- 発売日: 1980年5月16日
- ジャンル: New Wave、シンセポップ、ポストパンク
Devoの3作目となるアルバムFreedom of Choiceは、1980年代に突入した彼らの「脱進化」思想を、より洗練されたシンセポップサウンドで表現している。前作Duty Now for the Futureでの無機質な雰囲気はそのままに、今作ではメロディックでポップな要素が強化され、リスナーによりアクセスしやすい作風となっている。Freedom of Choiceは、社会の中での選択と自由をテーマに、ディストピア的な未来観を映し出している。自らの選択があるようで、実はその選択肢もまた操作されているという冷徹な視点は、Devoらしい皮肉であり、このアルバムが一貫して伝えるメッセージだ。
本作はまた、彼らの代表曲である「Whip It」を生み出し、Devoをメインストリームに押し上げた。Freedom of Choiceの軽快でキャッチーなビートと冷ややかな歌詞の組み合わせは、1980年代の音楽シーンに新風を吹き込んだ。Devoはここで、ポップと風刺を絶妙に融合させ、自己反省と消費主義に対する批判を突きつけている。
トラック解説
1. Girl U Want
アルバムのオープニングを飾るキャッチーなポップチューンで、エネルギッシュなシンセリフと歪んだギターが特徴。表面上は恋愛ソングのように聞こえるが、その裏には人間関係の表面的な欲望が暗示されている。「欲しいもの」に対する消費社会の執着心を風刺している一曲。
2. It’s Not Right
アップテンポなビートと繰り返されるコーラスが、拒絶や不満を表現。リズムは軽快だが、歌詞では社会や個人に対する違和感が表現されており、そのギャップが面白い。機械的なサウンドが人間の感情とのズレを強調している。
3. Whip It
Devoの代表曲にして、1980年代のポップカルチャーに深く根付いたナンバー。キャッチーなシンセリフとリズムは、どこかコマーシャルな魅力を持ちながらも、自己啓発のスローガンのような歌詞が皮肉に響く。困難に立ち向かうことの表面的なメッセージの裏に、社会からの圧力や「自由」に対する制限が見え隠れする。
4. Snowball
冷淡なサウンドが特徴で、淡々としたボーカルが無気力な感情を醸し出している。「雪だるま」になぞらえて、止まることのない欲望や依存を暗に示しており、リズムの単調さが無限に続く消費社会のサイクルを表現しているかのようだ。
5. Ton o’ Luv
軽快なメロディとギターリフが印象的で、タイトル通りに「大量の愛」について歌っているが、その実、愛が物理的なものであるかのような皮肉が込められている。欲望が肥大化し続ける現代社会への批評が垣間見える一曲。
6. Freedom of Choice
タイトル曲であり、アルバムのテーマを象徴する一曲。選択の自由という概念を皮肉り、実際には制約された選択肢しかないことを示唆している。冷静なシンセサウンドと簡潔なリズムが、リスナーに自由の幻想とその限界を問いかけている。
7. Gates of Steel
強いリズムとシンセが力強く響く一曲で、個人の自由や抵抗のテーマが描かれている。強烈なコーラスとエネルギッシュなアレンジが、抑圧への挑戦心を感じさせる。Devo流のアンセムといえるだろう。
8. Cold War
冷戦時代の緊張感を反映した曲で、不協和音のようなシンセと無機質なビートが特徴。冷たい世界情勢を風刺し、個人間の冷えた関係を暗示している。冷戦を背景にした不安と緊張感が色濃く表れている。
9. Don’t You Know
ミニマルなビートと軽快なメロディが調和し、シンプルでキャッチーな一曲。恋愛や欲望についての疑問を投げかける歌詞で、軽やかさの中に複雑なテーマが垣間見える。反復するフレーズが中毒性を生む。
10. That’s Pep!
軽快でテンポの良いトラックで、スローガンのように「元気」を奨励する内容。Devoらしい皮肉が込められており、楽しい曲調にもかかわらず、無理にポジティブを強いられることの空虚さが感じられる。
11. Mr. B’s Ballroom
変則的なリズムと跳ねるようなシンセのリフが特徴的。タイトルの「Ballroom」は一種の逃避場所を象徴しており、自由や喜びを求める人々の虚しさを風刺的に描いている。リズミカルなサウンドが不思議な浮遊感を生む。
12. Planet Earth
アルバムを締めくくるこの曲は、地球に住む人類に対する冷徹な観察を表現している。環境問題や社会の荒廃を暗に描写し、Devoの未来的な視点と批評精神が際立つ。「地球」という大きなテーマを通じて、Devoの冷静な目線を感じさせる一曲。
アルバム総評
Freedom of Choiceは、Devoがその思想をさらにメロディアスに昇華し、ポップシーンでの地位を確立した作品である。シンセポップとしての側面が強調されつつも、Devoの冷ややかな皮肉とユーモアは健在で、ポップさと批評性が絶妙に融合している。選択の自由というテーマは、現代社会における制約された自由と消費社会の矛盾を暴き出し、リスナーに問いかける。時に耳に残るポップなビートに誘われつつ、気づけばその深層にあるDevoの厳しいメッセージが突き刺さる、そんなアルバムである。
このアルバムが好きな人におすすめの5枚
- Remain in Light by Talking Heads
Brian Enoとのコラボレーションによる実験的なサウンドと鋭い批評性が特徴。Devoと同様、現代社会を冷徹に観察する視点が共通している。 - Vienna by Ultravox
シンセポップとニュー・ウェーブの美しさが融合し、冷たいサウンドと未来的なテーマが魅力。Devoのようにディストピア的な視点が垣間見える。 - Computer World by Kraftwerk
テクノと電子音楽の先駆者として、未来社会を描いた作品。無機質で機械的なサウンドがDevoの音楽とも通じる部分が多い。 - Clues by Robert Palmer
シンセポップとニューウェーブの実験的な要素が盛り込まれた作品で、デジタル時代の到来に対する不安感が漂う。 - The Pleasure Principle by Gary Numan
シンセサウンドと冷ややかな歌詞が特徴的で、ポストパンク的な未来観がDevoファンに響くだろう。無機質で未来的なサウンドが共鳴する。
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