発売日: 1987年7月7日
ジャンル: スラッジ・メタル、ハードコア・パンク、ノイズ・ロック
- 重く、遅く、そして破壊的——Melvinsが築いたスラッジ・メタルの礎
- 全曲レビュー
- 1. Eye Flys
- 2. Echo Head
- 3. Don’t Piece Me
- 4. Heater Moves and Eyes
- 5. Steve Instant Newman
- 6. Influence of Atmosphere
- 7. Exact Paperbacks
- 8. Happy Grey or Black
- 9. Leech
- 10. Glow God
- 11. Big as a Mountain
- 12. Heavyness of the Load
- 13. Flex With You
- 14. Bitten Into Sympathy
- 15. Gluey Porch Treatments
- 16. Clipping Roses
- 17. As Was It
- 総評
- このアルバムが好きな人におすすめの5枚
重く、遅く、そして破壊的——Melvinsが築いたスラッジ・メタルの礎
1987年、Melvinsはデビューアルバム『Gluey Porch Treatments』をリリースし、音楽史に新たなジャンルを打ち立てた。それが、のちに「スラッジ・メタル」と呼ばれる、ヘヴィメタルとハードコア・パンクを融合させたスタイルである。
当時のハードコア・パンクはスピードと攻撃性を重視し、メタルはテクニカルな演奏と壮大な構成を追求していた。しかし、Melvinsはこれらの要素を逆転させ、ハードコアのエネルギーを保持しつつ、テンポを極端に落とし、圧倒的なヘヴィネスを追求した。
このサウンドの基盤を築いたのは、フロントマンのバズ・オズボーン（ギター／ボーカル）、ベーシストのマット・ルーキン（後にMudhoneyへ加入）、そして強烈なドラミングでバンドの核となったデイル・クローヴァーである。クローヴァーの重く、正確で、破壊的なドラムスタイルは、本作のヘヴィネスを決定づける要素となっている。
このアルバムは、後のグランジ・ムーブメント、特にNirvanaのカート・コバーンやSoundgardenのクリス・コーネルにも大きな影響を与え、90年代オルタナティブ・ロックの土壌を作った作品でもある。
全曲レビュー
1. Eye Flys
アルバムの幕開けは、異常に長いイントロを持つスローヘヴィなナンバー。反復するベースラインと、バズ・オズボーンのダークなボーカルがまるで重力に引きずり込まれるような感覚を生み出す。後のスラッジ・メタルの原点とも言える曲。
2. Echo Head
激しさと不安定なリズムが交錯する短い楽曲。ハードコア・パンク的なアグレッションが感じられる。
3. Don’t Piece Me
Black Flagの後期作品を思わせる、ノイジーで攻撃的なサウンド。ギターリフは単純ながら、反復されることで強烈な中毒性を生む。
4. Heater Moves and Eyes
サイケデリックな要素を含む異色のトラック。バズのボーカルが幽玄な響きを持ち、後のMelvinsの実験的な方向性を示唆する。
5. Steve Instant Newman
短く、シンプルながらも強烈な一撃。ハードコアとスラッジの狭間にあるような楽曲で、デイル・クローヴァーのドラムが特に印象的。
6. Influence of Atmosphere
スローテンポのグルーヴが強調された曲で、まるでヘヴィメタルのリフをパンク的な感覚で解体したような楽曲。
7. Exact Paperbacks
実験的なリズムと不協和音的なギターが特徴的。Melvinsのノイズ・ロック的な側面が垣間見える。
8. Happy Grey or Black
ヘヴィなドラムとグルーヴィーなリフが絡み合う。曲の展開が急激に変化し、意外性のある構成が面白い。
9. Leech
Mudhoneyのマーク・アームによる作曲で、後にMudhoneyもカバー。パンクとスラッジの要素が絶妙に融合した楽曲。
10. Glow God
イントロから歪みまくったギターが炸裂。シンプルなリフの反復が不気味な高揚感を生む。
11. Big as a Mountain
タイトル通りのヘヴィネスを持つ曲。Black Sabbathをさらに引き伸ばして、異様なまでにダークにしたような雰囲気。
12. Heavyness of the Load
ダウナーなムードが漂う楽曲。終盤に向かってのビルドアップが印象的。
13. Flex With You
アップテンポのパンク的な楽曲で、異常に短いが、アルバム全体の緊張感を引き締める。
14. Bitten Into Sympathy
スローながらも強烈なリズムが特徴的。デイル・クローヴァーのドラミングが圧倒的な存在感を放つ。
15. Gluey Porch Treatments
アルバムタイトル曲。混沌としたサウンドスケープの中に、奇妙なユーモアが垣間見える。
16. Clipping Roses
リズムが変則的で、どこかジャズ的な影響も感じられる。Melvinsの音楽の多様性が伺える楽曲。
17. As Was It
アルバムの最後を飾るトラックで、ヘヴィなリフと不穏な雰囲気が漂う。突然終わる構成も独特。
総評
『Gluey Porch Treatments』は、スラッジ・メタルの原点であり、のちのグランジやドゥームメタルに影響を与えた歴史的な作品である。
本作で確立された**「遅くて重い」サウンドは、Black Sabbathの影響を受けながらも、ハードコア・パンクの精神と融合し、メタルの複雑な構成を排除したシンプルなリフの反復が特徴となっている。このスタイルは後にEyehategod、Crowbar、Neurosis、さらにはSunn O)))やBoris**といったバンドにも受け継がれていく。
また、シアトルのグランジ・シーンにも大きな影響を与え、Nirvanaのカート・コバーンはこのアルバムを「人生を変えた一枚」と語っている。実際、Melvinsのサウンドは『Bleach』期のNirvanaにも色濃く反映されており、シアトルのサウンドを形作る重要なピースとなった。
本作は決してキャッチーではなく、一般的なロック・リスナーには聴きづらいかもしれない。しかし、ヘヴィミュージックの進化の歴史をたどる上で欠かせない作品であり、実験性と攻撃性を兼ね備えた、唯一無二のアルバムである。
このアルバムが好きな人におすすめの5枚
- Black Sabbath – Master of Reality（1971年）
ヘヴィなリフの反復というコンセプトの原点。 - Neurosis – Through Silver in Blood（1996年）
スラッジ・メタルとポストメタルの融合。 - Eyehategod – Take as Needed for Pain（1993年）
スラッジ・メタルをより暴力的に進化させた作品。 - Nirvana – Bleach（1989年）
Melvinsの影響が色濃い初期グランジの名盤。 - Boris – Amplifier Worship（1998年）
Melvinsの遺伝子を受け継いだ日本のドローン／スラッジの名作。
『Gluey Porch Treatments』は、ヘヴィミュージックの歴史を語る上で避けては通れない一枚である。
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