、Weyes Bloodの透き通ったボーカルがリスナーを包み込む。タイトルが示すように、本作は「沈むタイタニックのような現代」を背景にした物語を音楽で描き、リスナーに深い感動を与える。
トラック解説
1. A Lot’s Gonna Change
アルバムの幕開けを飾る美しいバラード。過去の記憶や無邪気だった頃への郷愁を歌う歌詞と、優雅なストリングスのアレンジが感動的な世界を作り出す。Weyes Bloodの澄んだボーカルが心に深く響く一曲。
2. Andromeda
70年代フォークロックの影響を感じさせる楽曲。宇宙的なメタファーを用いながら、愛と孤独をテーマにしている。滑らかなギターとドリーミーなサウンドが絶妙に調和し、アルバムの中でも特に親しみやすい一曲だ。
3. Everyday
アップテンポなメロディが特徴的なトラックで、クラシックなポップソングの構造が魅力。軽やかなサウンドの裏に、愛と恐れを描く歌詞が潜んでいる。アルバムの中で最もキャッチーな楽曲のひとつ。
4. Something to Believe
壮大なピアノバラードで、現代社会における希望や信仰の喪失がテーマ。ドラマチックなボーカルとストリングスが楽曲を支え、心に深い余韻を残す。
5. Titanic Rising
アルバムのインストゥルメンタルタイトルトラック。海中を漂うようなアンビエントサウンドが、アルバム全体のテーマを象徴している。リスナーに想像の余地を与える静かな中継点のような役割を果たしている。
6. Movies
シンセサイザーとエフェクトが織り成す幻想的なトラックで、映画のような感動を求める現代人の心情を描いている。Weyes Bloodのボーカルが静かに高まり、クライマックスでは壮大なスケール感が炸裂する。
7. Mirror Forever
ミニマルで内省的なトラック。静かなギターのアルペジオとWeyes Bloodの親密なボーカルが、心の深い部分を揺さぶる。愛とその複雑な感情を静かに描き出している。
8. Wild Time
アルバムの中でも特にフォークの影響が強い楽曲で、穏やかなギターとゆったりとしたリズムが特徴。歌詞には環境問題や現代の混乱した時代への静かな怒りと悲しみが込められている。
9. Picture Me Better
シンプルなアコースティックギターと優しいボーカルで進む穏やかなトラック。亡くなった友人への想いを綴った歌詞が心を打つ。アルバム全体の中で一瞬の静寂を提供する感動的な一曲。
10. Nearer to Thee
アルバムの締めくくりを飾る短いインストゥルメンタルトラック。アンビエントなサウンドが、沈みゆくタイタニック号を思わせる余韻を残し、アルバム全体を静かに終わらせる。
アルバム総評
『Titanic Rising』は、Weyes Bloodの音楽的ビジョンが結実した傑作であり、クラシックなポップサウンドと現代的なテーマが見事に融合したアルバムである。壮大で優雅なアレンジ、詩的で感情的な歌詞、そして透き通ったボーカルが、聞き手に深い感動を与える。現代の喪失感や混沌の中にあっても、美しさや希望を見出すことができるというメッセージが込められており、多くのリスナーに共感を呼び起こす作品だ。
このアルバムが好きな人におすすめの5枚
Norman Fucking Rockwell! by Lana Del Rey
クラシックなポップと現代的なテーマを融合させた作品で、『Titanic Rising』と同じく感情的で壮大なサウンドが楽しめる。
Carrie & Lowell by Sufjan Stevens
内省的で感情豊かなアルバム。シンプルなアコースティックサウンドがWeyes Bloodの繊細な側面と共鳴する。
Have You in My Wilderness by Julia Holter
ドリーミーでアートポップ的なアプローチが際立つアルバムで、『Titanic Rising』の持つクラシカルな美しさと調和する。
Divers by Joanna Newsom
壮大なテーマとクラシックなアレンジが特徴のアルバム。『Titanic Rising』の物語性や詩的な歌詞に共通点が多い。
To Pimp a Butterfly by Kendrick Lamar
ジャンルは異なるが、現代社会の問題を壮大な音楽で描いたコンセプトアルバムとして共通点がある。深いテーマと美しいサウンドを求めるリスナーにおすすめ。
コメント