発売日: 2020年5月1日
ジャンル: インディーロック、エレクトロニカ、オルタナティブロック
Car Seat Headrestが2020年にリリースした「Making a Door Less Open」は、これまでの作品と異なり、シンセサイザーやエレクトロニカの要素を取り入れ、サウンド面での新たな挑戦を見せたアルバムだ。バンドのフロントマンであるウィル・トレドは、ここでエレクトロニックサウンドとロックの融合を目指し、Car Seat Headrestとしての音楽性を再定義している。本作はCar Seat Headrestのサイドプロジェクト「1 Trait Danger」との実験的なアプローチが影響しており、従来のオルタナティブロックに加え、ダンスビートやサンプリングが散りばめられた、多面的なサウンドが特徴だ。
ウィルの独特な視点と内省的な歌詞は健在でありつつ、ミニマルなアレンジや変則的なリズム、デジタルエフェクトの導入により、彼の表現がよりポップでアクセスしやすい形になっている。自己探求や社会に対するシニカルな視点といったテーマが、キャッチーなメロディと実験的なサウンドに包まれ、Car Seat Headrestの進化を象徴する作品となった。アルバム全体を通じて、これまでの「ローファイなDIYロックバンド」というイメージを超越し、新たな方向性を提示している。
トラックごとの解説
1. Weightlifters
アルバムの冒頭を飾る「Weightlifters」は、エレクトロニックなリズムと重厚なベースラインが特徴的で、ウィルの内省的なリリックが心に響く。自己の重荷やプレッシャーをテーマに、自己成長への意欲が感じられる曲だ。
2. Can’t Cool Me Down
「Can’t Cool Me Down」は、シンセサウンドとミニマルなリズムが融合したトラックで、Car Seat Headrestの新たな一面が垣間見える。冷たく抑制されたメロディに、抑圧された感情や不安が滲み出ている。
3. Hollywood
アルバムの中でもエネルギッシュな「Hollywood」は、ウィルが社会に対する皮肉と憤りを露わにした一曲。重厚なギターリフと攻撃的なボーカルが印象的で、商業主義への批判が痛烈に表現されている。
4. Martin
「Martin」は、キャッチーなメロディと柔らかいサウンドが魅力の楽曲で、アルバムの中で異彩を放つ温かみのあるトラック。親しい人への思いが込められており、ウィルの優しい一面が感じられる。
5. Hymn (Remix)
「Hymn (Remix)」は、シンセサイザーとエフェクトを駆使したミニマルなインストゥルメンタルで、神秘的なムードが漂う。どこかアンビエント的な雰囲気もあり、アルバム全体の流れに独特のスパイスを加えている。
6. Deadlines (Hostile)
「Deadlines (Hostile)」は、鋭いビートと不安定なメロディが絡み合うトラックで、アルバムの中でも特に緊張感が感じられる楽曲。追い詰められた感情が表現されており、Car Seat Headrestの実験精神が感じられる。
7. What’s With You Lately
「What’s With You Lately」は、シンプルなアコースティックギターとウィルの歌声が際立つ短いインタールード的なトラック。親密な雰囲気が漂い、感情的な距離が近く感じられる一曲だ。
8. Life Worth Missing
「Life Worth Missing」は、希望と憂いが交差するメロディが印象的で、人生の意義をテーマにした楽曲。心地よいビートとシンセが織り成すサウンドが、心に染みるメロディを引き立てている。
9. Deadlines (Thoughtful)
「Deadlines (Thoughtful)」は、「Deadlines (Hostile)」とは異なるバージョンで、穏やかで内省的なサウンドが特徴。落ち着いたリズムが、考え込むような歌詞を引き立て、物憂げな雰囲気が漂う。
10. There Must Be More Than Blood
アルバムの中でもひときわ長いトラックである「There Must Be More Than Blood」は、静かに流れるようなビートとともに、自己探求と孤独がテーマに描かれる。メロディアスでありながらも、内面の深い部分をえぐるような歌詞が心に刺さる。
11. Famous
アルバムの最後を飾る「Famous」は、重厚なシンセとシンプルなリズムが絡む一曲で、閉塞感と自己憧憬がテーマとなっている。ウィルのボーカルが、音の中に溶け込むように響き、物憂げな余韻を残しながら幕を閉じる。
アルバム総評
「Making a Door Less Open」は、Car Seat Headrestの音楽的な新境地を切り開いた作品であり、エレクトロニカとインディーロックが融合した実験的なアプローチが際立っている。ウィル・トレドの鋭い洞察と独特の歌詞は健在でありつつも、エレクトロサウンドの導入によって、従来のファンにとっても新鮮に響く作品となった。愛や孤独、社会に対する反発といったテーマが、ポップでありながらも奥深いサウンドに乗せられ、Car Seat Headrestの新たな可能性が詰まっている。これまでのローファイサウンドを離れ、進化したCar Seat Headrestが楽しめる一枚である。
このアルバムが好きな人におすすめの5枚
A Moon Shaped Pool by Radiohead
エレクトロニカとロックが融合したサウンドで、深い感情表現が特徴。「Making a Door Less Open」と同様に繊細で実験的な音楽を楽しめる。
Depression Cherry by Beach House
ドリームポップの名盤で、エレクトロニカとインディーロックの融合が美しい。Car Seat Headrestの新たなサウンドと通じる柔らかさと奥行きがある。
Hot Thoughts by Spoon
エレクトロとロックが融合したアルバムで、Car Seat Headrestのファンにとっても新しい発見が多い。リズムとメロディの革新性が魅力。
American Dream by LCD Soundsystem
ダンスビートとインディーロックが混ざり合った一枚で、シニカルな歌詞とキャッチーなサウンドが共通。Car Seat Headrestの進化とリンクする部分が多い。
The Age of Adz by Sufjan Stevens
フォークとエレクトロを融合させた意欲作で、個人的なテーマと新しい音楽性が詰まっている。「Making a Door Less Open」に共鳴する実験的な一面が楽しめる。
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