発売日: 2010年9月10日
ジャンル: オルタナティブ・ロック、パワーポップ、ポップロック
概要
『Hurley』は、Weezerが2010年にリリースした8作目のスタジオ・アルバムであり、前作『Raditude』のポップな方向性から一転、よりシンプルでローファイなロック・サウンドへと舵を切った作品である。
タイトルとジャケットは、TVドラマ『LOST』の登場人物“Hurley”ことHugo Reyes(俳優:Jorge Garcia)の顔写真に由来しており、突き抜けたユーモアと脱力感を前面に押し出すWeezerらしい仕掛けとなっている。
このアルバムは、前作で賛否両論を呼んだ「ポップ化」への反動として、より自発的かつインディペンデントな制作体制の中で生み出され、過剰なプロダクションを排したナチュラルな音像が特徴である。
リリース元も大手メジャーから独立系のEpitaph Recordsに移り、バンドの姿勢としても“初心への回帰”が意識された一枚となっている。
全曲レビュー
1. Memories
アルバムの幕開けを飾る、疾走感あふれるパワーポップ・アンセム。
過去の甘酸っぱい思い出と現在のギャップをシンプルに描いた歌詞が、Rivers Cuomoの誠実な歌声とともに胸に迫る。
ジャッカスの映画『Jackass 3D』にも起用された。
2. Ruling Me
『Green Album』を思わせるキャッチーなギターポップ。
失恋相手への未練と願望がテーマだが、曲調はあくまで明るく爽やか。Weezerの王道スタイルを感じさせる佳曲である。
3. Trainwrecks
型破りな人生を肯定するような、反骨精神あふれる一曲。
「僕らは事故車、でもそのままでいいんだ」と歌うリリックには、諦念と自由が同居している。
4. Unspoken
アコースティックギターで静かに始まり、後半で爆発的に展開する構成が印象的。
未練や沈黙の中に潜む痛みを描くバラードであり、シンプルな中にもドラマ性が光る。
5. Where’s My Sex?
娘のソックス(靴下)を“sex”と間違えたという家族内ジョークから生まれた楽曲。
くだらない発想を真面目にロックで昇華するという、Weezerならではのユーモアと遊び心が全開。
6. Run Away
Ryan Adamsとの共作であり、エモーショナルで開けたサウンドが特徴。
控えめながらも心に残るメロディと、どこかアメリカーナ風の質感が新鮮である。
7. Hang On
マンドリンやチェロなどのアコースティック楽器が導入された異色曲。
自分自身を救い出すような歌詞が、リスナーにも静かな力を与える。
8. Smart Girls
The Beach Boysを彷彿とさせるハーモニーが散りばめられた軽快なポップチューン。
歌詞はやや単調だが、ポップスへの愛情が端々から伝わってくる。
9. Brave New World
パワーコード全開の骨太なロックナンバー。
シンプルな構成の中に、Weezerの初期衝動がにじむ。
10. Time Flies
アルバムのラストを飾る、ローファイ録音のフォークロック。
まるでカセットに録音されたかのようなざらついた音像が、時間の経過と人生の儚さを象徴する。
アンチクライマックスともいえる静かな終わりが、本作の精神性を象徴している。
総評
『Hurley』は、Weezerが一度ポップの極地へ踏み込んだ後、その反動として生まれた“回帰と解放”のアルバムである。
ハードでもエモでもなく、むしろ“生活感”や“親密さ”といった温度を感じさせる本作は、派手なヒット曲はないものの、ファンとの距離を縮めるような誠実さを帯びている。
プロダクション面ではあえて作り込みすぎず、歌詞もどこか日記的であり、Weezerの素朴な側面が全面に出た作品といえる。
同時に、それでも楽曲として成立してしまうところに、彼らのポップセンスの確かさも再確認できる。
メディアの中心からは少し外れた場所で、自分たちのペースで音楽を鳴らし続ける——そんな“中年の自由”が詰まった一枚なのだ。
おすすめアルバム(5枚)
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Weezer (Green Album) / Weezer
キャッチーなギターポップのエッセンスを再確認できる作品。『Hurley』のメロディ志向に通じる。 -
Love Is Hell / Ryan Adams
『Run Away』に通じる、哀愁とロックの融合を味わいたいなら必聴の一枚。 -
Let Go / Nada Surf
シンプルで誠実なロックサウンド。感情の温度感が『Hurley』と近い。 -
Dookie / Green Day
Weezerのユーモアや衝動性が好きなら、90年代ポップパンクの代表作であるこのアルバムも楽しめる。 -
The Life Pursuit / Belle and Sebastian
アコースティック楽器や柔らかなアレンジに惹かれたなら、本作のソフトな質感にも響くはず。
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