アルバムレビュー：All Quiet on the Eastern Esplanade by The Libertines

発売日: 2024年4月5日
ジャンル: インディーロック、ガレージロック、ポストパンク・リバイバル、ブリットポップ

騒がしさの果てに訪れた静寂——The Libertines、20年目の夜明けに見つけた“秩序なき調和”
全曲レビュー
総評
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騒がしさの果てに訪れた静寂——The Libertines、20年目の夜明けに見つけた“秩序なき調和”

『All Quiet on the Eastern Esplanade』は、The Libertinesが約9年ぶりにリリースした4作目のスタジオ・アルバムであり、初期衝動と耽美的混沌のなかにあった彼らが、成熟と緊張を抱えたまま“新たな秩序”を描こうとした帰還作である。
タイトルは言わずと知れた『西部戦線異状なし（All Quiet on the Western Front）』のオマージュだが、本作ではその視点を“東側”＝英国の辺縁（Margateの海辺）に転化し、静かなる戦線の裏で鳴り続ける内なる葛藤と和解の歌が描かれている。

プロデューサーにはThe ProdigyやBloc Partyを手がけたDrew McConnellを迎え、かつての荒削りなガレージ感を残しつつ、随所に洗練された構成力と深みを持たせたサウンドに仕上がっている。
また、バンド全員がヴォーカルとソングライティングに貢献するスタイルがより明確に打ち出され、“カオスと民主性”が同居する、現在のリバティーンズのあり方そのものが投影されたアルバムとなっている。

全曲レビュー

1. Run, Run, Run
スリリングなオープニング・ナンバー。逃走、追憶、反抗心——すべてが疾走するギターリフに込められ、かつての若気の熱がよみがえる。

2. Mustang
自由と破滅を象徴する“ムスタング”に乗って、どこにも辿り着けない疾走感。ピート・ドハーティのボーカルが哀愁と毒を織り交ぜて響く。

3. Have a Friend
カール・バラーが主導するミドルテンポの友情讃歌。「友がいるだけで、戦争の朝も越えられる」——そんな歌詞が、年輪を重ねた彼らの実感として響く。

4. Merry Old England
歪んだブリテン賛歌。伝統と腐敗、ノスタルジーと風刺が交錯する、バンド屈指の“英国的”ナンバー。

5. Man with the Melody
The Kinksを思わせるフォーク調のアレンジ。“旋律の男”という寓話的モチーフに、音楽に生きる者の悲哀と誇りが込められている。

6. Oh Shit
軽快なリズムとストレートな言葉で突き進む、まさに“口走り”のような勢いが魅力。 リバティーンズらしい即興性が生きた佳曲。

7. Night of the Hunter
夜と暴力、欲望を描くダークでシアトリカルな一曲。モノクロ映画のような構成美が光る。

8. Baron’s Claw
幻想的な中間部と轟音ギターの対比が印象的。“男爵の爪”という不気味なイメージを、自己破壊的な比喩として展開。

9. Shiver
寒さと孤独を描いたバラッド。弱音ではなく、静かな覚悟としての“震え”が描かれている。

10. Be Young
タイトルの裏腹に、“若さ”とは儚さであり、すでに去ったものだという認識が滲む。 それでもなお生きるための肯定がある。

11. Songs They Never Play on the Radio
アルバムを締めくくる内省的な楽曲。ラジオでは流れないが、人生の奥底でこだまする歌たち——それを私たちは“本当の歌”と呼ぶのかもしれない。

総評

『All Quiet on the Eastern Esplanade』は、混沌を愛し、破滅に手を伸ばしながらも、どこかで“再生”を信じていたThe Libertinesが、ついに“静かな夜明け”を迎えるための作品である。
彼らはもう若くはない。だが、その代わりに獲得したものがある。友情、回復、そして変わらぬ信念——それらが混ざり合い、かつてのノイズは今や歌になる。

リバティーンズにとって、これは“帰還”ではなく“変身”なのだ。
騒がしかったすべての時代に別れを告げるように、彼らは今、東の海辺で静かにギターを鳴らしている。