Generals and Majors by XTC(1980)楽曲解説

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1. 歌詞の概要

「Generals and Majors(ジェネラルズ・アンド・メイジャーズ)」は、XTC(エックス・ティー・シー)が1980年にリリースしたアルバム『Black Sea(ブラック・シー)』に収録された楽曲であり、彼らの代表的な政治風刺ソングのひとつとして知られている。タイトルの通り、“将軍たち”と“少佐たち”――つまり軍の上層部を皮肉的に描きながら、権力者の無責任な楽観主義と戦争の滑稽さを、ポップで軽快なサウンドの中に潜ませたシニカルな作品である。

この曲では、戦争を現実として体験する兵士や市民の苦しみではなく、安全地帯にいる軍上層部の無関心や虚無的なユーモア、そして“平和”を語りながら戦争に加担していく矛盾が風刺されている。曲調は明るく軽快で、思わず口ずさみたくなるキャッチーなサビに乗せて、そのブラックユーモア的なアイロニーがより際立つ構造となっている。

XTCが持つ知的ユーモアと社会批評性が前面に出た本作は、80年代のニュー・ウェイヴ・ポップの枠を越えた風刺のポップ・アートとして、今なおその響きを失わない。

2. 歌詞のバックグラウンド

「Generals and Majors」は、XTCのベーシストであるコリン・モールディングが書き下ろした楽曲で、XTCにとってはイギリスのチャートで初のTop 40入り(32位)を果たしたシングルでもある。この時期のXTCは、“実験性”から“社会性”への転換期にあり、『Black Sea』はその両面を高度に融合した、ポリティカルでありながら洗練されたポップ・アルバムとなった。

1980年という時代背景も、この楽曲の風刺性に強い輪郭を与えている。冷戦下の核緊張、イギリス国内のサッチャー政権による保守化、フォークランド戦争前夜の軍備増強など、“戦争”というテーマが空想ではなく現実の足音として迫っていた

この曲のプロモーション・ビデオでは、軍服を着たバンドメンバーが戦場を戯れるように歩き回る姿が描かれ、戦争をゲームのように扱う上層部の感覚を視覚化した滑稽さが強調されているXTCの風刺は、決して怒鳴らない。むしろ楽しげに踊るようにして、権力を笑うのである。

3. 歌詞の抜粋と和訳

Generals and Majors always seem so unhappy ‘less they got a war
将軍たちや少佐たちは、戦争でも起こらない限り不機嫌そうだ

Generals and Majors, ah, like never before, are tired of being actionless
将軍たちや少佐たちは、行動のない日々にもううんざりなんだ

Calling Generals and Majors
呼び出されるのは、いつだって将軍や少佐

Generals and Majors
そう、彼らだ

Always seem to be in the know
いつも“事情通”ぶってるよな

Generals and Majors, uh huh
将軍と少佐、うんうん

They’re never too far
いつだってどこかにいる

From battlefields so glorious
“栄光の戦場”の近くに

(参照元:Lyrics.com – Generals and Majors)

この軽快な反復の中に、**“平和時における軍の無用さ”と“戦争を待ち望む倒錯した欲望”**が、痛烈な諷刺として刻まれている。

4. 歌詞の考察

「Generals and Majors」が描くのは、戦場に血を流す者たちではなく、戦争を“構想”する者たちの不気味な微笑である。彼らは戦争を避けようとしない。むしろ、戦争がなければ存在理由を失ってしまう。
そして、そうした**“職業軍人のアイデンティティ”に対する批判**が、極めて滑稽なかたちで表現されている。

歌詞中の「tired of being actionless(動きのないことにうんざり)」という一節には、平和であることを耐えられない心理、すなわち“戦争待望症”とも言える精神性が浮かび上がる。これは、現実の政治や軍事においてしばしば見られる構図――実戦経験のない者ほど戦争を熱望するという風刺であり、どこかの国の現実をも思い起こさせる。

また、「battlefields so glorious(栄光の戦場)」という言葉は、戦争を美化する言説への批判として機能している。栄光とは誰のものか? それは本当に“美しい”のか? そういった問いを、ユーモアという覆面を通して突きつけてくるのがXTCの流儀である。

音楽的には、パーカッシブなドラムとギターのカッティング、そしてどこかマーチ風のフレーズによって、軍楽のようでありながら皮肉なパロディにも聞こえる構造が取られており、まさに「内容と形式のアイロニカルな一致」を体現している。

5. この曲が好きな人におすすめの曲

  • Oliver’s Army by Elvis Costello
     ポップなメロディに乗せて、帝国主義的軍事介入を痛烈に皮肉る傑作。

  • Two Tribes by Frankie Goes to Hollywood
     冷戦構造をダンスビートで風刺した、戦争と消費社会のコラージュ。
  • Sunday Bloody Sunday by U2
     暴力と無関心に対して怒りと悲しみを込めた、感情のこもったプロテスト・ロック。

  • Shipbuilding by Robert Wyatt / Elvis Costello
     戦争によって繁栄する造船業への矛盾と良心を静かに問う反戦バラード。

  • Life During Wartime by Talking Heads
     戦時下の日常を皮肉とユーモアで描く、アーバンなニューウェイヴの異色作。

6. “ポップの仮面を被った反戦声明”

「Generals and Majors」は、XTCがいかにポップミュージックの中に社会的メッセージを巧みに埋め込んでいたかを象徴する作品である。

この曲が素晴らしいのは、怒りに満ちているのに、怒鳴らないこと。
軍服を着た者たちを、声高に否定するのではなく、笑って見せることの怖さと賢さを持っている。

軽快なメロディに身を任せて聴いていたはずが、ふと歌詞に耳を澄ませると、
そこにあるのは戦争の美化、権力の傲慢、無自覚な暴力性に対する冷ややかな観察だ。

そしてそれは、今この瞬間にもなお通用する、**“ポップの仮面を被った警鐘”**である。
XTCはこうして、踊らせながら、考えさせる。
それが彼らの“戦い方”であり、「Generals and Majors」はその戦法が最も鋭く決まった瞬間のひとつなのである。

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